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魔法少女に勧誘されたけど契約内容が不明すぎたので断りました 〜説明不足のまま魔法少女にされそうになった話〜

作者: 兎山紬
掲載日:2026/04/03

  ねぇ!そこの君!魔法少女になって、僕を手伝ってよ!


 帰宅途中の住宅街。

 夕焼けがやけに赤くて、少し不気味だったその時だった。


 目の前に、変な生き物が現れた。


 白い。小さい。ふわふわしてる。耳みたいなのがある。

 そして、喋った。


 私は無言で、手に持っていたカバンを全力で投げつけた。


 ――直撃。


 振り返らない。そのまま全力で走る。


「ちょ、ちょっと待ってよ!話を――!」


 無視。


 というか、無理。怖い。どう考えてもヤバい。


 後ろから小さな足音が追ってくる。しかも速い。


「待ってってばー!」


「来ないでぇぇぇぇ!!」


 私は叫びながら走る。だが、ここは住宅街の外れ。人影はない。


 数分後。


 スタミナが切れた。


「はぁ……はぁ……」


 膝に手をついて呼吸を整えようとする私の前に、その生き物はひょこっと現れた。


 さっき投げたカバンを持っている。


「はい、これ。落としたよ」


「……拾ってくるな」


「僕、怪しいものじゃないよ!」


「怪しい以外の何物でもないわ!!」


 白い謎生物。人語を話す。追いかけてくる。

 どう考えてもアウトだ。


「落ち着いて話を聞いてよ!」


「そのセリフ言うやつ、大体怪しいのよ!」


 しかし、こいつは私の同意などお構いなしに話し始めた。


「僕の世界が大変なんだ!魔法少女になって助けてよ!」


「はい出た」


「僕の世界に邪悪な大きなものが生まれて、世界が滅亡しそうなんだ!」


「はいはい」


「だから、偶然見つけたあなたに、その邪悪なものを倒してほしいんだ!」


「雑すぎるでしょ」


「魔法少女になれるよ!」


「そこが一番怪しいのよ!」


 私はカバンを受け取りながら、その生き物をじっと見た。


 可愛い見た目。だからこそ、余計に怖い。


「……で?」


「え?」


「あなたは何?何者なの?なんで私なの?代償は?リスクは?」


「えっと……僕はその……サポート的な?」


「曖昧すぎる」


「リスクは……たぶん大丈夫!」


「“たぶん”って言ったわね今」


「で、でも魔法少女になればすごい力が――」


「いらない」


「えっ」


「説明が足りないのよ。

 契約内容不明、対価不明、リスク不明、選定理由不明」


「ぐっ……」


「これで“はいお願いします”って言う人いると思う?」


 生き物は黙った。


「あと」


「ま、まだあるの?」


「あるわよ」


「もう魔法少女って年齢じゃないの」


「……え?」


「どう見ても中学生向けでしょ、それ」


 私は社会人一年目。帰宅中。疲れている。


 魔法少女をやる余力はない。


「でも年齢制限とか――」


「精神的に無理」


「そんなぁ……」


「じゃあ他を当たって」


「えぇ!?」


「もっと夢とか希望とかある子に行きなさいよ」


「でも時間が――」


「知らない」


 私は立ち上がる。


「じゃ、そういうことで」


「あ、待って!」


 振り返らない。


「――契約したら、願いが一つ叶うよ?」


 足が止まりかける。


「……それも先に言いなさいよ」


「じゃあ――」


「でも」


「それでも断る」


「なんで!?」


「その願いの裏に何があるか説明してないから」


 静かに言う。


「都合のいい話には、絶対に裏がある」


 沈黙。


「……鋭いね」


「でしょ」


「でも、本当に時間がないんだ」


「ならなおさら、ちゃんと説明しなさい」


 私は歩き出す。


「……君、名前は?」


「教える義理ないでしょ」


「そっか」


 少し寂しそうな声。


 ほんの少しだけ、心が揺れる。


 でも。


「……死なないでね」


 それだけ言って、私は帰路についた。


 魔法少女には、ならなかった。


 でもきっと、どこかで誰かがなるのだろう。


 あの説明不足のまま。


 あの怪しい笑顔のまま。


 そしてきっと、後悔する。


 ――だから私は、ならなかった。



 ただ、それだけの話。

 

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