EP10. 小樽駅
特急「北海」編成図
荷物車/機械室 - 普通車 - 普通車 - 普通車 - 普通車 - グリーン車 - 食堂車 - 個室グリーン車
⇐至札幌(1号車側) (8号車側)函館⇒
トイレに向かった宮﨑が戻ってきたのは、列車が然別駅に停車してすぐだった。宮﨑が車掌室の扉を開けて中に入ってくるのと同時に、反対側のホームに対向列車が進入してきた。
列車前方の出発信号機が切り替わり、分岐器が切り替わったことを知らせる。それを見た大森はホイッスルを吹き、特急列車は再び走り出した。一両編成の普通列車を横目に、長い特急列車は唸りを上げて然別駅を後にした。
列車が揺れながら加速し始めた直後、宮﨑が小さく声を上げた。
「......佐伯さん、遅くないですか?」
「...確かに遅いですね。然別駅の停車時間内に帰って来るものだと思っていましたが」
「調査が難航しているんでしょうか?福田さん、話してくれなかったのかな......」
「あり得ますが、それなら佐伯さんはすぐに帰って来るでしょう。出る前にもそう言ってましたし」
「そうですね...じゃあ」
「......何かトラブルにあっている?」
宮﨑が深刻そうな顔で話す。応じていた大森も心做しか顔色が悪い。
「もしかしたら、最後尾の荷物室で何かがあったのかもしれません」
「最後尾ですか?」
「はい。倶知安駅での様子を見るに、福田さんは荷物室の簡易車掌室に居るはずです。そこで何かがあったのかも......」
「......あの、私が見てきましょうか?大森さんは車掌のお仕事で忙しいでしょうし......」
「いや、流石に危ないですよ!佐伯さんでも対処できないような問題かもしれないんですから!」
大森が声を荒げて言うと、宮﨑は口を閉じて黙り込む。少し言い過ぎたかと反省し、妥協案を提示する。
「とりあえず、小樽駅到着まで待ちましょう。小樽駅では二〇分の停車予定ですし、小樽駅までの間で佐伯さんが戻ってくるかもしれません」
「...そう、ですね」
宮﨑の歯切れの悪さが気になったが、自分が言い過ぎたせいだと思い直し、大森の心中が申し訳無さでいっぱいになる。
それを振り払うように、窓の外を見やる。森と吹雪が混じり合い、窓の外は白とも黒ともつかない闇に包まれていた。その中を、列車は音もなく滑るように進んでいた。
―まるで、行き先の見えない世界へ向かっているかのように。
・・・・・・
小樽駅
然別駅を出発して一時間程度が経過した頃、列車は小樽駅の三番線に入線した。本来ならば、駅舎横の四番線に入線する予定だったが、ダイヤ乱れにより番線変更がかかったようだ。
列車が完全に停車したことを確認した大森は車掌室を出る。
「では、僕は荷物室の方に行ってきます。関係者以外が立ち入らないように鍵をかけておくので、宮﨑さんはここから出ないでください」
「はい、わかりました」
簡潔なやり取りを終え、大森は車掌室の鍵を閉めた。
その後、列車の最後尾に向かって早足で歩く。最後尾に向かっている途中、大森は突然消えてしまった佐伯について考えていた。
『佐伯さんはどこに行ってしまったんだ?福田さんとトラブルになったとしても、一時間弱も戻ってこないのはおかしい......』
そこまで考えたところで、隣のホームに警笛が響いた。
どうやら、後続の列車が到着したようだ。それに乗務している車掌が見えたので、軽く敬礼をする。相手がそれに返したのち、列車はスピードを落として走り去った。一両編成のため、ホームの中ほどに止まるようだ。大森は歩き続け、1号車に入ったところで考えを整理した。
『......何らかの理由で、車掌室に戻ってこられない状況に陥ったか、そもそもこの列車から居なくなってしまったか、のどちらかか......』
考えを一度切り上げ、1号車を出る。1号車のデッキは至るところに雪が付着し、まるで吹き曝しになっているかのようだった。その光景に面食らいつつ、デッキから見える荷物室を見ると、何かが横倒しに置いてあるのが見えた。
それが自分と同じ車掌服を着た人であることに気づいたのと同時、後ろから扉を開ける音が聞こえた。首だけで振り向くと、服を裏返して着た人間が、まさに自分を押し出さんと手を伸ばしていた。
服の表側どうしが擦れ合い、奇怪な音を立てて腕を近づけてくる。
その腕には、出発前に車掌室にあったはずの錐が握られていた。
相手は腕を引き、腰を低くする。刺されると直感した直後、腕が自分の脇腹を目掛けて突き出された。そのとき、横から伸びてきた手が突き出された腕を寸前で掴む。
驚いてそちらを見ると、頭に包帯を巻いた佐伯が腕を掴んで立っていた。
EP11. 雪中行軍




