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特別な日  作者: 口羽龍
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 と、鈴はある出来事を思い出した。去年の正月に起こった能登半島大地震だ。地震によって鈴は、輪島の実家を失った。両親はそれで被災し、神戸に移り住んだという。地震で故郷を離れた2人はとても悲しんでいる。また実家に帰りたいと思っている。だけど、それはいつの日になるんだろう。全く先が見えない。神戸より生まれ育った輪島がいいに決まっている。


「そういえば、去年の正月は能登半島大地震から始まったね」

「あの時は大変だったわ。私、珠洲の実家にいたんだけど、大きな揺れが起きて驚いたわ」


 公希も、同席している人々もそれに感心していた。あの地震もすごかった。東日本大震災を思い出した。あれほどの被害は出なかったものの、とてもひどかったな。正月というめでたい時に、どうしてこんな事が起こるんだろう。あまりにもひどすぎるよ。その後も災害が続き、2024年はどうなるんだろうと思った。だけどそんな中で、人々は助け合う気持ちで頑張っている。それが人間の力なんだ。


「どうしてこんな事になったんだろう」 

「私、あれが起こってから、いろんな神社に行って、お参りしたの。もうこんなひどい事が起こらないようにと」


 公希も様々な神社に行って、お参りした。本当にこれで災害が起こらなくなるんだろうか? 不審に思えてきた事もある。


「僕もだよ」

「神様は、どうしてこんなひどい試練を与えるんだろう」


 鈴は思っている。どうして神様はこんなひどい試練を与えるんだろう。どうしてこんな世界になったんだろう。乗り越える力を試すためと思えるけど、あまりにもひどいよ。それによって何千人も亡くなる事もあるのに。どうしてそんな事をするんだろう。


「わからない」

「でも、人々は受けなければならない。そして、強く生きなければならない」


 だけど、公希は思っている。地震にも負けず、強く生きなければならない。それはきっと人々を強くする、そして誰かを強くするんだ。震災を乗り越えて優勝、日本一になったブルーウエーブや楽天イーグルスのように。


「そうだね」

「今度は、どんな困難が待ち受けているんだろう。どんな困難があっても、僕らは立ち向かわなければならない」


 この先、どんなことがあるかはわからない。だけど乗り越えるんだ。みんなのために、誰かのために。


 鈴は神戸の復興の歴史を考えた。阪神・淡路大震災以降、神戸は復興してきた。だけど、神戸はその日の記憶を語り継ぎ、その想いをつないでいく。あの日の記憶は徐々に薄れていく。だけど、忘れてはならない。だからこそ、ルミナリエや1.17のつどいはあるんだ。


「復興していく神戸を見て、思う事があるの。人の力って、どこにあるのかなって。人間の力って、何なのか知りたくなった」

「人間の力か・・・。俺も知りたいな」


 同席していた原は思った。人間の力なんて、考えた事がない。だけど、その話を聞いて、もっと知りたくなったな。


「助け合う力、思いやる力だろうか?」

「そうかもしれない」


 彼らは真剣な表情になった。阪神・淡路大震災から30年、東日本大震災から14年、能登半島大地震から1年。能登はどういう風に復興していくんだろう。もし復興したら、能登半島を旅したいな。その日の記憶がしっかりと残っているか確かめつつ。


「みんなにも考えてもらいたいな。人間の力って、何なのかって」

「そうだね」


 公希は時間を見た。そろそろ帰る時間だ。公希につられるように、みんなも時計を見た。そろそろ帰ろう。




 公希は六甲道駅までの道のりを歩いていた。その先にある六甲道駅も阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたという。1階がつぶれ、ホームがぐちゃぐちゃになった。だが、74日で復旧したという。あれから30年、六甲道駅は何事もなかったかのようになっている。だけど、それは紛れもない事実だ。


 公希は神戸の夜景を見て、考えた。あの頃の夜景は、どうなっていたんだろう。とても少なかっただろうな。あの日、街の明かりが消え、人々はどんな思いだったんだろう。とても悲しかっただろうな。昨日までの美しい神戸の夜景が一気に消えてしまった。どうしてこんな目に遭わなければならないんだろうと思っただろうな。


「30年前、この夜景はどうなってたんだろう」

「どうだろう」


 原も考えた。自分は神戸に生まれ育ったが、阪神・淡路大震災を経験していない。当時の夜景を見た事がない。だけど、つらかっただろうな。昨日までの当たり前の生活が奪われて、これからどうしていけばいいんだろうと思っただろう。だけど、助け合う力、頑張ろうとする力で復興していった。人間の力を肌で感じただろうな。


「きっと、ほとんどなかっただろうな」

「あれから神戸は、復興していった。だけど、あの日の記憶を決して忘れていない」


 そして今年もルミナリエ、1.17のつどいが行われた。あの日を決して忘れずに、助け合う力を忘れないためにも。そして何より、あの日の記憶を忘れないためにも。


「その日を知らなくても、私たちは伝えていかなければならない」


 公希は改めて決意した。これからの子供たちに、助け合う力、人間の力を伝えていかなければ。あの日に生まれ、東日本大震災を経験し、東日本大震災で家族を失ったからこそ、伝えたい事がある。だからこそ僕は、この街で教員として生きていくんだ。

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