3
2011年3月11日、公希は仙台で一人暮らしをしていた。公希は仙台の私立高校に入学し、日々勉強を頑張っていた。成績は良く、東京の大学も狙えるだろうと言われてきた。クラスのみんなからの信頼も厚く、頼りにされていた。
「公ちゃん」
公希は横を向いた。そこには同級生の新山がいる。新山はそんなに成績が良くなく、公希を頼りにしていた。
「どうした?」
「ここ教えて!」
「わかった」
公希は教えようとした。だが突然、大きな揺れを感じた。こんな大きな揺れ、感じた事がない。まさか、地震だろうか?
「うわっ!」
「何だ?」
新山も驚いている。2人はすぐに、机の下に隠れた。この校舎は耐震工事を施してあるから大丈夫だと信じてる。だが、ガラスなどが飛んできたら大変だ。気を付けないと。
「地震だ!」
周りは騒がしくなっている。今さっきの静寂さが嘘のようだ。
「隠れろ!」
「うん!」
周りの人々も中に隠れた。みんな、びくびくしていた。校舎はどうなってしまうんだろう。とても不安だな。
しばらくして、揺れが収まった。だが、まだ油断はできない。また大きな揺れが起こるかもしれない。
「収まったか?」
「うん」
公希はほっとした。校舎は崩れなかったようだ。誰もが安心したような表情だ。だが、まだ気が抜けない人もいる。彼らは、実家から離れて通っている生徒たちだ。実家の方は大丈夫だろうか?実家は崩壊していないだろうか? 火事が起こっていないだろうか? 津波に飲まれていないだろうか?
「大丈夫だったみたいだな」
「ああ」
揺れは収まったが、公希はまだ安心できていない。実家のある恋島は大丈夫だろうか? 恋島は海沿いの漁村だ。津波の被害はどうだろう。大きな揺れが起こっていたら、大津波が来るかもしれない。
「うーん・・・」
「どうした?」
新山は公希の表情が気になった。何か、心配している事でもあるんだろうか? もし会ったら、話してほしいな。
「かなり強い揺れだったけど、岩手の実家は大丈夫かな? 沿岸だから津波が心配だ」
それを聞いて、新山も不安になった。公希は岩手の恋浜という海沿いの漁村の出身だ。実家はどうなっているのか、気になるな。
「そうだね」
「テレビつけるわよ」
「うん」
先生はテレビをつけた。そこには、沿岸に迫る大津波が映し出されていた。ここは恋浜ではないが、恋浜でもこんな大津波が来ているんだろうか? だとすると、実家が心配だ。
「えっ、津波?」
「本当だ!」
と、公希は思った。携帯電話をかけよう。家族の安否が気になる。
「大丈夫かな? 電話をかけよう」
公希は電話をかけた。だが、通じない。どういう事だろうか? 崩れて通じなくなっているんだろうか? それとも、大津波が来て逃げているんだろうか? はたまた、実家ごと津波に飲まれたんだろうか?
「出ない・・・」
公希は電話を切った。公希は下を向いている。
「大丈夫かな?親戚に電話をしよう」
公希は親戚の家に電話をかけた。だが、そこにも通じない。親戚も同じ状況なんだろうか?
「うーん・・・、それでもわからない」
公希は電話を切った。どうしていいのかわからない。ただ、ニュースから津波の被害を見るしかできない。
「出ない?」
「うん」
新山も不安そうな表情だ。公希の家族は無事だろうか?
「大丈夫かな?」
「大丈夫だと信じよう」
「うん」
臨時ニュースを見ながら、公希の両親の無事を祈った。どうか、生きていますように。大津波が恋浜に来ませんように。
突然、電話が鳴った。誰からだろう。公希は画面を見た。近所の林さんからだ。公希は電話に出た。
「もしもし!」
「公ちゃん?」
林は息を切らしている。林も大地震で焦っているようだ。もし、大津波が来ていたら、それでも焦っているだろう。
「うん、そうだけど」
「お父さんとお母さんが、津波にさらわれたって」
それを聞いて、公希は頭の中が真っ白になった。両親が津波にさらわれたとは。つまり、両親は死んだという事だろうか?
「そんな・・・」
公希は電話を切った。そして、その場に崩れ落ちた。新山は公希の肩を叩いた。だが、公希は立ち上がらない。まさか、両親が津波にさらわれたのかな?
「どうしたの?」
「お父さんとお母さんが、津波にさらわれたって」
新山は呆然となった。公希の両親がこんな事になるとは。自然の驚異とはいえ、あまりにもひどすぎるよ。
「そんな・・・。どうしてこんな事で・・・」
公希は東日本大震災で両親を失ってしまった。これから自分は、どうすればいいんだろう。公希は涙を流してしまった。その後、数時間は泣いていたという。