第3話 エゴ
どれくらいの日が経ったのだろうか。
俺は未だ地に足固めず、ふらついていた。
あの日以来、俺は公園には行っていない。その周辺さえも。
だからナツキにも会っていない。きっともう俺の事なんて忘れているだろう。
素性の分からない者と親しくするなんて、親御さんも心配するだろうし、ナツキにとってもよくない。
俺は自分が足を向けない理由を正当化している。分かっている。
俺が会いたくないからだという事くらい。
でもそれを実感すれば、過去を直視する事になる。
今の彼女は俺がなれなかった理想の姿なのだ。
だが俺という人間は愚かなもので、何を思ったか、その日公園に足を運んでしまった。
「いない……か」
ホッとする反面、どこか寂しさも感じる。
帰ろう。そう思い踵を返すと、彼女はいたんだ。
「久し振り、太郎さん」
「何だよ。俺の事、覚えてたのか」
「何言ってるの?忘れる訳ないじゃん」
「……そうか」
忘れられている事を期待していた。
でも心のどこかでほっとしている自分もいる。
今からでも帰ればいい。それで終わる事だったのに、俺はベンチに座ってしまう。
その時、俺はふとある事に目がいった。
「靴ボロボロだな」
「あぁこれ?そうだねー、結構使ったから」
見た感じ相当年季が入っている。練習に使用し続けている事もあるがそれでも相当な消耗具合だ。
大人とは勝手が違う。成長期の子どもがこんな状態の物を履き続けるのはよくないだろう。
「まぁこの靴も大会までかな。流石にもたないだろうし」
「それはダメだろ!」
思わず大きな声を出してナツキを驚かせてしまう。
だが普通に考えてダメだ。
色々な事情があるのだろう。それでも、ここまで関わった少女が全力で挑む事が出来ないなんて許す事は許容出来ない。
出来る事を全てやった上での後悔は尾を引かない。
だが、まだやれる事があった、あの時これをしていれば、そんな後悔は生涯纏わり付いてくる。
彼女には俺と同じく思いはしてほしくない。
「シューズは買えないのか」
俺の質問にナツキは歯切れが悪そうに答える。
「いや……えっと、うん」
「そうか。だったら俺が買ってやる」
「ダメだよ!太郎さんには関係ない―――」
「関係はある。いいかこれはナツキの為じゃない。俺の為なんだ。俺はナツキの練習を見ていて、全力で挑んでほしいと思った。もしも今のまま送り出す事になれば、俺は一生後悔する。だから文句は受け付けない」
「そんなの……意味分かんないよ……」
理解出来なくていい。これは俺のエゴなのだから。
「分かんないって!」
ナツキはそのまま走り去ってしまった。
その後ろ姿を見て、俺は徐々に冷静になっていく。
「これってパパ活ってやつになるのか……?」
最悪捕まる可能性がある発言をしてしまったんじゃないのか。
今から追い掛けるか。それこそ女子中学生を追い掛けまわす犯罪者だ。
自身の先走った発言に一気に血の気が引いていき、俺は春先だと言うのに異様な寒さを感じるのだった。