↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う  作者: 宮原 ワタル
第4章:妖精の魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/28

第1部エピローグ:魔法オタク、思い出す。


 実技会の翌々日。

 丸1日寝ていたせいでまだ重たい体を引きずりながら、僕は1枚の書類を手に、仁志宮先生のもとを訪れていた。


「これ、お願いします」

「んー?……精神魔法の、使用報告書?……いつ使ったんだよ、仕事増やすなよ、お前ぇ」

「えぇ……いやでも、推薦者兼監督者の先生に渡さないと、資格失効しちゃうんで……」

「はぁ…………」


 大きくため息をつき、椅子に背を預ける。

 そのまま書類をひらひらと仰ぎ、軽く眺める。


「……放課後までに目通しとくわ。部活のとき返す」

「あ、今日僕部活休むんで……。明日でも大丈夫ですか?」

「あぁ?……あ、魔力切れ明けか」


 納得したように頷くと、先生は書類を机の上に置いた。


「んじゃ、もう今日から部活休みな。葦屋と板見にも伝えとけ」

「了解です……今日から?」


 なぜ〝今日〟ではなく〝今日から〟なのだろう、と眉をひそめていると。


「ん?ちゃんと勉強しろよ?」

「え?」


 先生は呆れた顔になり、再度、大きなため息。


「いやいや……中間考査、来週からだぞ?」

「え?……………………うぇ?」





 放課後、いつものカフェ。テーブルの上には、飲み物が2つ。


 第二級風属性魔法【音静(おんせい)】で周囲との音をほぼ遮断した状態で、僕と姫道先輩は向かい合っている。

 姫道先輩は、紙を握りしめたまま、ぷるぷると肩を震わせていた。


「るっきぃー~~~~~!」

「ひゃい!ごめんなさぁい!」


 目を細くしながら勢いよく顔を上げた先輩に、思わず背筋が伸びる。

 その紙は、先輩が作ってくれた社会の確認テスト。結果は、全(・)問(・)バツ。


「ほとんど空白じゃん!んで0点だし!何してたのー!?」

「妖精魔法の調整してましたぁ~!」

「のめり込み過ぎだよ!しかも私は怒りにくいじゃん……!」


 ぐぬぬ、と悔しそうに唇を噛む先輩。

 しかし、「あっ」と、何かを思いついたように、小さく声を漏らす。

 次の瞬間、にっこりと笑顔を作って、僕にとっての絶望を告げた。


「とりま、今日からテスト終わるまで……私との練習以外で魔法使うの、禁止ね~」

「そ、それだけはご勘弁を!?」

「勘弁しないよ~!」


 ビシッと僕を指差す先輩。


「るっきーは容赦なく私の【念話】をキラちゃんに【詠颯】で伝えてたもんねー」

「それを言われると、何も言えません……!」


 頭を抱えて机に額を打ちつける。

 先輩はくすくすと笑いながらグラスに手を伸ばし、一口飲んだ。

 顔を上げると、先輩は両肘をつき、顎に手を添えたまま、こちらを見つめていた。


「……でも、おかげでキラちゃんと仲直りできたからさ。改めて、本当にありがと」

「い、いえ……赤枝先輩も、ちゃんと〝夢〟を応援してくれそう、なんですよね?」

「うん。飛んでるときに言ってくれたけど……キラちゃんは、『やりたいことやってるヒマちゃんを、パートナーの私が支えるから!』だってさー」


 言葉を思い出しているのか、先輩は少しだけ目を細めて、柔らかく笑った。

 そのままグラスの淵をしなやかに指先でなぞる。


「あのときの先輩は……本当に、物語の主人公みたいでしたね」

「……待って。結局、その主人公とかパートナーとかって……なーに?」

「あー……これは、ですね──」


 体を起こし、兄から聞いた話をかいつまんで説明する。

 先輩はストローをくるくると回しながら、相槌を打った。


「お父さん、中々カッコいいこと言うねぇ……何やってる人なの~?」

「大学で、魔学部の教授してます……」

「……すんごい失礼だけど、なるほど、って思っちゃった……」

「魔学教授には変人が多いって、言いますからね」


 小さく笑い合う。

 グラスに口をつけ、一息ついてから、あのときのことを思い出す。



「……でも、おかげで先輩の脇役になれる決心が付きました」

「脇役……」

 

 先輩は、ほんの少しだけ視線を落とした。

 氷の溶けかけたグラスの中で、光が揺れる。


「るっきーは……脇役のままで……〝夢〟がないまま、ずっといるの?」

「え?はい。」


 視線を落とすと、グラスの中に映った自分と目が合う。


「先輩を見てると、〝夢〟の力って、すごいんだなとは、思うんですけど……本当に、やりたいことが特にないので」


 自嘲するでもなく、ただ事実を口にする。

 

「だからまあ、僕は脇役でいいかなって」

「……」

「先輩みたいに、やりたいことが見つかったら、そのとき考えればいいですし」


 肩をすくめる。


「それまでは、先輩の近くで色々見てるほうが楽しそうですから」


 僕の言葉に、「そっかぁ」と小さく頷くと、先輩は頬に指先を当て、すぐにぱちん、と軽く指を鳴らす。



「じゃ、これも〝契約〟に入れよ?」

「……と、言うと?」

「るっきーが、〝夢〟を見つけるお手伝い」


 指で輪を作り、レンズのように目に当てる先輩。


「で、でも……もう、僕が先輩に教えられるモノなんて何も……」

「んーん。簡単なことで良いよー」


 すっと、こちらに身を乗り出してくる。

 お互いの距離がグッと近くなり、心臓の鼓動が強くなった。


「名前で呼んでよ~」

「な、名前ですか!?」

「そ!私だけあだ名で呼んでるの、ちょっと悲しいし~」


 わざとらしく肩を落としながら、こちらを見てくる先輩。

 逃げ場なんて、最初からなかったが──断ろうとも、思わない。


「で、では……ひ、ひひひ……ひ、ヒマリ先輩……?」

「……ん。いーねそれ~。初めての呼ばれ方だ~」


 なお、自然に呼べるかは、別問題だった。

 にひり、満足そうに頷かれ、僕自身の顔もほころんだ。



 師匠で弟子。生徒で先生。先輩は主人公で、僕はその脇役。

 これぐらいの関係性が、丁度良いと思う。


 ……まあ、それはそれとして。

 机の上に置かれたテスト用紙に再度目を向ける。



「……今は、テストの方が、ヤバいかもです……」

「それはそう」


 普通に勉強しないと赤点で留年なのだ。


「……先輩」

「んー?」

「本当に魔法の勉強するの、ダメなんですか?」

「ダメだよ~?」


 にっこり。


「……ですよねぇ」

 

 がっくし。

 脇役以前に、まずは学生としての役目を果たさなければならないらしい。


 そんな悲しい現実を噛み締めていると──

 

「……?」

「今、何か聞こえた?」

「はい……しゅっ、って……」


 音は、本当に僅かだった。

 でも、たしかに。

 糸が緩むような、結び目が解けるような。

 そんな、微かな音がした。


これにて第1部完結──。

第2部開始までは少々お待ちくださいませ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。