無人階のマネキン
デパートに響く、小さな足音。
少女は動かないエスカレーターを眺めている。
キラキラ輝くオモチャコーナー、沢山の飲食店に洋服店。
植木の花や子どもの運転する車。
活気ある景色なのだが、誰もいない。
あるのは無数のマネキンだけだ。
うつむいて、少女はデパート内をゆっくりと歩く。
入ったのは、飲食店。
テーブルには冷めきったうどんが置いてあった。
無心ですする。
いつもと同じく味が薄い。
誰かとご飯を食べる事もないし、ショッピングをする事もない。
いつまで、この生活は続くのだろう。
ここに来た時の記憶はない。
思い出そうとすると、頭がズキズキと痛む。
ふと、人影が見えた気がして目を上げる。
そこには座らされたマネキンがあった。
(やっぱり…私は死ぬまでずっと独りなんだ…。)
改めて現状に絶望した少女は椅子から立ち上がり、行く当てもないまま歩き出す。
出口と思える場所は見当たらず最初は駆けずり回って探したが、もう諦めていた。
どうせ無いのだから。
グギギギッガッチャン…
少女の目が大きく見開かれた。
音がした。確かに今、何かが動いた音が。
「誰かいるの?!」
少女の叫びに返事をするように、音はまた響く。
グギギギッガッチャン…
見ると、そこには少女が先程までいた飲食店のマネキンから鳴っているようだった。
グギギギッガッチャン…
よく見るとマネキンは肩や腕、足を不自然に動かしながら、こちらへ向かってきていた。
共に食事をした仲間を見つけて喜んでいるように。
「何あれ…!」
マネキンが勝手に動くなんてあり得ない。
孤独には慣れていたはずの少女の心には、今まで抱いたことのない程の強い恐怖心が渦巻いていた 。
少女は走り出した。
肺が痛くなっても足を止めない。
後ろを見ると、もうマネキンはいなかった。
荒い呼吸を繰り返す。
少女は洋服店に駆け込んだ。
沢山のおしゃれな服が並んでいる。
ここなら、私の姿を探すのも一苦労なはず。
だが、また音がした。
グギギギッガッチャン…
ハッと横を見ると、数メートル先に帽子をかぶったマネキンが手を伸ばしてこちらへ歩いてきた。
ガシッと左腕をつかまれる。
「こっち来ないでよ!」
思い切り突き飛ばすとマネキンはガチャンッと音を立て床に倒れ込んだ。
大きな声で叫びながら少女は、また走り出す。
掴まれた腕がジンジンと痛んで動かしにくい。
その痛みに負けないくらい少女は生命の危機を感じていた。
「ハァッ…ハァッ…ハァ…!」
どれぐらい走ったのだろう。
もう体力の限界だ。
グギギギッガッチャン…
どこかでまた音がする。
今度は、もっと近くから。
「もう…嫌ぁ…!」
覚悟を決めて目を閉じた。
…沈黙。
何もない。
少女は目を開ける。
何も起きていないし、何もされていない。
だが、音はしていた。
グギギギッガッチャン…
マネキンは見当たらない。
それなら、どこから…?
立ち上がった少女はガクンッとバランスを崩す。
左腕が重い。
グギギギッガッチャン…
少女の腕から音がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
広めのデパートの楽しさは周りの音や賑やかさあってこそで、店員さんも誰もいない状況のデパートに一人だったら怖いよな〜と思い、作成してみましたφ(..)
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