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特別な日  作者: 口羽龍
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 それからの事、公希はずっと下を向いていた。どうしてこんな事になったのか、なかなか理解できなかった。どうして東日本大震災が起きなければならなかったのか、それで家族をみんな失わなければならなかったのか。とても現実とは思えなかった。だが、受け止めていかなければならない。それがたとえ悪夢のような出来事であっても。だが、どうやったら受け入れられるようになるんだろう。全く受け入れられない。


「どうして、あんな事で・・・」


 と、誰かが公希の肩を叩いた。新山だ。新山は公希をとても心配していた。早く立ち直ってほしかった。


「悔しいよな」

「うん」


 公希はこれまでの両親との日々を思い出した。これまでの思い出が走馬灯のようによみがえる。だが、もうそんな日々は二度と訪れない。あの日、東日本大震災が起こっていなければ、もっと続いていたのに。


「これからの成長、見たかったよな」


 公希は涙を流した。これで何度目だろう。何度泣いても、悲しみを忘れる事ができない。


「うーん・・・」


 だが、その中で公希には思っている事がある。阪神・淡路大震災の日に生まれ、東日本大震災を経験した。それを何かに生かせないだろうか? そうだ、この日に生まれて、東日本大震災を経験した自分が、教員となって子供たちに伝えていきたい。公希はこの時初めて、夢という物を決めた。


「どうしたの?」

「僕、思ったんだ。神戸で教員になろうって」


 新山は驚いた。公とつにどうしたんだろう。どうして東北じゃなくて、神戸なんだろう。何か理由でもあるんだろうか? 東北にはもういられないと思っているんだろうか?


「神戸? どうしてそんな所で? どうして東北じゃダメなの?」

「僕の生まれた日って、知ってるか?」


 新山は首をかしげた。公希の誕生日など、詳しい事はあまり知らない。それに関係があるんだろうか?


「知らない」

「1995年の1月17日」


 それを聞いて、新山はまた驚いた。1995年1月17日と言えば、阪神・淡路大震災が起こった日じゃないか。公希がこの日に生まれたとは。


「そ、その日って・・・」

「そう。阪神・淡路大震災の日なんだ」


 公希は少し真剣な表情になった。この日に生まれたというのは、生きていくうえで重要になってくるかもしれない。


「そうなんだ。どういう運命のめぐりあわせだろうか?」

「だから僕は、教員になって、東北と神戸をつなぐ絆になりたいと思って」


 新山は感動した。公希がこんな事を考えているとは。きっと素晴らしい教員になるぞ。


「それで神戸でなろうと思ったのか」


 新山は公希の頭を撫でた。公希は少し笑みを浮かべた。公希の目の周りにはまだ涙が付いている。


「いいじゃない。やっと夢ができたんだから。頑張ってよ」

「うん」


 公希は空を見上げた。きっと両親は、遠い空の天国から見ているんだろうな。夢が決まった事を、どう思っているんだろうか? 喜んでいるんだろうか? もし会えたら、聞きたいな。でも、聞く事ができない。


「父さん、母さん、やっと夢が決まった自分を見て、どう思ってるんだろう」

「きっと喜んでるだろうよ」


 新山も感じている。きっと喜んでいるに違いない。


「そうだね」


 ふと、公希は思った。東日本大震災が起こったけど、東北はきっと復興していく。阪神・淡路大震災から復興していった神戸のように。みんなが支えてくれる。そして、強くなっていく。


「これから東北は、どうなっていくんだろう」

「わからないけれど、きっと復興していくさ。阪神・淡路大震災から復興していった神戸のように」


 新山もそれを感じていた。これからの東北の未来はわからない。だけど、復興してくことだけは見える。それはいつの事になるだろう。もし復興したら、再びこの東北を一緒に旅したいな。


「そうだといいね」

「もし、完全に復興したら、またここに来たいな」

「そうだね」


 公希は仙台駅の先を見た。そこには日本製紙クリネックススタジアム宮城、通称Kスタ宮城がある。2004年に創立した新球団、楽天イーグルスの本拠地だ。楽天イーグルスは最初、とても弱くて、ぶっちぎりの最下位だった。100敗するんじゃないかと言われるぐらいに弱かった。だが、野村監督の手で徐々に力をつけてきた。今年からは、中日ドラゴンズや阪神タイガースを率いて、リーグ優勝に導いた星野仙一が監督に就任する。どんなチームになるのか、全くわからない。でも、期待がわいてくる。思えば16年前、オリックス・ブルーウエーブが阪神・淡路大震災の起こった年にリーグ優勝した。あの年のように、楽天イーグルスも頑張ってくれるんじゃないかと期待している。


「どうしたの?」

「楽天イーグルス、優勝しないかな?」


 公希は疑問に思った。どうして優勝とか言っているんだろうか? 楽天イーグルスは日本一どころか、優勝すらした事がない。なのに、どうして優勝なのか?


「どうして?」

「知ってる? 阪神・淡路大震災が起こった1995年、オリックス・ブルーウエーブはリーグ優勝を果たし、翌年は日本一になったんだって。『がんばろうKOBE』って合言葉が印象的だったらしいよ。あの時みたいに、楽天イーグルスが優勝しないかなと思って」


 公希は驚いた。16年前、こんな出来事があったんだな。そう思うと、今年の楽天イーグルスは何かをしてくれるんじゃないかという期待がわいてくる。


「そうだね。最初はぶっちぎりの最下位だったけど、徐々に強くなっているよね。そして今年から、星野監督が率いるんでしょ? どんなチームになるのかな?」


 新山も楽天イーグルスのファンだ。最初は巨人軍だったが、東北に新球団ができると聞いて、楽天イーグルスのファンになった。


「わからないけれど、きっと強くなると思うよ。そして、いつか日本一になってほしいな」

「そのためには、マー君が頑張ってくれないと」


 マー君とは、田中将大投手の事だ。2006年のドラフト1位で入団した。この年の高校野球でナンバーワンの投手で、まさか楽天イーグルスがこんな大物を引き当てるとは思っていなかった。背番号は18番、多くの日本のプロ野球チームがエースナンバーとしている背番号だ。将来、エースになる事を宿命づけられ、期待されていた。マー君は1年目から活躍し、新人王を獲得、あっという間に楽天イーグルスの顔になった。いつか、楽天イーグルスの歴史に残る投手になるんじゃないかと思っている。


「マー君、いつか楽天の歴史に残るピッチャーになってほしいね」

「うん」


 楽天イーグルスはこの年は目立った成績は残せなかった。だが、2年後の2013年、前年から全く負けていないマー君の活躍もあって、リーグ優勝、クライマックスシリーズ優勝、日本一と勝ち進んでいく。

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