姿なき王
姿なき王のことを聞きたい? 物好きねぇ。もう百年は昔のことなのに。
恐ろしき王は、英雄に討たれた。そうでしょう? 本当にそうか、なんて意味はないの。勝者こそが正義、でしょ?
違うというけどねぇ。私も勝者として、正義を執行したことあるから否定しずらいのよね。
ええ、私が最凶だから、この一帯は私の領地だし、私が法なの。独裁国家でもないけどね。憲法は遵守する所存なので。
そうそう、興味ある? ……ちっ。そうよ、話をずらして、話したくなかったの。
我が王は、汚名返上を望まない。残念無念ながら、歴史の中で悪と断じられるのも仕方のないこととお思いだった。
聞いたのかって? そうね、聞いたわ。
だから、今、良き王であったという話はできない。この世に完璧な王もいないから、あのお方も良いだけの王でもなかったからね。
それでも姿が残されていないのはおかしい。そこまで消された者はいない。歴史の波間に消える庶民ならばともかく、王とまで言われたなら、確かにそう思えるかもしれないわね。
例えば、悪しき王が、国の中で少数の髪色だったりしたら、どうなるかな?
私は、差別されると思う。あの王と同じならば、中身も同じになるのではないか、愚かな同化思想だけど。皆と同じ金髪だとしたら、次は、目の色が、肌の色がと小さく分けられて、誰かを否定する道具とされる。
色がなくても、顔立ちがと言われる。
そういうものよ。気に入らないときの言いようなどいくらでもあるけれど、討伐された王のようというのは良くないわ。
おまえが、似てるから同じものになるかもしれないから、殺す、とか言えちゃうのよ。治安が悪いと。あの教育ね。
中々ね、そのあたりは難しい。
そういうことをわかっていたのでしょうね。あの方は姿を消してしまうことにしたの。できるのかって? しちゃったのよね。不完全な、存在の消去魔法。
この世のすべてから、自分の姿だけを消しちゃった。
まあ、これは阻害魔法の一種で一定期間、思い出せないというものなのだけど。ま、人は100年もたてば姿も忘れるので効果はそれくらい。
そんなのできるなら、いなくなったふりくらいできるでしょうに。愚かな人。
ということよ。
ご本人が肖像権を行使し、利用の拒否をしたので、今も利用不可です。お姿は誰も覚えていません。そして、姿を描くことも許されません。
ご納得いただけて?
私は覚えているのかって?
どうでしょうね? まあ、覚えていても意味はないわよ。
なぜって?
そりゃあ、絵が、すっごく下手だからよ。普通、何十年もチャレンジすれば上達しない!? おまえに絵の才はくれてやらぬという神の采配を感じるわ。
……なに? あの壁の絵って。
…………なんでもないわよ。ほんとよ、さあ、さっさと帰りなさい。
魔女に食われたと大騒ぎされる前にね!




