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第十一話:影筆の遺命

その翌日、蒼璟が緋燕をふたたび呼び出した。


 場所は、誰も使わぬ後宮裏の監査局跡地。


 「どうやら、私とお前の“探し物”は同じようだな」


 蒼璟は、古びた巻物を一本差し出してきた。


 「これは……」


 「“影筆”の写しだ。本物はまだ手に入っていない。だが、これには“次の標的”が書かれていた」


 緋燕がその巻物を広げると、墨で記されたたった三つの名が目に飛び込んできた。


 >《白蓮妃》《花妃》《女医官見習い 凌華》


 緋燕の瞳が揺れる。


 「……どうして、彼女の名が?」


 「“香と医”の線を追いすぎたんだろう。香で殺された妃たちに手を伸ばした結果、彼女も“記録から抹消される”対象にされた」


 緋燕は静かに巻物を握りしめた。


 「私は“記録”を守りたい。誰かが命を書き換えるなんて、あってはならない」


 「ならば――お前は影鶯の名を継げ。“記録に抗う筆”として」


 蒼璟は鞘に収めた剣を軽く叩きながら言った。


 「私も“剣”として、その筆に道を拓こう」


 暗き後宮に、ふたつの意志が並び立った。

 一方は筆を、一方は剣を。

 その先にあるのは、命か、死か――記録か、抹消か。

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