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ダンジョン攻略編  第1話

◆ ギ・ジュヨンロEYES ◆


 吾輩は魔将である。

 名をギ・ジュヨンロと申す。

 猛獣駆ける魔界大平原にその者ありと謳われた、勇気溢るる騎兵こそ吾輩なのだ。


 絶滅危惧種の保護および絶滅推奨種の殲滅こそが我が生涯の仕事。

 であるからして、召喚などされても甚だ迷惑。

 さっさと帰還しようとしたのだが、2つほど誤算があり、転職することと相成った。


 第1の誤算。

 魔将ニオ・ヨエンラが、召喚者を護っていたのだ。

 「気高き豹」「魔将殺し」「魔炎疾風」……異名は多々あれど、その姿は美しい!

 炎をまとう豹なる肢体は艶やかにして一分の隙もない。毛並みをナデナデしたいものだ。

 かような美獣を目の前にしては、職場を共にしたいというのが素直な気持ちであろう?


 第2の誤算。

 召喚者たる魔術師がアルバキン様だった。

 いや、少し話が前後してしまうな。こう言うのが正しいか。

 アルバキン様という驚嘆すべき峻烈な主君と巡り合ってしまったこと、だ。


 およそ魔術師という人種は2種類に大別できる。

 世界を理解しきれると驕る者と、世界を理解しきれないと畏れる者だ。

 前者は燃え盛る火の如くに躍進し、やがて自らをも燃やし尽くしてしまうのが常だ。

 後者は静かに湛える水の如くに鎮座し、やがてその重みに飽いてしまうことが多い。


 殿はどちらでもない。

 殿は「世界を超えようと挑む者」だ。

 その志の高さには、吾輩、流れる感涙を止める術を持たなかった!

 この上は、大望の先兵として、大挑戦の先駆けとして、突撃・突貫する所存である!


 殿の直臣であることの証。

 ありがたくも光栄なる三褒の儀において、吾輩は2つの別形を頂戴した。


 象徴としては、勇壮なる黒馬。名を流星号とつけていただいた。

 誉れであるなぁ……我が本質を鋭く見極めた姿、名であるなぁ!


 人型としては、いぶし銀な白髭も凛々しい、老騎士の姿をいただいた。

 名をドンキホーテ。

 素晴らしい……雄々しく巨怪へ挑むが如くの響きがある!


 そういえば、吾輩とニオ嬢の他に、もう1人おったな。

 アレだ、あの性格の悪い司書長、クビだ。首にしてしまえばよい。

 少しばかり物知りだからといって、いつもいつも、吾輩を馬鹿にしよってからに……

 吾輩には絵本も勿体ない、とはどういう言い分だ! それくらいは読めるわ!


 ……馬鹿ではないぞ? 勇猛なのだ、吾輩は!



◆ アルバキンEYES ◆


 おかしい。想定と違う。


 俺は今、地下60階でダンジョン踏破の準備をしている。

 死闘を極めた対ドラゴン戦だったが、それはスタートに過ぎない。

 重傷を負うなど、今後拠点から遠ざかることを考えると、いかにも拙い話だ。


 長期戦を視野に入れた戦力増強。

 色々なことを実施しているし、それぞれ自分でも驚くほどの成果を上げているが……

 それは後に説明するとして、こいつを見てくれ。こいつをどう思う?

 

 うほ、いい猫耳娘。


 膝の上で勝手にお姫様抱っこ状態、しかも首に巻きつけられた手が柔らかくも鬱陶しい。

 褐色の肌、金色の髪、紅の瞳、美少女。なんだこれ。

 人型なのに猫耳があるってのは、恐らく俺の魔力が及ばなかったからだろうが……

 どうしてこうなった? 


 こいつは魔将ニオ・ヨエンラ。下位魔将だ。

 性格についての明確な記述がなく、その一方で従えるのは至難とされてはいた。

 されてはいたのだが、しかし、その能力は垂涎物だった。

 

 ニオ・ヨエンラの能力「魔炎」。

 それは魔将にのみ特化した特殊な炎で、ほぼ全ての魔将を燃やし尽くす力を持つ。

 詳細はわからないが、例えば俺が「魔炎」を喰らっても火傷すらしないようだ。


 これは今後の鍵となる力だ。

 戦力として魔物と比肩できない魔将は、裏切られた場合の危険度もまた比肩できない。

 ニオ・ヨエンラさえ完璧に支配していれば……魔将を複数名、従属させていける!


 クリリンの進言もあって、この魔将の召喚に踏み切ったわけだが……


 まずね、召喚したときからおかしかった。

 「魔炎」は効かないっつっても、普通の豹でなし、最高の拘束魔法陣を敷設してあった。

 だというのに、ジャンプ1発、なにそれ美味しいのってな勢いで飛び掛かられた。


 正直、死んだと思った。美味しまれると覚悟した。


 けどね、俺は顔中をベッタベタに舐めまくられていた。

 腹を見せるし、首を擦りつけてくるし、甘噛みしてくるし……俺猫飼ってたし?

 よーしよしよしってやったよ。やっちゃったよ。そしたら膝上美少女with猫耳だよ!


 落ち着け……落ち着けば何とかなる……

 

「ニオ、もう一度言うぞ? 服を着ろ」

「?」

「文化ってそういうものなんだ。嫌なら象徴化すればいいだろ」


 こいつの象徴は猫とした。西表山猫。それは上手くいった。

 が、人型、こっちは駄目だ。

 全裸で現れやがった。猫耳だし、虎柄の尻尾もついていた。明らかに強制力不足だ。

 クリリンもドンキも相応の装備で出てきたのに……流石というべきなのか?


 あと、名前。

 どんな名前も納得しやしない。ニオ。それ一択。

 そこんとこで押し負けたのが敗因なのか……いや、だって「魔炎」欲しかったしさ……


「アルバキン様」

「おお、クリリンいい所に。ニオに服を着させてくれ」

「!」

「焼け死にたくないのでお断りします。実験場にて魔法発動の準備が整いました」

「……わかった。すぐ行く」


 そう、俺は今から新魔法の習得に挑む。

 《虚数封殺ヴリル》よりも使い勝手の良い切り札を求めてのことだ。

 理由は言うまでもないと思う。


 その名も《火竜咆哮シューティングスター》。


 クリリン曰く、ドラゴンのブレスというのは半ば魔法らしい。

 存在自体が伝説級であるところの魔法体系、その名をして竜幻魔法というそうな。

 「竜殺し」たる俺には、それを習得する資格があるわけか。

 

 あいつ、目ぇキラキラしてたなぁ。

 何か日増しに忠誠度が高まってる気がする。少年野球やってたときの後輩思い出すよ。

 

 ……ドンキどこいった。アイツにも見せとかないとな。



◆ クヴィク・リスリィEYES ◆


 私は今、オカルト辞典として、アルバキン様の手中にあります。

 ここの蔵書には竜幻魔法に関するものがありませんでしたからね。

 魔界で閲覧した記憶をそのままに、ページへと投影しています。

 何と役に立つのでしょう、このクヴィク・リスリィは!


 1つ1つ確実に詠唱が為されていきます。

 高まりゆく魔力……素晴らしい……やはり確実に規模を増していますね。

 魔炎殿もどこか嬉しそうですね。

 ジジィは泣いてやがる。汚ぇ笑顔だ、帰れお前。むしろ還れ。魔界へ戻れ。


 ……主はどうして私の進言を容れて下さらなかったのでしょうか?

 魔炎殿がいらっしゃるのです。

 こんな糞ジジィなんかでなく、もっと強力な魔将を召喚されれば良かったのに。


 せめて、同じ下位の戦闘狂にしても、スリズ・アトールとか。

 あれも大概ですが、「黒狼将軍」の異名は伊達ではありませんよ? 

 集団戦から個人戦まで幅広く虐殺できます。加減ができないのが扱いづらい所ですが。


 おっと、そろそろ発動ですね。

 最初ですから色々と手探りです。無調整の分、むしろ主の底力がわかるかもしれません。


「《火竜咆哮シューティングスター》」



◆ アルバキンEYES ◆


ゴッファアアアァァァアアアアアアアア!!!


 こ、これは……!

 何つー威力だっ、制御できねーじゃねーか!?


「お前ら下がれ! 結界が吹き飛ぶぞ!」


 右手から馬鹿みたいに火……というよりは、光の柱みたいのが噴出し続ける。

 やばいやばい、止まらないぞこれ、下手に止めたら爆発しちまいそうだ!


「お、うおおお……!」


 自分の中の「バルブ」を閉じたい、閉じたいんだが……くそっ!

 き、斬るか? 腕を!

 このままじゃ実験室どころかフロア全体が崩落しかねないっ!!


「まずは深呼吸ですぞ、殿」


 なっ、てめっ、ドンキ、下がれってのに!


「恐れるに及びません。よく御覧なされ。この光は殿の力。殿の内から出ずる力です」


 背中から手をまわし、俺の右手をそっとつかむ。

 本性だ。黒い甲冑の腕だ。

 魔力の反動で見る間に焼け焦げていく。おい……おい!


「美しいと感じなされ。素晴らしいと、かくあるべきであったと思いなされ」


 こいつ……ニオの制御に自信が持てないから、試しに召喚しただけの奴なのに。

 くそっ、篭手が熔けちまって……焼けちまうってのに!


「信じるのです。自負を持つのです。誇るのです。正に、かくあるべきであったと」


 ……怖がってただけか、俺は? ああ?

 くそが、てめー、いつまで中学生のつもりでいやがる、ビビリやがって。

 俺はアルバキンだ。2000万人である1人のエルフだろうが!


「そう、恐れるには及びませんぞ。むしろ見惚れますぞ。殿は強大であられる」


 そう、そうだ、ゆっくりと必要なことをすればいいんだ。

 落ち着け……向き合え、この力と。

 これが俺なんだ。これこそがアルバキンなんだ。


 正に、俺という存在は、かくあるべきだった。それだけのことだ!


 収束と終息。

 手を見る。開く。握る。

 それは確かに俺の手だ。他の誰でもない。


「……そして勇敢であられるなぁ、殿は。我輩、感服つかまつった!」


 こーの爺さんは……全く。


「ああ、実験は成功だ。俺はドラゴンの力を手に入れたぞ」


 足元に流れる熱気と、畏まる3人の忠臣。

 身体に満ちていく全能感を素直に喜びながら、俺は堂々と宣言したのだった。



◆ ニオ・ヨエンラEYES ◆


 ニオ、とても嬉しい。

 アルバキン、凄い男。他と、違う。出会えたの、奇跡。


 ニオ、特別の力、ある。

 この力、誰も抵抗、無理。

 この力、近いほど、殺す。


 ニオ、好きになる。

 好きになる、近くなること。

 近くなる、ニオ、殺すこと。

 抵抗、無理。ニオも、無理。


 アルバキン、遠い。凄く。

 ニオ近づく、でも、遠い。凄く。

 

 アルバキン、きっと、無限、遠くから、来た男。


 ニオ、好き。

 好きでも、平気な男、アルバキン。


 ニオ、初めて、とても嬉しい。



◆ アルバキンEYES ◆


 ドラゴンの力、半端ねぇ。


 数珠にして17個分も消費したよ。途中で止めてだぜ……ぱねぇ。ドラぱねぇ。

 上手に焼くためにゃ出力制御が必須だ。

 オカルト辞典で検索して、もっとこの魔法の理解を深めるべきだな。


 さて。

 思いがけないトラブルを乗り越えてしまったが……話をしよう。


 ドラゴンとの死闘。

 俺は怪我1つせずに勝つつもりだったが、結果は辛勝もいいところだった。

 重ねに重ねた奇策・陽動……盲点は意外なところにあった。


 俺の魔力には異常性がある、らしい。


 匂い、とでも言うべきか。

 クリリンらの意見を総合するに、俺の魔力には独特の強烈な雰囲気があるようだ。

 そしてそれは自覚できない……動物が自らの体臭を感じないように。


 陣槍を突き刺した、あの唯一の接近状況。

 陽動は上手く働いていた。

 ブレス直後の魔力的空白、俺・雪風・雷火による高速空間移動、死角、刺さりゆく痛み。

 にもかかわらず、ドラゴンは瞬時に俺を識別、殴りつけた。


 その原因が「匂い」だ。


 その結論は背筋を寒くするものだ。

 ≪魔力隠蔽≫は十八番だが、他の魔法を使う際には効果がない。

 魔法主体で攻める限り、どんなに工夫しても所在がばれる恐れがあるということだ。

 それでは安全を確保できない……!


 で、発想を転換することにした。

 きっかけは雪風と雷火のメンテナンスだ。


 こいつらは使い魔としちゃすこぶる優秀で、機能拡張の可能性が凄い。

 戦闘機や競走車に近いかもしれない。

 限られた数値内で配分調整していくというか……

 好みでアンバランスかつピーキーに仕立てていけるというか……

 対ドラゴン戦では陽動として機動性を重視して調整、結果として失敗したわけだ。


 どうしたものかと弄ってるうち、面白いものを発見した。

 「魔法搭載スペルストック」という機能だ。


 これは使用回数が限られたタイプの魔法アイテムに似ている。

 あらかじめ魔法を込めておくことで、雪風・雷火はそれを任意に使用できる。

 それこそミサイルとかの兵装みたいなもんだな。

 できるなら≪虚数封殺ヴリル≫とか込めときたいもんだが、それは無理。

 初級魔法を4つ、というのが限界のようだ。


 そこで閃いた。

 雪風を電子戦機体、雷火を格闘戦機体に特化させようと。


 ええと、つまり、どういうことかというと……


 雪風は、最高速度にのみ特化した身体能力とする。身のこなしや機動性は諦める。

 搭載する魔法は以下の通り。

 ≪魔力隠蔽≫≪魔力撹乱≫≪影潜シャドウィン≫≪暗黒弾ブラックショット≫以上。


 ≪魔力撹乱≫はその場の魔力を混乱させるもので、これこそ肝心だ。

 いわゆるジャミングだな。隠せないならかき乱してしまえばいいってことだ。

 他の魔法は索敵及び情報収集の際の生存率を高めるため。最高速度も同様。


 一方、雷火は機動性に特化させ、搭載魔法は以下の通り。

 ≪魔力懐剣≫≪影分身シャドウミラージュ≫≪体重緩和レヴィトロン≫≪闇手ダークフィンガー≫以上。


 徹底的に高速機動し、陽動および迎撃をさせる狙いだ。

 ≪闇手ダークフィンガー≫は爪先に重力偏差を生じさせることで接触攻撃を図るもの。

 ≪虚数封殺ヴリル≫程ではないにしろ、同系統だ。機動とあわせて一撃必殺も狙える。


 状況によっては圧倒的で、状況によっては何もできない仕様。

 上手く運用すればダンジョン攻略は格段と安全になるだろう。

 


 そう、俺は本格的なダンジョン攻略を始めようとしている。

 

 地上へ。


 まだ見ぬ空の下に立ち、産声をあげるために。

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