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09 再召還までのインターバル・後半

 このゲームから逃亡する事もかなわず、リセットする事もかなわず。

 無限ループにはまってしまった俺は延々と落下しつづけていた。


 俺と一緒に無限ループにはまった勇者ドバルは、


 とてつもなく、うざかった。


「女勇者もいいよなー! ケモミミとか幼女とかあって、萌え要素アリアリじゃんか、正直、俺このミッション終わったあとの事考えると、ワクテカがとまんねぇんだよ! だろ!?」

「だろ!? じゃねーよ! お前は一体どこの紳士的な国から来たんだよ!?」

「なんだよお前、こういうのにどこ出身とか関係あるかよ! 勇者なら、ハーレムだろうが!」


 俺は勇者ドバルの秘めたるオタク気質に驚かされた。

 まずい、まずい、こいつ早くなんとかしないと。

 この世界に希望なんて抱くだけ無駄だ、そう分からせてやらなければならない。


「甘い! お前はポジティブすぎるんだよ! 想像してみろよ、俺みたいな能力無しで根性無しの役立たずが、両脇に女の子はべらせてデートする所とか、ソフトクリーム両側からぺろぺろしてる所とか、意志薄弱なくせにあの怪物に立ち向かってわざわざ他の連中の足引っ張る所とか! そういうのって、怖気が走ると思わないのかッ!」

「いやいやいや、そういうのこそ現実にはよくあるんだって! だってお前、リア充(MPゼロ)勇者だぜ!? この世界でもすげぇ珍しいし、むしろ何かがない方がおかしいよ!」

「ねーよ! それ、召喚されて一時間たらずで否定された希望だよ! この世界はな、魔物に攻められててとにかく人手不足だったんだ、俺を呼び出した召喚師も寝てる間に勇者を呼び出す間抜けをするような初心者だったんだ、どうせなんかの手違いってとこだろ!」

「だからこそ、絶対なんかあるんだって! お前の髪色も目の色も珍しい黒だし! 異世界トリップ物じゃそういうの王道パターンなんだぜ!? な!?」

「くっそ、創作物の話かよ! 夢見させんな! 希望なんて、大っ嫌いだ!」


 俺は変な汗を掻きはじめていた。

 てか、こいつの世界の感性、けっこう親近感が持てるんだが。


「てかさ、お前ひょっとして召喚師ルート一択なわけ?」

「お、おう……!?」


 俺はなぜか異様に動揺した。

 勇者ドバルは俺の肩に腕を回し、馴れ馴れしい態度で言ってきた。


「バーカ! 隠すなよ、勇者が召喚師さまに恋すんのは男の子なら普通なんだよ! いいか、召喚師さまってのはな、この世界における母親みたいな存在だぜ!? この世界に勇者を誕生させるのも、この世界の事を教えてくれるのも、食糧を与えてくれるのも、育ててくれるのもぜんぶ召喚師さまだ! ほら、男の子は最初、母親に恋するって言うだろ!」


 勇者ドバルに言われるまで、気づかなかった。

 そう言えば、この世界における召喚師は、母親の役割とまるで同じなのだ。


「正直に言えよ、お前も前の世界で母親に召喚されたとき、母親に恋しただろ!? あ、そうか、そう考えると俺たちのお袋ってみんな召喚師だったんだ! お袋ってすげぇ!」

「ち、ちがうだろ!? 召喚って言うのは普通、スキルが付与されてたり、なんか特殊な能力が身についてたり……! この世界は水増し感が凄くてあれだけど、チート能力がついてくるもんだろ、最低でも、前の世界の記憶があったりするもんじゃないか! 俺が欲しかったのは、そういう召喚だったんだよ! こんな召喚はなんかの間違いだ!」


 そうだ、俺は何も貰えなかった。

 この世界でも、前の世界でも。

 召喚された時に何も貰えなかった、だから、どちらの世界でもクズのままだった。

 いや、違う。

 貰えなかったんじゃない、俺が得られなかっただけだ。

 あるいは失っていったんだ。

 希望が絶望に転化する世界で、全てを失っていったんだ。


 満面の笑みを浮かべたバージリーに言ってやらなければならなかった。

 どうして俺をこの世界に召喚したんだと。

 お前にとって俺は唯一の勇者でも、

 俺はお前の唯一の勇者になんかなれない。

 だから何度も言っているように、

 希望を抱いても、絶望するだけだと。

 帰る前にひと言、そう言ってやらなければならない気がした。


「ひゅーひゅー、お前それ、ぜーったい、召喚師様に恋してんだ・ZE!」

「うっぜええええええ!」

「正直に言えって! あれなの、やっぱりリア充勇者って召喚された途端にラッキースケベとかあるわけ!? 人の召喚師も寝取っちゃったりするの! うっわー、やっば引くわ-! リア充勇者マジ引くわー!」

「お、お、お前、ひどい誤解をしているぞ!? 勝手な想像で引くなよ! 俺はこの世界に希望なんて欠片も持ってねぇよ、だいたい召喚師なんか狙ってもいねーし!」

「狙ってはいないけど嫌々ながらハーレム展開に巻き込まれました系なんだ! くそー、マジ引くわー!」


 勇者ドバルのウザさは折り紙つきだった。

 なんだか前の世界との既視感を覚える性格だから、なおさらタチが悪い。


 途中、他にも無限ループにはまった勇者を見つけ、勇者ドバルはそちらへ泳いでいった。

 飛竜のツメを使えばいいのにわざわざ平泳ぎをしながら空間を横切り、先ほどと同様に勇者に抱きついて驚かせている。

 無限に落下し続ける俺は、ぼんやりとその姿を見ていた。


 もう落下し続ける恐怖にもだいぶ慣れてきた。

 恐怖にさらされ続けて、感覚が麻痺してきたのかもしれない。

 早く召喚してここから助け出して欲しい所である。

 しばらくして、勇者ドバルはそいつらを俺の方に連れてきた。

 片方は茶髪の魔法使い、勇者シモン。

 もう片方は金髪の剣士で、勇者クレゾールと言った。名前を聞いたとたんに金髪が脱色にしか見えなくなった。


「ええっ、ひょっとして、君リア充なの!? なんでリア充がこんな世界にいんの!?」

「ねぇねぇ、いまどんな気持ち!? ぷーくく、異世界に召喚されて、どんな気持ち!?」


 ウザイのが増えただけだった。

 この世界にはほとほと絶望しかない。

 恐怖のインターバルは、それから5分ほど続いた。

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