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特別な日  作者: 口羽龍
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 11月3日、この日は文化の日、大学は休みだ。今日は日本シリーズの第7戦だ。両チーム3勝ずつで、今日で日本一が決まる。どっちが勝つかわからないけれど、楽天イーグルスが勝ってほしい。応援しているし、被災した東北に勇気を与えるためにも、そして日本一になってマー君をメジャーに送り出したいという気持ちがある。今日は観戦に行かず、テレビで見る予定だ。


「今日が第7戦なのか」


 公希は振り向いた。そこには中村がいる。中村もテレビで第7戦を見る予定だ。


「そうみたいだね」

「昨日、マー君負けちゃったんだよな。第5戦を生で見て王手をかけたから、次の試合はマー君で勝って日本一だと思ってたのに」


 昨日の第6戦はホームゲーム、しかも負けなしのエース、マー君が投げた。この時点で楽天イーグルスは王手をかけていて、これで日本一は決まったと思った。だが、マー君が攻略され、負けてしまった。巨人に逆王手をかけられた。これでわからなくなった。


「そうだね」

「マー君、メジャーに行っちゃうのかな? 寂しいけれど、それが夢だと思うから、止めはしないけど」


 マー君は今年限りでメジャーに行く事が報道されている。2006年のドラフト1位で入団して以降、楽天イーグルスの未来のエースとなるだろうマー君は、1年目から期待通りの活躍もして、新人王を獲得した。その後もいくつかタイトルを獲得し、去年の途中から全く負けていなかった。


「寂しいね。でも、初の日本一を置き土産にして、メジャーに行ってほしいね」


 思えば2004年、球界再編の中で誕生した新しい球団、戦力は乏しいもので、1年目の初戦は勝ったものの、100敗近くした。だけど、老将野村克也監督のもとで徐々にチームになってきた。そして、Aクラスにもなった。そして、星野仙一監督の就任。だが、星野政権1年目でこれからという時に起こった東日本大震災。そんな中、楽天イーグルスの選手の姿はみんなに勇気を与えてくれた。どんなに弱くても応援してくれたファンへ、今日、最高の恩返しができるかもしれない。


「うん。あれから9年、やっとここまで来れた。それだけでもすごいと思う」


 そして、試合が始まった。巨人の先発は杉内、楽天イーグルスの先発は美馬だ。


「さて始まった。見よう」

「うん」


 2人はじっとその様子を見ている。Kスタ宮城には超満員の客がいる。そのほとんどは楽天イーグルスファンだ。その時、2人は知らなかったが、隣の陸上競技場にも多くの楽天イーグルスファンがいる。


「今日はどうだろう」


 試合は1回裏、楽天が巨人のショート坂本のエラーで先制した。ひょっとしたら、これは日本一になれるんじゃないかと思った。だが、まだ1点だ。試合はまだまだわからない。


「よし! 先制した!」

「いけいけ! このまま日本一だ!」


 そして2回裏、追加点が入った。そして、先発の杉内は降板した。いよいよ日本一が見えてきた。2人とも、笑みを浮かべながら見ていた。もう目の前に日本一が見えるようだ。


「追加点入った!」

「よしこれで杉内降板だ」


 美馬はここまで無失点に抑えている。このままいけばMVPも夢じゃないだろう。だが、ここまで頑張れたのは美馬じゃなくてマー君の影響だろう。


 そして4回裏、牧田のホームランが飛び出した。もう日本一は目の前だ。このまま逃げ切ってほしいな。


「ホームラン!」

「これで決まったかな?」


 だが、公希は気が抜けない。試合は最後までわからない。日本一を決めてから喜ぼう。


「まだまだ分からないよ」


 7回表、先発ローテーションの則本がマウンドに上がった。まさか、則本が上がるとは。どうしてだろう。まさか、最後はまたしてもマー君が来るんじゃないかな?


「えっ、則本?」

「どうして?」


 その時、中村は思った。ひょっとして、10.8名古屋決戦のように先発3本柱を使ってのリーグ優勝のように先発の柱を使ってくるのかな?


「総力戦なんだろうな」

「うん・・・」


 8回裏、楽天イーグルスのブルペンの映像が映し出された。そこには、マー君がいる。まさか、昨日今年初めて負けたマー君がいるとは。負けてメジャーに行くより、自分が締めて楽天イーグルスを日本一にしてからメジャーに行きたいんだろうか?


「あれっ、マー君・・・」

「マー君がどうして? 昨日投げたのに」


 中村も驚いた。まさか投げるとは。本当にマウンドで投げるだろうか?


「どうしているんだろう」


 そして、8回裏が終わった。誰が出るんだろう。星野監督が審判と話をしている。選手交代だろう。8回表を投げていた則本はベンチにいる。


「8回終わった!」

「いよいよ9回だね」

「うん」


 と、楽天イーグルスの選手交代のアナウンスが出た。そして、ファンキーモンキーベイビーズの『あとひとつ』が流れた。それを聞いて2人はわかった。マー君が最後を締めるんだと。


「えっ、マー君?」

「出るの?」

「そうみたいだ」


 2人は興奮している。いつの間にか、一緒に『あとひとつ』を歌っていた。とても感動的な場面だ。まるでスタジアムや競技場の楽天イーグルスのファンの想いが一つになっているようだ。


「あとひとつだ!」

「まさにそうだ」


 だが、公希は思った。どうしてここで出るんだろう。マー君は昨日、先発で投げたじゃないか?


「でも、どうして出るんだろう」

「やっぱりマー君で締めたかったのかな? 負けてメジャーに行くより、勝ってメジャーに行きたいと思ったのかな?」


 負けてメジャーに行くより、勝ってメジャーに行きたい。悔いなくメジャーに行けたら最高だろうな。


「そうかもしれない」

「感動的な場面だね」

「うん」


 9回裏は先頭打者にヒットを許したものの、坂本を三振に抑えた。1人抑えると、歓声が上がる。日本一になったらどれだけの歓声が聞こえるんだろう。わからないけれど、とても大きいだろうな。


 次の打者のボウカーはファーストゴロに倒れ、いよいよあと1アウトになった。いよいよ日本一は目前だ。


「あと1人!」


 だが、次の打者のロペスにヒットを許し1.3塁になった。またしてもピンチだ。どうなるだろう。


「ピンチ!」

「何とか抑えて!」


 次の打者は代打の矢野。2人は祈っていた。マー君なら絶対に抑えてくれる。日本一に導いてくれる。


 4球目、空振り三振。この瞬間、楽天イーグルスの日本一が決まった。


「三振!」

「日本一!」


 2人は感動していた。楽天イーグルスの選手たちがマウンドの付近に集まった。まさか日本一になるとは。ここまでたどり着けるとは思わなかった。東日本大震災から2年半余り経った。ようやく東北の人々に恩返しができた。


「感動的な場面だね」


 これは球史に残る名場面だろう。この感動は絶対に忘れない。

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