プロローグ ~雪降る函館駅
特急「北海」編成図
荷物車/機械室 - 普通車 - 普通車 - 普通車 - 普通車 - グリーン車 - 食堂車 - 個室グリーン車
⇐至札幌(1号車側) (8号車側)函館⇒
冬の北海道、函館駅。線路には深々と雪が降り積もり、長い編成を従えた列車が発車を待っていた。札幌行き特急「北海」は、今では珍しい食堂車と荷物車を含む編成で、発車を待つエンジンの低いうなりがホームに響いている。
ホームでは、手袋をはめて急ぎ足で列車に乗り込む者、旅の始まりに心躍らせる者、革鞄を抱えて引き締まった表情を浮かべる者――様々な乗客たちが行き交う中、発車準備に追われる灰緑色の外套を纏った鉄道員たちの姿が、緊張感を漂わせていた。
ホーム上の売店では、弁当や飲料、新聞などが売られていた。多くの乗客が雪での遅れを予想し、弁当を購入していく。それと同時に、週刊誌や新聞を手に取っていく乗客も複数おり、たくさんの文字が連なる週刊誌の表紙には、『不動産会社社長 杉浦吉幸の黒い噂に迫る!』といった、いかにも週刊誌然とした文章が綴られていた。
今の時刻は一四時四〇分。発車まではまだ余裕がある時間だ。その中で、8号車の個室グリーン車には、中年の不動産会社経営者・杉浦吉幸が現れた。高価そうなコートを脱ぎ捨て、鞄を座席に置き、スーツケースを隅に寄せると彼は背後を一瞥しながら緩慢な動作で鍵の開いた扉を閉めた。その手はわずかに震え、扉が閉まる音がやけに大きく響いた気がした。
一方、4号車。インバネスコートに帽子という独特な服装の男が静かに席に着いた。探偵・佐伯涼介。函館での急な仕事を終え、札幌へ帰るためにこの列車に乗り込んだ。強まっていく雪景色を眺めながら、彼は小さくつぶやく。
「今日は大雪だな……あまり遅れないといいんだが」
一五時丁度、定刻で函館駅を離れた特急「北海」は、吹雪の中へと消えていった。その車内には、まだ誰も気づかない殺意が潜んでいた。
次回: EP1. 異変




