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100 絶望の世界の太陽

 勇者メリッサに指示された場所を目指して、俺は格納庫Cへと飛んだ。

 格納庫ABCはそれぞれビヒーモスが体当たりで空けた100メートル近い大穴で連結されている。


 格納庫Cは恐ろしい事に、1時間前に来たときより気温が上昇していた。

 全身から灼熱の熱気を放っているビヒーモスの姿を横目に、まるでサウナみたいに蒸し暑い格納庫Cを通り抜け、壁に空いた大穴をくぐっていく。


 長大な格納庫Bに出ると、高台の上の方で、ちらほらと勇者達がドバル戦術のデータを採集しているのが見える。

 やはり戦術データを取るだけなら、こちらでやった方が効率はいいのだろう。


 勇者アリスの姿を見つけたが、俺は黙ってそこを通り過ぎていった。

 ただひたすら、懸命に岩を空に浮かせてはその上に乗るを繰り返している1000人以上の特殊勇者達を横目に、俺はさらにその奥にある大穴をくぐっていく。


 ほとんど明かりのない、薄暗い格納庫A。淀んだ空気に少しむせかえった。

 無限ループの亀裂に落ち込まないように、さらに奥へと進んでいく。

 見上げると、壁の上の方に、ぽっかりと真っ暗な大穴が開いていた。


 30メートル近い絶壁の途中に穴があって、ジャンプを使わなければ侵入する事が出来ない。

 おそらく、ビヒーモスが外から侵入してきた穴、侵入経路だ。


 ……侵入経路。

 今まで深く考えていなかったが。

 つまり、これは『外』に通じているものだ。


 勇者マキヒロ:メリッサ、ここであっているか。


 RYU-08920:はい、そのまま通路の奥に向かってください。


 メリッサはこの地下施設のマップに詳しかった。

 地図でも見ているかのように、なんなく俺を外へと誘導していく。


 勇者マキヒロ:良く分かるな。ひょっとして初期メンバーなのか。


 メリッサは、それには答えなかった。

 不審に思ったが、今はそんな事を聞いている場合ではないだろう。


 ビヒーモスの侵入経路は、これまでの大穴より横幅がかなり広かった。

 壁にはツメでひっかいたような痕跡があって、いくらか間隔をあけて、鉄門の残骸のようなものが建っている。


 マップ上に、緑の点がちらほらと浮かんでいる。

 水門のような重たい門扉の手前に、歩兵勇者が大勢で並んでいた。

 彼らは、俺に手をかざして、制止を呼びかける。


「まて、ここから先は戦闘区域外になっている」


 RPGっぽい門番だ。

 主人公の通行を制限する、お約束のイベント。


「えーと、ひょっとして通行制限とかあんの?」


「いや、外は寒いから忠告しただけだ。いちおう門を塞ぐクエストを完了して、ここを拠点に雑魚退治をしている」


 ……と思ったが、別に彼らは俺の前に立ちふさがるつもりではないらしい。

 戦闘区域外にも自由に出られるとか、勇者の裁量は少々みとめられ過ぎだな。


「いちおう、名前は訊いても良いか」


「勇者マキヒロ」


 俺が名前を告げると、暫く彼らは絶句していた。


「どうする、これ外に出たら死ぬぞ」「ヤバい」


 HP9の事を見て言っているんだろう。

 口々に騒ぎあっていた彼らは、俺に魔法のようなものをかけた。


 白いもやのようなものが俺を包んで、寒さが多少和らいだ心地がした。

 デバフをかけてくれたみたいだ。有り難い。


「脱色した金髪の勇者が、ここから外に出ていったと思うんだけど?」


「いや、見なかったな。俺らは20分前ぐらいに交代したばかりだから、良く分からないが」


「……わかった、ありがとう」


 ともかく、待ち合わせ場所に行かないことには、何も始まらない。

 俺が門の前に立つと、門番勇者達がマントの襟を立て、顔のまわりをぎゅっと覆った。

 門の隅っこにあるドアの取っ手を握りしめ、力強く手前に引っぱる。


 すると外から、白い蒸気のようなものが流れ込んできた。

 通路が凍てついている。

 角度も急勾配の上り坂が、2キロほど続いた先。

 真っ暗闇の先に、星の浮かぶ夜空が見えていた。


 ……外は夜か。


「気を付けろよ、戦闘範囲外で死んだら、いつもみたいに蘇生できないからな」


 門番勇者達に見送られて、俺は戦闘範囲の外へと踏み出していった。

 どんどんその出入り口に近づいて行くにつれ。

 次第に空気が肌寒くなっていくのを感じた。


 気のせいか、冷たい氷のにおいが混じっているみたいだった。

 いや、気のせいなんかじゃない。

 息を吐くと、その息は真っ白に輝いていた。


 さっきの格納庫Cとの温度差で、ずきずきと頭が痛み始める。

 急にクーラーのガンガンきいた部屋に入ったときの、あの感覚がする。


 心なしか空気が薄くなったような気がして、意識的に呼吸をしながら、さらに出口へ進む。


 ――外に出ると、そこは、一面雪と氷に閉ざされた世界だった。


「……これがフィース・ワールドか」


 初めて見るこの世界の地表は、想像以上にキレイだった。

 眼下には白銀の雪が、砂漠みたいに山や谷を作りながら、延々と広がっていた。

 常に風が吹いて、丘の上から降り積もった雪を舞い上がらせ、視界を煙らせている。


 空には満天の星空が広がっていて、月らしきものは見当たらないが、地球の月夜ぐらいには明るかった。


 恐ろしい寒さに、唇がかさかさに乾いていた。

 ――こんな所で、勇者クレゾールと落ち合うのか。


 迂闊に、一歩外に出てしまえば、方角もきっと分からなくなるだろう。


 ぎらぎらと輝く星の群れを見上げながら、不意に、星の群れが不自然に途切れているのを見つけた。

 たぶん、光をまったく通さない、真っ黒い球形の何かが空にぽっかりと浮かんでいる。

 そのせいで、星の光が遮られて、そこだけぽっかりと穴になっているのだ。


 目をこらしても、それが何かは分からない。

 あれは一体なんだ……。


 勇者マキヒロ:メリッサ、一応外に出たけれど、空に何か浮かんでる。何だ。


 RYU-08920:何がでしょうか。ひょっとして、球形の真っ黒い、大きな天体みたいなものでしょうか。


 勇者マキヒロ:それだ。心当たりあんのか。

 

 RYU-08920:はい、この世界の太陽です。


 ……太陽。

 ……ちょっとまて、あれが太陽だって。


 俺は、ぼんやりとその黒い天体を見上げた。

 鉄で塗り固められたような、どす黒い、冷たい球体。

 地球のものより若干大きいが……確かに、それは太陽っぽい何かだ。


 RYU-08920:悪の召喚師マイコフのもたらした、16の災害のひとつに、太陽封印というのがあります。


 RYU-08920:小惑星をいくつか召喚して、太陽を小惑星で埋め立てたそうです。


 悪の召喚師か……。

 聞いた事のある名前だった。

 確か、バージリーが言っていた。

 この星を死の星にしたという張本人。


 なんてこった。

 久しぶりに、太陽が出ている時に外に出たっていうのに。

 太陽が死んでやがる。


 俺はぼんやりと、その全球埋め立て地になってしまった太陽を見上げ、思った。


 ……てことは、今、お昼ぐらいだったのか。

 やべぇ、アニメ見逃したな……。

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