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トンコリの完成

翌週からセイジの工房に部員5人が集まった。

セイジの教えは厳しかった。「トンコリ作りは木を削ることじゃない。長い年月を経て育った木の中に“眠っている音”を起こす行為だ。 選ぶ木は、風をたくさん受けてきた樹。彫る手は、音の抜け道を邪魔しない指。」

全員、ぎこちない手で、汗だくになりながら作業した。

しかし、1m20cmあまりの木を削る作業は、中学生の連たちや、高校生とはいえ、足の動かない詩織には過酷な作業だった。

電動のこぎりを使ったり、焼いた鉄の棒で穴を広げるような作業は、部員が帰った後にセイジが黙ってやってくれていた。セイジは的確に部員たちがそれぞれできる作業を見極め、その作業には一切手をつけなかった。自分でできる作業は自分でやり遂げることを強いることで、それぞれのトンコリに個性が宿っていった。

最後の作業、弦を張る作業でトンコリは完成した。

完成したトンコリは、セイジからそれぞれの部員に渡された。

セイジは一言だけ、こう言った。

「この音を、多くの人に届けてくれ。」

イメルが尾を振っていた。 誰も言葉にしなかったけど、 そこに“語ることを取り戻した大人”の火が、たしかに燃えていた。

田中さんは部員全員がトンコリを完成させたことに、驚きと喜びを隠せなかった。

ゆりが製作過程をデジカメで撮影していたので、そのデータをもらって活動記録を作ってくれた。

田中さんは「次は演奏できるように練習しないとね。」

そう言って、ネットで練習方法の動画を探してくれた。

しかし、セイジの力を借りてなんとかトンコリは作れたが、自分の力のみで演奏を習得することは、難しかった。

最初に値を上げたのはエカテリーナだった。

「ごめん。私には無理。指がつる。私は、踊りを極めるから許して。」

澪が続く「私も、勉強ばかりしていて、楽器の演奏ってしたことなくて・・・ごめん。」

ゆりも「トンコリを美しく演出する映像に全力を尽くしますから。演奏は勘弁して。」

なんと連でさえも「太鼓なら自信があるんだけど・・・すまない。」

結局詩織だけがトンコリの演奏を身につけた。「車いすに乗ってできるし、なんだかこの音、とっても癒やされる。」

エカテリーナは「過去の活動記録に書いてあるんだけど、読んでみるね。・・・トンコリには、不思議な力があると考えられていました。トンコリの音には、いろいろな力があり、上手に弾くとすごい力を発揮しました。病が広まったとき、トンコリを一晩中弾くと病気を振りまくカムイ(神)がその音を嫌ってその村には近寄らないとか、海で嵐にあって、一所懸命トンコリを弾くと嵐が静まったともいいます。」

澪「トンコリは弾く人を選ぶのね。」

連「澪、いいこと言った!俺は選ばれなかったんだろう・・・多分」

ゆり「見える。詩織だけがトンコリに愛される姿が・・・!」

エカテリーナ「そういうことで、詩織がトンコリ担当ということで・・・許して!田中さん。」

田中さんはあきれ顔で「仕方ないわね。その代わり文化祭では、皆他の役割をしっかりしてもらうからね。」

「はーい・・・」詩織以外はすまなそうに返事した。






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