12 緊急ミッション「敵を足止めする(3ターン)」1ターン目
緊急ミッション「敵を足止めする(3ターン)」が点滅しているのを見やって、
俺はアメリカ人みたいに肩を竦めた。
おいおい、あいつを足止めするって、
いったいどうやって?
足を止めろと言われても、
俺たちはその足に今まさに踏みつぶされようとしているんだぜ?
ビヒーモスの
幅60メートル程度の巨大な足が、
俺たち第五十勇者連隊の頭上に影を落としていた。
このままだと間違いなく過半数がやられる。
俺たちが常に1連隊5000人で固まっているのには意味がある、
あまりに少なすぎる人数だと、ビヒーモスの攻撃の標的にはならないのだ。
少なくともドラゴン級か、魔法連隊ぐらいのダメージを与えられる頭数をそろえていないと、敵と認識してもくれないだろう。
まさに体に這い登るアリのように無視され、施設を破壊されるだけだ。
そう考えると、俺はただ頭数を揃えるためのカカシだったのではないか、という気がしてきた。
つまり、実際に俺の与えるダメージがゼロだったところで、
ドラゴンにとっては他の25万人の勇者と見分けなどつかないだろう。
兵馬俑みたいだな。
まさに、水増し要員という訳だ。
立ち止ってなど居られなかった、
とにかく、前進し続けなければならない。
同じ勇者の格好をしたスキンヘッドが、
ぐるっと振り返り、俺たちに言った。
「二手に分かれろッ! 先に復活したい奴は俺についてこいッ!」
そう言って、スキンヘッドは流れとは逆に動きながら、鉈のような剣を大きく持ち上げた。
あれは飛龍のツメより強い装備なのか。
ハゲ頭が光った、次の瞬間、
俺たちの体が薄い金色の光に包まれ、移動速度が一気に加速した。
どうやらあのスキンヘッド、味方を加速させる魔法が使えるらしい。
自信と態度と能力を兼ね備えている。
まさに勇者の鑑だった。
前の世界でもさぞかし名のある英雄だったか、あるいはこの世界に召喚された古参の勇者だったのか、どちらかだろう。
ダッシュ速度が通常の倍近くになった俺は、
一瞬でも逃げ遅れたくなかったため、
とにかく前へと進んでいった。
第五十勇者連隊が真っ二つに別れ、
別のグループに分かれたスキンヘッドは、すでに遥か遠くにいて、
指を二本くわえ、
鋭い指笛を鳴らした。
俺のゲーム的知識からすると、
あれは『挑発』だ。
さすがスキンヘッド、『挑発』の効力も抜群だった。
ビヒーモスの頭は、
2000人程度しかいないスキンヘッドの方に向いた。
だが、
次の瞬間には、
上から突然、燃え盛る岩石の雨が降ってきて、
スキンヘッドのグループはそのまま1ターンも稼げずに、
砂礫の雨の中に、消えてしまった。
何事かと思ったが、
どうやら振り回されたビヒーモスの尾が、
すぐ背後の高台を引き裂いていたらしい。
死亡数 3万勇者
さっきより2000人増えていた。
100メートルもの高さの高台が、本格的に崩落している。
あそこの転移門は当分使えそうにない。
それどころか、その岩石は豪快に飛び散り、俺たちの方にまで降ってくる。
……はいはい、どうせこんな所だろうと思ってましたよ。
いいんだよ、俺は端から希望なんて持ってなかったんだから。
生き残った俺たちも、この石つぶてを浴びれば、
間違いなく過半数を割るだろう。
そうなれば陽動は不可能だ。
第五十勇者連隊は3ターンどころか1ターンで終わりそうな気配だった。
そう思っていると、
「まだだ、諦めるな! いったん体勢を立て直せッ!」
そのとき、
耳の尖ったエルフ風イケメン勇者が、
スキンヘッドとまったく同様に
指を二本くわえ、
鋭い指笛を鳴らした。
音程も何もかも、スキンヘッドとまったく同じ鳴らしかただった。
ビヒーモスの注意をふたたび引きつける。
エルフ勇者は、コピー能力でも持っていたのか、
いや、ひょっとして、
あいつはスキンヘッドの仲間だったのか、そんな雰囲気だった。
……本物の勇者の周りには、本物の勇者が集まる。
類は友を呼ぶ、
それはどこの世界に行っても、変わらぬ真実のようだ。
「……いでッ!」
走って逃げている途中、狼の顔をした勇者が、すれ違いざまに俺の肩にぶつかってきた。
同時に、青い霧のような光の膜が俺の体を包みこむ。
何をするのかと思ったが、そいつは無表情に俺の顔を一瞥すると、素早く去って行った。
直後に、俺は背後から降ってきていた隕石群のような無数の石つぶてを浴び、
背筋を突き抜けるような苦痛に顔を歪めた。
ビヒーモスの豪腕が、遥か上空で、異様に長くしなる。
鋭い爪が前方の岩壁を抉り、前方からも大量の瓦礫が降ってきた。
大量の瓦礫に埋もれた俺は、なんとか一命を取り留めていた。
砲丸のような衝撃があったのに、思ったより傷が浅い。
光の膜が、まだ俺の体を包んでいる事から、
どうやらさっきの狼勇者は、
魔法で俺の防御力を上げていってくれたようだ。
これが辻プロテクトという奴か……。
助かった、というか……俺の基礎体力があまりに無かったせいで、
動けない程度に痛めつけられる残念な結果に終わっていたが……。
また楽に死ねないのか……。
ちくしょう……なんて余計な事をしてくれたんだ。
死亡数 3万1000勇者
から、
死亡数 2万6000勇者
へと切り替わり、
……ようやく1ターン終了。
成果は、2000人の増加と、4つあるうちの転移門ひとつの破壊に終わった。
陽動部隊は……マップを見ると、塊になって動いている。
過半数を割っていない、どうにか続いているらしい……。
果たして成功するかどうかは知らないが、
まあ、俺は一刻も早く死ねるのを待つしかないだろう。




