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Prologue:最終話 決戦!もう一人のヒーロー!

 悪の秘密結社レギオン。

 長く人々を苦しめてきた組織であったが、正義の鉄槌の下、その時代に幕を下ろそうとしていた。


「シャイニングブレードッ!!」

「シャドウブレードッ!!」

「ぐあああっ! おのれ……シャイニングマンだけでなく、シャドウメタルが裏切るとはああああっ!!」


 レギオン秘密基地の地下深くで、陽光の如き白色と宵闇の如き黒色の輝きが悪を討つ。

 悪の名はレギオン大総統イビルダーク。そして、その前に立つのは、人々の希望を背負いし正義の戦士シャイニングマンと、悲しみを背負いし裏切りの戦士シャドウメタルであった。

 

「シャドウメタル! 今こそ止めだ! 息を合わせろ!」

「言われなくともわかっている! 貴様こそ遅れるなよシャイニングマン!」


 爆発的に膨れ上がる白と黒。それらは混ざり合い、溶け合い、大いなる力を生み出す。


「「うおおおおおおおおっ!!」」


 閃光。そして爆音。


「おのれ……おのれええええっ! ぎゃああああああああぁぁぁ…………」


 断末魔の叫びをあげながら、イビルダークは光の中へと消え去った。

 静寂の中、これまでの戦いによりボロボロの姿になったシャイニングマンとシャドウメタルが膝をつく。


「終わった……」

「ああ……」


 シャイニングマンが終わりを告げ、シャドウメタルが肯定を返す。

 お互いがお互いを憎んだこともある。戦ったこともある。怒りに奮えたこともある。哀しみに泣いたこともある。

 そんな二人であったが、今この時、二人のマスクの下に隠された表情は笑顔であった。


「帰ろう。俺たちの場所へ」


 シャイニングマンがそう言って立ち上がり、シャドウメタルへと右手を差し出す。

 シャドウメタルはしばし思案し、シャイニングマンへと問い掛けた。


「……いいのか?」


 短いながら、まるで迷子の子供のような問いかけの言葉に、シャイニングマンは微笑みとともに答えを返す。


「帰ろう、兄さん」


 シャイニングマンのその答えに、シャドウメタルはしばし呆然としたかのように動きを止めたあと、俯き、そして顔を上げ、力強く差し出された右手を掴んだ。


「ああ……帰ろう!」


 長く争い続けた二人はこうして和解し、皆の待つ場所へと帰る。


 そのはずだった。


「な……なんだ!?」

「これは……まさか!?」


 突如、足元が激しく揺れる。

 深い地の中にあるその場所の更に地下深くから、腹の底にまで響くほどの地鳴りの音が二人を襲う。

 その音に慌てふためいていたシャイニングマンであったが、シャドウメタルはどこか落ち着いていた。


「兄さん、何が起きているんだ!?」


 何かを知っているようなシャドウメタルへと問いかけるシャイニングマン。


「落ち着け。いいか、シャイニングマン。地球を救いたいのであれば、今から俺の言うとおりにするんだ」

「地球を救う……? どういうことだ兄さん! イビルダークは倒したんじゃないのか!?」


 落ち着かせようとするシャドウメタルの言葉に、逆に焦りを煽られたシャイニングマンが語気を荒げる。

 それもそのはずだろう。先ほどイビルダークを倒した際の手応えは確実なものであり、ようやく平和が訪れたと思った矢先の出来事なのだ。焦るなという方が無理な話。

 だが、そんな中にあってもシャドウメタルは落ち着いたまま、淡々と今自分たちがやらなければならないことを語る。


「この上の階にあった装置を覚えているか?」

「装置……? あの巨大な……?」


 シャイニングマンの脳裏に、ここの上の階を丸々一つ使った用途の知れない装置が浮かぶ。


「ああ、それだ。その装置がこの地鳴りの原因であり……」


 シャドウメタルはそこで言葉を区切り、シャイニングマンの目を見据えながら続きの言葉を口にした。


「この地を……地球を吹き飛ばす爆弾だ」

「なっ!? 爆弾……!?」


 衝撃の事実を知らされたシャイニングマンの動きが一瞬止まる。だが、彼は絶望などしない。

 何故なら、彼はヒーローだからだ。


「……どうすれば止められるんだ兄さん」

「……フッ。死ぬかもしれぬのだぞ?」

「この命は皆のために。平和のために使うと決めているんだ」


 シャイニングマンの、弟の、心からの言葉を受けたシャドウメタルは、その時何を思ったのか。


「……いいだろう。では、お前は上の階の装置を止めろ。手順は……」

「俺は……? 待ってくれ兄さん。兄さんはどこへ?」


 シャドウメタルの言葉を遮り、シャイニングマンが疑問を問いかける。

 彼の口ぶりからすると、自分と彼とは別行動と受け取れたからだ。


「察しがいいな。実はこの装置は二重の仕掛けがしてあってな」

「二重の? どういうことだ兄さん」

「まあ落ち着け。それも含めて今から話す。あまり時間もないようだから、口を挟まずしっかり聞くんだ」


 シャドウメタルの言葉の通り、地鳴りは大きさを増しているようだった。それを感じたからなのか、シャイニングマンは押し黙り、シャドウメタルへと仕草で続きを促した。


「一箇所は上の階。お前の担当だ。まず、上の階の階段脇にあるパネルを開け。そのパネルを開いたら、赤、緑、青の順でスイッチを入れろ。そうしたら俺に通信を入れてくれ。ああ、通信にはこれを使え。ここではお前の持っている通信機器では役に立たんからな」


 そう言い、懐から取り出したイヤリングほどの大きさの通信機器を片方シャイニングマンへと放る。

 それを受け取ったシャイニングマンは、自分の役割を確認した後、シャドウメタルへと問い掛けた。


「兄さんはどこで何をするんだ?」


 今なお地響きが鳴り続け、今にも崩落してしまいそうなこの場所で、己の兄は何をするつもりなのか。この場所に関する情報をほとんど持たないシャイニングマンの当然の疑問であった。


「俺か? 俺はお前からの知らせを聞いた後、この先にある同じ装置を止める」


 当然のような口調で、衝撃の言葉を口にするシャドウメタル。


「な、何を言ってるんだ兄さん! 一人で先へ進むなんて危険すぎる!」


 焦りの言葉を口にするシャイニングマンに、シャドウメタルは落ち着いたままの口調で返す。


「だから落ち着け。いいか? イビルダークは倒したんだ。この基地にはその装置以外の危険などない。おっと、このまま時間を使いすぎれば、脆くなったこの場所が崩落などというのもあるかもしれんな」

「だ、だけど……」


 まだ納得しかねる様子のシャイニングマンに対し、呆れたようなため息を一つついたシャドウメタルが言葉を続けた。


「フゥ……それにだ、先にある装置の横には転送装置もある。お前の今から行く装置と俺の行く装置を結ぶものだ。だから、お前は自分の役目が終わったらそこで待っていろ。ああ、置いていく場合は先に言ってくれよ? 脱出したお前を探してここで生き埋めになってしまったなどとあれば笑いの種にもならん」


 最後は冗談めいた口調で言うシャドウメタルにようやく納得したのか、シャイニングマンは肩の力を抜く。


「あまり遅いようだと置いていくよ兄さん」

「フン。弟甲斐のないやつだ」


 そして、お互いに声を掛け合ったあと、どちらともなく差し出した拳を軽く打ち合わせる。

 そこからはもう言葉はいらぬとばかりにお互いが背中を向き合わせ、目指す装置へと走り出す。

 幸せな未来を信じて。




「ここか」


 シャドウメタルと別れた後、全速力で走り続けたシャイニングマンは、程なくして上階の装置へと辿りついた。


「兄さんの言っていたパネルは……あった!」


 早々に目的のパネルを見つけたシャイニングマンが飛びかかるような勢いでそれを開くと、中には兄の言っていた通りの色を含めたスイッチが並んでいた。


「良かった、装置は生きてる。だが時間は……あまりなさそうだ」


 光を失っていない装置にほっとしつつ周囲を見渡す。

 地鳴りが響き始めてからそれほどの時間は経っていないにも関わらず、揺れも当初に比べて大きくなり、壁のどこかしこにはヒビが入っていた。

 おそらく、この装置を止めたとしても、この基地はそう長くはないだろう。だからこそ急がなくては。


「赤……緑……青……よし!」


 手早くスイッチを入れると、目の前の巨大な装置が音を立てて動き出した。

 それを確認し、手渡されていた通信機を起動させる。


「兄さん、聞こえるか!? スイッチを入れた! 兄さんも早く!」


 通信機からは若干のノイズが聞こえるが、相手とは繋がっているらしく、この場に響くものと同じ地鳴りの音がする。

 だが、待ち望む兄の言葉は聞こえない。


「……? 兄さん? どうしたんだ兄さん!?」


 もしや何事かあったのか? そう考え、焦ったシャイニングマンが駆け出そうとした瞬間、ようやく通信機から待ち望んでいた声が響いた。


『聞こえている。装置は起動したか?』


 先ほどと何ら変わらない落ち着いた兄の声に安心したシャイニングマンが言葉を返す。


「焦らせないでくれ兄さん。ああ、装置は起動させた。そっちも早くしてくれ」


 これで終わる。

 そう考えるとどこか感慨深いものがあったが、まだ脱出していないことを思いだし、シャイニングマンは気を引き締める。

 そう。後は兄が装置を止め、脱出するだけなのだ。


「……?」


 何かがおかしい。何かが引っかかる。自分は何か見落としている。

 シャイニングマンの脳裏に、そんな違和感が広がる。

 だが、そんな違和感の原因を深く考える前に、兄の声が響いた。


『シャイニングマン。いや、大地よ』


 大地。シャイニングマンの人としての名前。親からもらった大切な証。その名前を兄が呼ぶ。

 本来であれば何らおかしいことのないそれは、この時にあっては異常さが際立った。


「と、突然どうしたんだ兄さん」


 シャイニングマンの、大地の中にじわりと広がる苦い感覚。

 記憶の中の兄が己の名前を呼んでいたのは幼い頃。

 悲劇が両親を襲い、失われ、残された兄弟は悲しむ間もなく引き裂かれ、別々の道を無理やり歩かされるようになり、兄からはもう呼ばれることはなくなった。

 それからは、兄である彼は時には憎しみを。時には怒りを込め、そして分かりあった先程までもずっと自分のことは仮初の名前でしか呼んでくれることはなかった。


「なあ……兄さん! 樹兄さん!」


 大地と樹。それが彼らの。お互いの名前。

 大切なはずのそれは、無機質な通信機を伝いお互いへと届く。


『イツキ……か。久しく聞いていなかったな。自分の名前だというのにな』


 大地の起動させた装置が一際大きな音を起てて駆動する。

 すると、大地の足元を奇妙な光が覆った。


「なんだこれ……? 樹兄さん! どういうことだこれは!? 爆弾を止めるんじゃなかったのか!? これで爆弾を……爆弾を……止める……?」


 ここで大地はようやく違和感の正体に気づいた。

 そう、彼は装置を、爆弾を『止め』にきたのだ。決して『起動』させるためではない。

 焦りから、そして悪の元凶を倒したことにより、自分のやろうとしたこと、そして自分のやってしまったことを深く考えなかった事を悔いる。


 だが、全ては遅すぎた。


『さよならだ、大地』




 崩れ落ちる外壁。深く響く破裂音。それら全てが自分の今いる場所の崩壊を予言していた。

 だが、それら全てを無視し、彼は目前にある、破壊だけを目的とした巨大な装置を見据え、己のすべきことを行おうとしていた。


『さよならってどういうことだよ樹兄さん!』


 通信機から鳴り続ける弟の悲鳴にも似た叫びを聞きながら、彼は安心していた。

 弟が起動させたのは転送装置であり、一度入力すれば後は自動で動き、起動した者を安全に地上へと送り届ける。

 欠点としては起動してから僅かに時間がかかってしまうことだが、弟の様子からして基地の崩壊前には脱出できると予想していた。

 後は自分の役割を終えるだけだ。


「地上へと脱出したら急いで走れ。ここで俺が爆発を抑えたとしても、基地の崩壊は免れん」


 淡々と弟のすべきこと。そして、自分が行うことを語る。


『爆発を抑える!? そんなことをしたら樹兄さんは……』


 言葉にするのが恐ろしいのか言いよどむ弟に、兄は現実を突きつける。


「死ぬだろうな。確実に」


 今から彼が行おうとしていることは、この地球を巻き込む爆発を己の力で無理やり押さえ込む。ただそれだけのこと。

 技術も装置も何もなく、ただの力押し。

 だがそれは、魂を燃やし行う唯一の解決法。


『駄目だ! そんなのは駄目だ! 俺も……俺も今すぐそこへ!』


 転送の前段階故に、自由の効かないであろう身体を弟が必死に動かそうとしているのが通信機の向こうからも伝わる。

 それだけで彼は満足だった。




「聞け! シャイニングマンよ!」


 両手が汚れきってしまった己を未だ家族として愛してくれる。


「貴様は人々の希望だ!」


 こんなに嬉しいことがあるだろうか。


「貴様は生きねばならない!」


 愛し、愛される本当のヒーロー。汚れた俺とは違う、自慢のヒーロー。


「貴様を愛する皆の為に!」


 どうだ。これが俺の家族だ。愛すべき家族だ。


「こんな場所で死んではならんのだ!」


 死なせてたまるか。ざまあみろ、死神よ。


「さらばだ……シャイニングマン!」


 俺を連れて行くだけで満足しやがれ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ごめんな。大地。


『兄さん! 兄さん! 兄さあああああああああああ……』




 転送されたシャイニングマンの叫びが通信機から消えると同時、悪の秘密結社レギオンは光の中にその姿を消した。


 人々は生きて戻ったヒーローを褒め称えると同時に、ヒーローから語られたもう一人のヒーローの存在を知り、その死を悲しんだ。

 だが彼らは知らない。ヒーローを救ったもう一人のヒーローがどうなったのかを。


 シャドウメタルの辿った数奇な運命を。

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