魔王領統治編 第1話
◆ アルバキンEYES ◆
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!
「俺は美音城主砲に魔力を込めていたと思ったら、いつの間にか吹き飛んでいた」
何を言ってるかわからねーと思うが、俺もどうしてそうなったのかわからない。
頭がどうにかなりそうだった……空中で必死に《夜大翼》を発動させた。
落下死とか衝突死とか、そういう間抜けな終わり方を迎えるところだった。
世界の理不尽の片鱗を味わったぜ……って、おいコラっ!!
説明しろマグリン……じゃない、マグとクリリン! 狂技術者があああ!!
「兄様ってば凄過ぎ! 美音城、上半分がなくなっちゃったよ!」
「主の魔力膨張は天井知らずですね……私としたことが呆気にとられました」
「もう出力足りないからって頼めないね。収束以前に導管が溶けちゃうもん」
「炉も砲も再設計が必要です。専門の技術職がいればいいのですが……」
聞いちゃいない……駄目だこいつら、また目が逝っちゃってるよ。
自分たちは《魔力壁》で安全確保余裕でしたってのはさ、臣下としてどうなの?
「弾道にしろ、着弾内容にしろ、全部ぶっ飛んでたねー」
「主は砲撃ということで《爆炎球》を連想したようですね」
「なるほど……だから砲弾がああいう感じになったのかぁ」
「これは興味深い現象です。別にそのための設備を建造してみましょうか」
「いいね! クリリン、良いこと言ったね!」
いくねーよ。お前ら怖ぇーよ。こんなんもう嫌だっつーの。
おいキュザン、怒るか呆れるか慰めるか、どれか1つにしてくれ。
できたら慰める一択で頼む。ああ、うん、叱るのね……歪みないよね、お前って。
もういいや……何か疲れたし、俺寝る。
とぼとぼと寝室まで……って遠いよね、登るしね……でも気分的に歩いて向かう。
あー、ウイだ。物凄く真剣な顔で、泥団子丸めてる。食べんなよ?
ふぅ……お? 掃討戦も終了か。いつでもどこでも雪風ビジョン。
ヒュームはいよいよ物騒だ。泥団子でも捏ねてりゃいいのに……鬱陶しい。
あーあー、あちこち屍をさらしちゃってまぁ……たかが一万くらいだけどさ。
でも勿体無いよな、骨とか鎧とか。
エノク騎士団みたく、不死属性化できないかな?
そんでその辺に駐屯させときゃ、余計なのこっちに来ないだろ。あ、いいかも。
さー、着いたー。
ドンキ出張ってるから暑苦しい挨拶なくて楽だね。
二オー、出迎えてくれてありがとー。ギュってしよう、ギュって。
お前だけだよ、俺を癒してくれるのはさぁ。
あ、寝るからさ、象徴化してくんない?
モフりながら寝るわ。モフモフ。ええ尻尾や。寝る寝る寝るね……
で、起きたと思ったら。
「主よ、配下魔将を増やしましょう。ヨサン・リーニョかフサット・ヤーウェを」
「殿、『灰の騎兵団』を拡充いたしましょうぞ!」
「兄様、アタシも使い魔欲しいんですけど、参考までに雪風ちゃんたち貸して?」
元気だよな、こいつら。
以前はもっとこう、静かに付き従うって感じだった気がするんだけど。
あの『白』以降はテンション上げ上げだ。俺の長期睡眠中に何があったんだか。
(アルバキン……お前は、このままでは……)
キュザンはずーっとお悩みモードだし。根が真面目なんだろうね。
静かでいいけど、ちょっとアンニュイな気分が流入してくるのは困るなぁ。
んー、怒涛の勢いで流されてるよなー。
アイツへ至る見通しも立ちゃしないよ。
ま、百年でも千年でも費やす覚悟だけど。
とりあえず研究に集中できる環境を整えなきゃな。
実験施設として、この城砦は地下60階より優れている。
後は資料収集と研究補助員の確保かなぁ……何かヒューム文化は期待薄だな。
あいつら、大量破壊魔法がある世界であの行軍とか、低脳丸出しだもん。
となると、エルフか。
頭良さそうなイメージあるしな。あ、自画自賛じゃないよ?
そうでなくとも、何しろ長命だ。補助員としちゃ使い勝手がいいかもしれん。
勢力圏はずっと西の方か……んん?
俺にとっては里帰りになるのか? それとも試験管ならぬ樽ベビーなのか?
ふぅむ……どちらにせよ、イリンメルとは何としても会いたいな。
色々と確認したいことがある。一魔術師としても価値が高そうだし。
『魂の蟲毒』の実行者だったら滅ぼすし、違うなら協力関係を築きたいぞ。
よし! だいたいわかった!
本拠地の拡充、大陸中の情報収集。ともかくはこの2つだ。
となると、3人の案も悪くない。
クリリンが名を挙げた魔将はどちらも知識・技術系だ。万事に有用だろう。
とりあえず下位の方を召喚してみよう。他にも目ぇ付けた魔将がいるし。
ドンキの案も即採用だな。今や「灰の騎兵団」は優秀な荒事処理係だ。
今回2000騎を稼動させた感触から判断するに、10000騎くらいいけるか?
「白」から覚めてまたまた魔力増大したし、何より休めるしな。
そして何気にマグの案も面白い。マグ自体の戦力強化も勿論だが……
いっそマグにイリンメル探索を一任してみようか、なんて思いついたり。
城の建造もあるが、マグの万能かつ柔軟な思考は潜入探索に向いている気がする。
問題は外見だが、それも使い魔を工夫すればどうにかなるだろ。
そんじゃ、ま、ぼちぼち始めますか。
1つ1つ駒を進めていく作業……この先に待つ、本願成就のためにな!
◆ トジフォ・トジフォEYES ◆
ボク、魔将トジフォ・トジフォ。
もとは天界で金管奏者してたんだけど、趣味咎められて堕天したよ! てへぺろ。
ちなみに趣味は「死者使役」。死者で管弦楽団作って指揮してたよ! どやぁ。
んで、ただ今現在はというと、現世界に召喚されますた。うは。
ボク、下位とか言われてるけど、下位20魔将の第2位だよ?
ほとんど中位なわけ。上に3人も脳筋揃ってるから、挑戦とかしないだけ。
人間如きが召喚とか、ちょっと驚きなんですけどー。うーけーるー。
「汝、トジフォ・トジフォに命ずる。我に従え」
はいはいはい! 超従っちゃう! 忠誠誓いまくり! ねぇ賛美歌作っていい?
やばいよ、アルバキン様やばいよ。何この人。魔王でしょ? 魔王だよね?
そりゃ魔炎ちゃんも寄り添っちゃうよ。ヌレヌレだよ。
「はぁ……主はどうしてこう、変な魔将ばかりを選ぶのでしょうか」
あ”?
何だおめー、クヴィクじゃねーか。
魔将順位下から2番目が喧嘩売ってんのか? 殺して楽器持ちにすんぞ?
「それで? 三褒はどうなったんですか。居合わせませんでしたから」
三褒! そりゃもう素敵だったよ~、トジフォ、感動の極みだよ!
まずねー、人型はこの通り! 中性的で凛々しくも悪戯っ娘なボクにぴったり!
髪が灰色ってのがまたいいよね! 黒いタキシードに合うじゃん?
「……さっきまで灰色驃騎兵を作成してましたからね……」
はい? 何か言った? 言ってない。あそ。
でね、名前は「トットちゃん」だって! ちゃんて! もう愛称だよ!
いや、これは愛妾への隠語……? そうなんじゃね!? うは!!
「象徴は馬鹿ですか、なるほど……」
ちげーよ、鷹だ鷹……あ、じゃくて、鷲だ鷲。禿鷲。カッケーっしょ?
「不死属性軍団の作成および指揮、任せていいですね?」
おいおいおいー、クヴィクちゃん、ボクを誰だと思ってんの?
魔界で不死属性軍団を30も率いてた、トジフォ様だよ?
聞けば、特殊な殺され方した死体ばかりだっていうけど……ボクだよ?
物さえありゃいいの。魂なんて魔境からでも魔界からでも招来すりゃいいの。
あ、何だったらボクの部下の中でも最優秀だった奴ら、中身だけ招くかな?
「トジフォ、戦闘集団ですからね! くれぐれも管弦楽団にしないで下さいよ?」
さー、たーのしくなってきたなぁ!
◆ ヨサン・リーニョEYES ◆
いや、実際、大したもんじゃな、うちの大将は。
魔王アルバキン……このワシが一生物の忠誠を誓うに足る方じゃ。
「魔界の匠」と呼ばれたこの魔将ヨサン・リーニョの全身全霊を捧げようて。
じゃが、1つだけわからんことがある。
ワシの人型……何で幼女なんじゃ?
「お主を召喚する直前、殿はウイの遊び相手をしておられてのぉ……」
気の毒そうに言ってくれるな、ギよ。そっちはいいのぉ、渋く老いとって。
見ろ、ワシのこの「紅鬣」の成れの果てを。
三つ編みじゃ。左右にどでかくな。
顎の下で連結すると「ぽんでらいおん」だそうじゃ。名もポンデじゃ。
……遠くを見るな、ギよ。
象徴は赤い手袋じゃ。
ワシの匠たる技術を尊んでくれたのじゃろう。誉れじゃ。
まぁ、滅多に象徴化する機会もないじゃろうがな。主に幼女じゃ。
「えっと、早速だけど見て欲しいものがあるんです」
おお、大将の妹さんじゃな。そう畏まらんでええぞ、ワシ、幼女じゃし。
「いじけてる……そ、それじゃ、この図面を見て!」
ふん、標準型の瘴気変換動力炉じゃな。随分前にワシが設計した奴じゃ。
今はもっと変換効率の優れた型がある。小僧め、最新の技術詳報を読んどらんな。
ほぉ、見た目も見事な人造石巨人じゃが、充魔式とはわかっとるの。
手間はかかるが瞬間出力が違う。管理体制があるのなら充魔式、常識じゃ。
おぉ、なんじゃこれは……砲!? 魔力収束発射型の大砲じゃとぉ!!?
なんじゃこの出城は! なんじゃこの構造は! なんじゃこの構想は!!
嬢ちゃん……アンタ、職人魂があるようじゃな。ワシもまた、ある!
大将の魔力がべらぼう過ぎて失敗したようだが、なあに、失敗は成功の糧じゃ。
ワシが来たからには、もう安心じゃ。安心の改造狂、それがワシ!
フサット・ヤーウェ? 要らん要らん。
あ奴は発明家であって技術屋じゃない。今、この魔王城に必要なのは技術屋!
じゃあ、ワシは何じゃ? ワシこそ技術屋! だからワシに任せておけぃ!!
◆ マグネシアEYES ◆
兄様から思いも寄らない重要任務を打診されたよ。
なんと、魔王軍の情報探索主任! 世界を巡って調べて報告せよってこと!
これ、滅茶苦茶責任重大だよね。
アタシの情報収集およびその取捨選択次第で、色々変わっちゃうもん!
兄様以外だと……アタシが適任なんだろうなー。
魔将たちって基本的に世情に疎いし、判断基準ずれてるとこあるしね。
そうなると、アタシの外見が問題よね。
若いもん。いや、それはとても素敵なことなんだけど……1人前に見られない。
こう、街の酒場とかでさ、小粋に情報ゲットとかしたいじゃない?
……そーゆー使い魔を作れるかな?
兄様もそれらしいこと言ってたし、ハードボイルドな使い魔、作れないかな?
普通、動物に儀式して作るものだけど、雪風ちゃんたちみたくさ?
クリリンが設計して、兄様が材料作って、ポンちゃんが拘れば……イケる!
ねえ、どう思う? そこで何か企んでるクリクリさーん。
「マーマル保護の計画ですよ。まだ原案の段階ですけど」
ウイちゃんってば超可愛いし、兄様の恩人だもんねぇ。
それにマーマルって無邪気で無警戒だから、誰かが気にかけとかなきゃ。
子供の秘密基地遊びを大人がそっと見守るというか……そういうの大事だよね。
「……使い魔については主から承ってます。御姫的に言うならイケますよ」
わーい。アタシ、またデザインだけはやらしてもらおう。
ハードボイルドで私立探偵な感じ……天啓こい天啓こい……んー、まだ来ないか!
そもそも。
どんな設定にするか以前に、アタシが世界をよく知らないんだよねー。
兄様と一緒の地下樽育ちだからなぁ。
「なら、ヒュームと話してみますか?」
ああ、あの保護した一行って、結局どーなってんの?
あんたの管轄下にあるってのは聞いてたけどさ。
「1人は殺して、1人は出奔しました。従属したのは3人ですね」
ふーん。誰が残ってんの?
「皇帝と、魔剣戦士と、ジステアです」
というわけで、お話しにきたよー。
「これはマグネシア様、ようこそお越しくださいました」
「まぐ、ウイは元気!」
あはは、ウイちゃんは今日も元気かー! お姉ちゃん嬉しいぞー!
ジステア、いつもウイちゃんの遊び相手、お疲れ様だよー。
「今日はどうされたのですか?」
ちょっと世界情勢とか、常識とか聞きたくてさー。後の2人もいる?
「1人は練兵場で調練に参加しています。もう1人は、その……いるにはいます」
どうかしたの?
「ええと、先だって魔王様に拝謁を許される機会がありまして……」
あー、はい、わかっちゃったかも。
兄様のお顔を見ちゃったし、お声を聞いちゃったわけね。
「はい……それからというもの、こう、何もかも上の空で」
慣れるまでは色々と無理かー。
かく言うジステアも、最初のときは同じだったよね。ぽへっとしてたよ。
「魔王様の御尊顔は目に焼きつけられるのです。仕方ありません」
悟っちゃったのね。
当然っちゃ当然かもだけど、兄様のは殆ど呪いだからねー。結婚できなくなるよ?
「この祝福を受けたからには、結婚など望むわけもありません」
うーん、流石は兄様……女殺しっていうか、種殺しだね。もはやこれは。
いっそのことそーゆー戦略とっちゃえばいいのに。ハーレムだよハーレム。わー。
「そっ! そ、そういった計画が御有りなのですか!?」
うわ、ちょと、ジステア、近い近い! 怖い!
どーどー、落ち着くのよジステア、よーしよし。冗談だから!!
これが女子力って奴なのかな……きょ、今日のところはここまでね!
貴方の鼻息が収まったころに、また、話を聞きに来るよ! それじゃ!!
あ、2つも閃いた。
優男にするか、ナイスミドルにするか……それが問題ね!