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ドラゴン討伐編  第2話

◇ WORLD・EYES ◇


 瘴気渦巻く地下迷宮の最下層。

 魔法光に照らされる石畳に靴音もたてず、2つの人影が進んでいた。


 1人は青年。


 古めかしくも上等の服に身を包み、力強く優雅な足運びは、どこか俊敏な獣を思わせる。

 長い耳からしてエルフのはずだが……髪の色、目、まとう雰囲気がそれを否定している。


 髪は、まるで夜闇に染め抜いたかのような黒。無造作にして優雅に長く垂れる。

 目は、精緻な宝石細工を思わせる赤紫。その眼光は刃の鋭さ、そして八つ裂く陰惨さ。

 鼻梁、頬筋ともに奇跡のような絶妙を描いていて、美しい。美しすぎるほどだ。

 唇だけはどこか隙を感じさせ、その淡い桃色も相まって、妖しい艶かしさを感じさせる。


 もう1人は少年。


 どこかの貴族の子か、はたまた高貴な国家の文官見習いか。

 上品かつ重厚な着衣をキッチリと着込み、ピンと背筋を伸ばして青年に従っている。


 薄紫の髪を肩口で揃え、怜悧な双眸は碧色。

 将来有望な整った顔には、年齢にそぐわない悠然さの中、年相応の興奮が垣間見えている。


 2人に共通する点があるとすれば、それば場違いということだろうか。

 ドラゴンすら生息するダンジョンにおいて非武装。

 それは幻想的な光景ですらあった。



◆ アルバキンEYES ◆


「これは『ガンマディオン・ソード』ですね」


 サーベルを手に取り、クリリンが即答した。

 クリリン……名前の印象が強制力となって、容姿はともかく、チビガキにしてしまった。

 次の機会にはある程度配慮しようと思う。三褒の儀、恐ろしいシステム!


「ご覧下さい。卍型に魔呪石が意匠されているでしょう? これが付呪の核ですね」


 クヴィク・リスリィはあらゆる書物に通ずる魔将だ。本の魔神とすら言える。

 例えば剣を前にして。

 その切れ味や魔力を検査することはできないが、知識からの検索ができる。

 人型グーグル先生だな。便利だ。召喚して良かった。でもクリリン……。


「持ち主に害を為す魔力、特に≪邪眼≫に対して防衛力を有します」

「魔除けということか」

「仰る通りです。かなり強力な品ですね。歴代の所有者はその用途として……」


 そこでこちらを、どこか嬉しそうな顔で見つめてきた。


「精霊との契約や、召喚術を使う際の必需品としていました。主は規格外でいらっしゃる」

「知らなかっただけだ。次には利用するさ」


 卍剣ガンマディオン・ソードか。魔術師の佩く剣として相応しいな。

 よしよし、次々といこう。


「この槍は『スピアー・オブ・マジックスクウェア』ですね」


 直訳すると魔法陣の槍、か。


「世界に4本存在する内の1本で、2番目に強力なものです」

「その性能は?」

「あらかじめ登録しておいた魔法陣を、瞬時にその場で展開・敷設することができます」

「それはまた便利なものだな。やるなイリンメル」


 魔法陣で発動する魔法は全て強力だ。

 召喚術の他にも様々な術式の発動条件となっており、どれも大魔法である。


「触媒や供物は?」

「それは別途に用意しなければなりません。あくまで線画のみですね」

「ふむん……それでも使い様は幾らもあるな。登録できるのは1つだけか?」

「この槍は3つ登録できます。1番強力な槍ですと、5つ登録できるようです」


 もしかすると最強のやつはイリンメルが持ってたりしてな。有り得る話だ。

 しかしまた、便利なアイテムだ。陣槍スピアー・オブ・マジックスクウェア、ね。

 切り札としての攻撃魔法を1つ、頼みの綱としての防御魔法を1つ、あとは……。


「このダガーは対となっています。『雪風と雷火』。名前通りの属性を付与されています」

「それだけか」

「武器としてはそれだけですね。特筆すべきは分身作成能力をもつことです」

「……どういうこと?」

「実際に発動させてみましょう。主よ、柄を握り『疾出如式則』と詠唱してみてください」


 上級詠唱か。


疾出如式則トクイデヨシキソクノゴトクニ


 む。

 柄を握る手に静電気のような刺激が走った。

 俺の魔力が素直に伝達しない。恐らく以前の使用者、即ちイリンメルの魔力が残ってるな。

 最短でも150年以上も前の残滓でこれか……強いな……魔力を強めて押し切る。


 おお!


 空間からにじみ出るように、2人の少女が出現した。

 第一印象は忍者。

 影そのものを纏っているようだが、その揺らぎも含めて凄く忍者っぽい。

 銀髪で細目の方が雪風、赤髪でドングリ眼の方が雷火か。


「その者等は即席の使い魔のようなものです。制御次第で主の目とも耳ともなりましょう」


 使い魔か。

 意のままに動かすもの、簡単な命令実行をくり返すもの、自己判断できるもの、色々ある。

 五感全てについて選択的に感覚の共有もできる。できるように整えられる。


 先ほどの魔力導入で初期化したわけだから、上手く仕上げなければ。

 斥候にするか、ファンネル的な付随戦力にするか……悩むところだな。


 魔力供給を途絶させると消えた。

 スタンバイ状態。また後で、だ。


「最後にこのチェインメイルですが……特に銘のある品ではないようです」

「魔力は感じるが?」

「ミスリル銀製は全て魔力を含有します。ただ、特殊な魔力である可能性はあります」

「それこそ、イリンメルが魔力付与した場合も考えられるわけか……」


 どの系統の魔法であれ無機物への魔力付与の技法は存在する。

 今のところ後回しにしていて、詳しくない。既存物の鑑定すらままならなかったし。

 永続的な付与ともなると準備がややこしく大変だからなぁ……優先順位は低まる。


「安全か?」

「断言はできません。ただ、ミスリル銀は軽くて硬いことで知られています」


 状況からして悪いものではないだろうな。

 少なくとも、ドラゴンすらいるダンジョンへ布装備だけで挑むリスクよりはマシだろう。


「よし、次は宝物庫だ。お前の知識に照らして、有効なものを見繕ってくれ」


 新たな段階にいることをつくづく感じる。

 本当に便利だ……しつこいようだけど、やっぱクリリンは悪いことしたかもなぁ……!



◆ 雪風EYES ◆


 こちら雪風。状況を確認する。

 マスター変更に伴うフォーマットにより、全能力が基準値に回帰。

 魔力リンク、待機モード。

 データリンク、全種停止中。

 受動レーダーに反応、高レベルモンスター検知。

 敵味方識別……マスターデータ照合……友軍確認。魔将クヴィク・リスリィと認識。 

 受動レーダーに反応、僚剣確認。

 コンタクト……応答。雷火と認識。

 受動レーダーに反応、高出力の魔力検知。

 自動識別開始……エンチャントアイテムと確認。範囲内に1、2、3、4……87確認。



◆ アルバキンEYES ◆


 あっはっはっは!

 いささか浮かれている自分がいる。

 クリリンという会話相手ができて、気でも緩んだのだろうか。

 忠誠を誓約させたとはいえ、相手は「破滅の囀り」、努々油断などできないのだが。

 

 でもなぁ……あはっはは!


 いや、武器防具の鑑定をさせた後、装飾品類の鑑定もさせたのだけども。

 何というか、ある種の傾向があって、それがどうにも笑えてしまった。


 『水中呼吸の首輪』……水中で呼吸ができるようになる首輪。

 『水面歩行の足環』……水面を歩けるようになる足環。

 『水滴回避の冠』……雨避けのカチューシャ。

 『壊水の鎖帯』……水を一瞬で空気へと変換してしまうチェーン。


 どんだけ水嫌いなの、イリンメルって人は!


 きっとカナヅチなんだろうな。魂の咆哮を感じる。

 そんで溺れた経験や、泳げない無様な姿を晒した経験があるんだろうぜ。

 泳げるようになるアイテムがなかった辺り、それだけは肌身離してなかったりしてな!


 いやー、笑える。

 こういう風に笑ったのって、転生後初めてかもしれないぞ?

 

 笑いをありがとう、イリンメルさん。大丈夫! 俺も泳げない!


 さて。

 カナヅチシリーズ以外の注目アイテム2品を以下に紹介しよう。


 『生気之指輪リング・オブ・エーテル』。


 これは最も欲しかった効果をもつ指輪だ。常時肉体回復効果を持つ。ただし効果は小。

 きっと効果大の物は持ってかれてる。もともとそいつのだけど。イリンメルぇ。

 本当はこれとセットの星気アストラルバージョン、即ち精神回復効果の物も欲しかった。


 『ステラ・マリス』。


 天才魔術師姉妹が創造したシリーズ物の腕輪。見た目、黒い石20個でできた数珠。

 装備者の魔力残量に応じて石に記号が浮かぶ。満タンで20個、半減で10個だ。

 魔法主体でやっていこうとする俺の痒いところに手が届く仕様だ。姉妹も色々あったかな。


 で、これも2級品。

 1級品だと石がもっと多いものだったり、数値で示すものもあるとか。1点物だけど。

 どうせそういうのは誰かさんが持っているんだろうね。


 以上。クリリンが選び出した中から更に選抜した品々だ。

 全て身につけられ、持ち運びに優れる物ばかりである。

 四次元ポケット的なアイテムがあるでなし、厳選しなければ長期探索は不可能だ。


 また、全てを同時に装備することも望ましくない。

 電化製品の主電源みたいなもんで、発動させなくとも魔力を消費するからだ。

 カナヅチシリーズは持っていくとして折りたたみ傘の位置だな。鞄に常駐だ。

 指輪と数珠も探索中のみで……いや、魔力を馴染ませるため、しばらくは装備し続けよう。


 総括すると、便利だが決定力に欠ける。

 悠長に冒険するならともかく、俺のスタートはドラゴン討伐だからな。

 それを安全にクリアーするためには……やはり、召喚術か。


 俺が制御できるギリギリの戦闘力をもつ魔物。

 魔将では駄目だ。そんな戦闘力に知性まであったら殺される。

 特にドラゴンと相性のいい魔物がいれば最高だ。クリリンと相談してみるか。



◆ クヴィク・リスリィEYES ◆


「……、………、………、…、………」


 詠唱が進むにつれて魔方陣が発光を強めていきます。

 卍剣を構えるアルバキン様からは、今再び、禍々しき穢れの血風が巻き起こっています。

 何という呪わしさ! 何というおぞましさ!

 主は一体、どれだけの無辜の命を無残に屠り、ここに居られるのでしょうか?


疾出とくいでよ


 今まさに出現するそれは、無数の火線。

 狂おしく身をくねらせる炎の線虫群は、空中でよじり合い、もつれ合い、やがて形を現す。

 虎。

 無数の火炎が対流し、蠢く、狂猛なる「火簒虎カサンドラ」。


「汝、カサンドラよ、我に従うべし」


 先程の召喚でもそうでしたが、主は魔力を隠蔽して事を始めます。

 私もその術中にはまったわけですが……油断を誘い、一気呵成に打倒する姿勢なのですね。

 やはり「虎」も低知能なりにカチンときた様子。


 ふふ、まぁ、怒りますよね。

 炎の触手が放たれ……しかして地面へ直角に曲折、空しく床を焼きます。

 見えない巨人に叩き落とされたかのようです。


「汝、カサンドラよ、我に従うべし」


 主が得意とし、複雑巧妙に運用する暗黒魔法《重力変化グラヴィトロン》です!

 本来は広範囲に及ぶ効果を極小規模に圧縮することで、威力を跳ね上げているのですね。

 解放された主の魔力の強大さもあって、ふふふ、動揺している動揺している。


「《影幽閉シャドウコフィン》」


 心身ともに棒立ちとなったその隙を見逃す主ではありません。

 「虎」を中心に闇の球体が発生しました。

 それは次第に直径を狭めていきます……ふふ、苦悶の鳴き声が漏れ聞こえてきましたね。


「汝、カサンドラよ、我に従うべし」


 魔方陣の光が変容しました。契約が成された瞬間です。

 これで「虎」は主の下僕となりました。

 下僕は主の影に潜み、その魔力に養われつつ、主の道具として使役されることとなります。


 三褒を下賜された私は違いますよ?

 直臣ですからね。


 あるときは我が象徴、万の書物を内包する「オカルト辞典」として主に所持され、

 あるときは我が人型、知をもって仕える「クリリン」として主の傍らに侍り、

 あるときは我が真の姿にて、主の望みを叶えるべく万難を排するのです!



◆ アルバキンEYES ◆


 ふぅ、上手くいった。


 今日は「霊雷音レイライオン」と「火簒虎カサンドラ」を下僕にできた。

 どちらも属性持ちで、元素魔法の使えない俺にとっては重宝する魔物だ。

 また、前者はガス状の体、後者は線虫の集合体と、物理攻撃の効きにくい特性をもつ。


 更には高速で移動できる点も素晴らしい。

 何故か見た目が猫科肉食獣で共通したが、そこは完璧に偶然だ。

 

 ドラゴン種は身体能力の高さにおいて他種の追随を許さない。

 翻弄できる魔物が必要だ。ダンジョン内戦闘、即ち、近接戦が避けられないのだから。


 搦め手は1つ強力な物を用意してある。

 後は止めの一撃をどうするか……ドラゴンの強靭な生命力を刈り取れる威力となると……


 上位攻撃魔法か?

 今の俺では魔方陣無しに発動できない。しかも威力が足りる保証が無い。


 なら中位攻撃魔法か?

 それこそ威力が足りない。竜鱗で弾かれるのがオチだ。


 あるいは……禁呪か?

 いや、無謀だ。ミイラになっちまう。


 なら召喚か?

 本末転倒だ。そんな攻撃力をもった魔物、まずもって俺が勝てん。


 ……重力しかないか。

 一番研究し、実践し、応用させた魔法だ。

 こいつを洗練して、研ぎ澄まして……この最初にして最大の壁に一穴を穿ってやる。


 

 俺は……俺はこの世界の空を見たことすらない。

 俺はきっと、まだ、この世界にきちんと産まれてすらいないんだ。

 俺は、俺たちはまだこれからなんだ!



 ん?

 やべぇ、何かさらりと縁起でも無ぇことを思った気がするな……

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