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特別な日  作者: 口羽龍
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 2010年1月17日の事だ。公希は岩手の海沿いにある、恋島という小さな集落の実家に住んでいた。恋島は小さな漁村のある集落で、ここで獲れる海産物はとてもおいしい。


 公希は10歳の誕生日を迎えた。だがこの日、この年はとても特別な日だ。この日は阪神・淡路大震災が起こった日で、いつも特別な日だが、今年は少し違っていた。15歳の誕生日を迎えた、つまり、阪神・淡路大震災から15年が経ったのだ。いつも以上にそれにちなんだ特集がテレビで組まれていて、あの日の事を忘れないようにしている。


 そんな中、公希の実家では公希の誕生日会が行われていた。この日は周辺の住民が多く来ている。公希は恋島では数少ない子供であって、近隣住民からはとてもかわいがられていた。


「誕生日おめでとう!」

「今日で15歳だね」

「うん」


 15歳を迎えた公希は、本来なら喜んでいるはずだ。だが、公希は浮かれない表情だ。高校受験が迫っているからだ。あと1か月足らずで専願の高校の入試が決まっている。専願の高校は宮城県の仙台にある高校で、そこに進学すると、仙台で一人暮らしをすることになる。実家から離れるのは寂しいけれど、成長するためには一人暮らしも大切だ。


 だが、両親は別の意味で浮かれない表情をしていた。阪神・淡路大震災の特集番組を見ているからだ。この日は公希の誕生日であるとともに、阪神・淡路大震災が起こった日なのだ。


「そしてもうあれから10年なんだね」

「阪神・淡路大震災だね」

「そうだね」


 だが、公希は全く気にしていない。今日は誕生日だ。もっと楽しい話をしようよ。目の前に誕生日ケーキがあるんだし。


「明るい話をしようよ」


 と、公希の母な真剣な表情で公希を見た。今までにない表情だ。何事だろう。


「聞いて、公希」

「何?」

「あなたの名前は、希望に満ちた日々になるように、希の漢字を付けたの」


 公希は驚いた。自分の名前にはこんな想いが込められていたのか。母の思いに応えるためにも、もうすぐ行われる入試を頑張らないと。そして、両親に恩返しができるように成長しないと。


「へぇ」


 と、公希の父が公希の肩を叩いた。どうしたんだろう。


「だから、希望に満ちた日々を送れよ」

「わかった」


 ふと、公希は思った。これから自分は、どんな人になるんだろう。公希はこれからの自分の姿が全く想像できなかった。ただ、成長して子供をもうけている自分が思い浮かぶだけだ。


「どうしたの?」

「僕は将来、どんな人になるんだろう」


 父は思った。自分も全く想像できない。だけど、偉い人になってほしいな。そして、いい相手を見つけて結婚して、幸せな家庭を築いてほしいな。


「まだ、わからないの?」

「早く決めたいと思ってるんだけど」


 と、母は笑みを浮かべた。どうしたんだろう。今さっきまで真剣な表情だったのに。


「どんな人になってもいいから、いい人生を送ってね」

「うん」


 公希は思った。自分の誕生日は、阪神・淡路大震災の起こった日だ。これは何という偶然だろうか? この日に生まれた事って、自分が生きていくうえで役に立つのでは? それを売り物にして、何かをできる仕事がいいな。


「この日に生まれたって、どういう偶然だろう」

「そうだね。どうしてその日なんだろうね」


 今年で公希は15歳だ。あと5年で大人だ。どんな大人になるんだろう。全く想像できないな。


「あと5年で大人だね」

「ああ」


 と、母は考えた。将来、公希はどんな人と結婚するんだろう。そして、孫はどんな顔なんだろう。早く見てみたいな。


「私思うの。公希、どんな人と結婚するのかなって」

「どうだろう。だけど、おとうさんもお母さんも納得できるような人と結婚できたらいいな」


 公希はケーキを食べ終えた。それとともに、公希は席を立った。いつまでもここで座って、誕生日を喜んでいるほど暇ではない。受験勉強をしないと。両親、いや、今まで支えてくれた人々のためにも、専願の高校に受からないと。


「さて、今年は高校受験だね。頑張ってね」

「うん。専願の高校に入試できるように、頑張ってね」

「うん。さて、受験勉強を頑張らないと」

「頑張ってね」


 公希は2階に向かった。その様子を、両親はじっと見ている。高校受験を頑張っている公希を見て、2人はとても嬉しくなった。きっと、頑張り屋さんのいい子になるだろうな。きっと、素晴らしい恩返しをしてくれるだろうな。


「どうしたんだい?」

「どんな子になるのかな?」

「この子の未来に期待しようよ」

「そうだね」


 2人とも笑みを浮かべている。2人は、公希の未来に期待した。公希は一体、どんな大人になるんだろうか? きっと、自分たち以上にいい子に育つだろうな。将来、私たちに素晴らしい恩返しをしてくれるだろうな。みんなに尊敬される人になるだろうな。


「さて、私たちも頑張らなくっちゃ」

「ああ」


 3人の未来は、希望に満ちているはずだった。そう、あの日までは。2011年の3月11日、14時46分までは。

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