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第九話:死衣の筆跡
翌日、緋燕は女官として布の仕分け仕事に紛れ、ひとつの情報を探っていた。
「最近、“宮装”の保管室に誰が入ったか分かる?」
「あ……はい。確か、数日前に一度、蒼璟様が――」
蒼璟の行動と、“死衣”の保存庫の出入りが一致する。
(……鏡、死衣、香――全部、蒼璟と絡んでいる)
彼が何を探しているのか。なぜあの名を知っているのか。
緋燕は単独で死衣の保管庫に忍び込み、白布に包まれた亡き宦官の衣の中から、
ある一本の筆を見つけた。
毛筆の軸には、消えかけた文字。
>《影、未だ尽きず。筆にて裁け》
兄が残した、最後の遺言。
それは命を懸けて残した“調査の継続命令”だった。
「……兄さん、私は今、あなたの筆を受け継いでる」
緋燕は筆を握り直し、絹の記録と照合するように調べを進めていく。
そこにはひとつ、気になる名があった。
>《鴇英 ─ 間者登録あり 接触注意》
(……どういう意味?)
まさか、鴇英もまた“二重の仮面”をかぶっている――?
信じたい気持ちと、疑うべき密偵としての本能が交錯する中、
緋燕はゆっくりと目を閉じた。
(私は、後宮を斬る筆になる。たとえそれが、誰を傷つけることになっても)




