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序章 序章という名のマキヒロの独り言

 異世界フィースワールドに召喚される前の俺について、ここでは詳しく語らない。

 そこでの俺もそれなりに絶望的な状況に陥っていたが、

 そんなもの、この世界の絶望にくらべれば、紙切れほどの価値も無いからだ。


 短くまとめてしまえば、

 孤独、ネトゲ、ウィダーインゼリー、その三語で事足りる。

 ちなみにウィダーインゼリーは中学三年の頃からの主食だった。


 まだ若いのだから希望を持てなんて、残酷な言葉を嫌と言うほど浴びせられてきた。

 人生に希望も絶望も等しくあるのなら、若いからこそ絶望の絶対量が多いはずだ。

 30代は50年分の、10代は70年分の絶望を抱えて生きていかなければならない。

 80代の老人こそ、絶望も不安もないだろう。もうすぐ死ぬと分かっているのだから。


 まあ、だが死ぬのは当分後で良い。

 料理を作ってくれる両親はいないが、生活費を出してくれる口座はある。

 青春というのは人生のうまみを上手に食いつぶす事。

 それが俺の持論。

 俺にとっての青春。

 培養液の中にぷかぷか浮かんで、ただひたすら無意味な青春を吸い上げていた。

 孤独、ネトゲ、ウィダーインゼリー、まさにそんな感じ。


 そんな暗澹とした生活が一年半ほど続いていた、ある日の事だった。


 俺は眠っている間に異世界に召喚され、25万人の勇者のひとりとして戦う事になった。

 そしてその体験こそが、俺に本当の絶望という物を教えてくれた。


 ***


 俺はたまに、この世界に俺を召喚した時の、バージリーの気持ちを想像してみる。

 最初は呼び寄せた途端、俺から悪臭でも漂ってきたのだろうかと思った。

 彼女は俺を召喚したとき、なぜかボロボロと涙を流したのだ。


 初対面のバージリーの顔は、今でも忘れない。

 フリルの沢山ついたシスターの服みたいな、質素なんだか豪華なんだか分からない服装をしていた。

 縁なし帽から金髪がはみ出していて、

 どことなく高貴さの漂う顔は、そのとき涙と鼻水でぐしょぐしょだった。

 年齢は俺と同じくらいか。

 金属製の錫杖を盾にするようにすがり、がくがく膝を震わせながら、

 俺に向かって懸命に余裕の笑みを浮かべようと、頬をひくひくさせていた。


 どうして彼女が泣いていたのか分からない。

 あるいは、喜びの余り、感極まっていたのかもしれない。

 生まれて初めて成功した召喚ってのは、それほど大事な物らしいのだ。


 あのとき彼女に、いっとき成功すると不幸になるの法則を教えてやればよかったと思う。

 成功を維持するには、その後も大変な労力を要するから、結局そのために潰れてダメになるケースがほとんどなのだ。

 うまく幸福になれる奴は、最初から成功し続けている奴だけ。世の中そういう風に出来ているのだと。


 そうとも知らず、運悪くいっときの成功を収めてしまった彼女は、俺にこう言ったのだ。

 俺みたいなクズを召喚して、彼女は花のように笑っていた。


「ようこそ、私の勇者よ……ここはフィースワールドです!」

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