魔法少女に勧誘されたけど契約内容が不明すぎたので断りました 〜説明不足のまま魔法少女にされそうになった話〜
ねぇ!そこの君!魔法少女になって、僕を手伝ってよ!
帰宅途中の住宅街。
夕焼けがやけに赤くて、少し不気味だったその時だった。
目の前に、変な生き物が現れた。
白い。小さい。ふわふわしてる。耳みたいなのがある。
そして、喋った。
私は無言で、手に持っていたカバンを全力で投げつけた。
――直撃。
振り返らない。そのまま全力で走る。
「ちょ、ちょっと待ってよ!話を――!」
無視。
というか、無理。怖い。どう考えてもヤバい。
後ろから小さな足音が追ってくる。しかも速い。
「待ってってばー!」
「来ないでぇぇぇぇ!!」
私は叫びながら走る。だが、ここは住宅街の外れ。人影はない。
数分後。
スタミナが切れた。
「はぁ……はぁ……」
膝に手をついて呼吸を整えようとする私の前に、その生き物はひょこっと現れた。
さっき投げたカバンを持っている。
「はい、これ。落としたよ」
「……拾ってくるな」
「僕、怪しいものじゃないよ!」
「怪しい以外の何物でもないわ!!」
白い謎生物。人語を話す。追いかけてくる。
どう考えてもアウトだ。
「落ち着いて話を聞いてよ!」
「そのセリフ言うやつ、大体怪しいのよ!」
しかし、こいつは私の同意などお構いなしに話し始めた。
「僕の世界が大変なんだ!魔法少女になって助けてよ!」
「はい出た」
「僕の世界に邪悪な大きなものが生まれて、世界が滅亡しそうなんだ!」
「はいはい」
「だから、偶然見つけたあなたに、その邪悪なものを倒してほしいんだ!」
「雑すぎるでしょ」
「魔法少女になれるよ!」
「そこが一番怪しいのよ!」
私はカバンを受け取りながら、その生き物をじっと見た。
可愛い見た目。だからこそ、余計に怖い。
「……で?」
「え?」
「あなたは何?何者なの?なんで私なの?代償は?リスクは?」
「えっと……僕はその……サポート的な?」
「曖昧すぎる」
「リスクは……たぶん大丈夫!」
「“たぶん”って言ったわね今」
「で、でも魔法少女になればすごい力が――」
「いらない」
「えっ」
「説明が足りないのよ。
契約内容不明、対価不明、リスク不明、選定理由不明」
「ぐっ……」
「これで“はいお願いします”って言う人いると思う?」
生き物は黙った。
「あと」
「ま、まだあるの?」
「あるわよ」
「もう魔法少女って年齢じゃないの」
「……え?」
「どう見ても中学生向けでしょ、それ」
私は社会人一年目。帰宅中。疲れている。
魔法少女をやる余力はない。
「でも年齢制限とか――」
「精神的に無理」
「そんなぁ……」
「じゃあ他を当たって」
「えぇ!?」
「もっと夢とか希望とかある子に行きなさいよ」
「でも時間が――」
「知らない」
私は立ち上がる。
「じゃ、そういうことで」
「あ、待って!」
振り返らない。
「――契約したら、願いが一つ叶うよ?」
足が止まりかける。
「……それも先に言いなさいよ」
「じゃあ――」
「でも」
「それでも断る」
「なんで!?」
「その願いの裏に何があるか説明してないから」
静かに言う。
「都合のいい話には、絶対に裏がある」
沈黙。
「……鋭いね」
「でしょ」
「でも、本当に時間がないんだ」
「ならなおさら、ちゃんと説明しなさい」
私は歩き出す。
「……君、名前は?」
「教える義理ないでしょ」
「そっか」
少し寂しそうな声。
ほんの少しだけ、心が揺れる。
でも。
「……死なないでね」
それだけ言って、私は帰路についた。
魔法少女には、ならなかった。
でもきっと、どこかで誰かがなるのだろう。
あの説明不足のまま。
あの怪しい笑顔のまま。
そしてきっと、後悔する。
――だから私は、ならなかった。
ただ、それだけの話。




