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第四話:蒼璟の疑念
後宮の北、禁軍の詰所。
蒼璟は机上に置かれた報告書に目を通していた。
華陽妃の急死。表向きには心臓病。
だが、現場で見た“あの宦官”――瑠山。
目の奥の色、視線の強さ、動き。すべてが“見習い”のそれではなかった。
「……あの者、ただの宦官ではないな」
声に出さず呟く。
蒼璟は、戦場帰りの軍人であると同時に、皇帝直属の諜報司を束ねていた。
彼の仕事は、表に出ない“危機”の芽を摘むこと。
そして直感が告げている。あの瑠山――いや、“女の仮面を被った何者か”が、後宮に潜む“影”と繋がっている、と。
蒼璟は机の引き出しを開け、古びた密書を取り出した。
そこには、かつての密偵が残した報告の一節があった。
>「“夜鶯”はまだ生きている。かつての盗賊団の影は、後宮にも潜んでいる」
“夜鶯”――かつて、辺境を騒がせた伝説の盗賊。
(まさか、あの宦官が……)
疑念が静かに、だが確実に、彼の胸の中で膨らんでいった。