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【本編完結】“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。  作者: ぽんぽこ狸


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39 ローゼ



 


 結婚を直前に控えて、レーナは父やヨエルとともに、ヒューゲル伯爵家に向かうことになった。


 もちろんそれは、母にヨエルのことを紹介するための行動であったが、やっとやり直す気になった父を監視するという意味もある。


 ヒューゲル伯爵家に到着すると、伯爵の地位を息子に譲り渡し隠居しているギデオンとセシリアに迎え入れられた。


 彼らはレーナからすると、おじい様とおばあ様にあたる人たちで何度か会ったことがある。


「よく来たね。レーナ、待っていたよ」

「まあまあ、こちらの方は、手紙に書いてあったレーナの旦那様? とってもかっこいい人ね!」


 おじい様とおばあ様はレーナのこともヨエルの事も歓迎してくれる。


 ヨエルは、そんな彼らに笑みを浮かべて年上の彼らに敬意を表すように頭を下げた。


「初めましてヨエルと申します。今日はよろしくお願いします」

「あら、こちらこそ。ローゼに会いに来てくれてありがとう、さあ案内しますよ。ローゼは今日もお気に入りの場所にいると思うわ」


 好青年らしくヨエルが挨拶をすると、おばあ様はご満悦の様子で屋敷の中へと案内してくれる。


 しかし今この場には父もいるのだが父については、おじい様もおばあ様もノータッチである。


 その様子から非常に腹に据えかねているのだとうかがえた。


「ああ、ギデオン。あなたはそちらの方に、少し説教をしてやりなさい。まったくやっと顔を見せたと思ったら、娘に連れられて情けなくないのかしら」

「……た、大変申し訳ございま━━━━」

「謝罪ならば、私が存分に聞こう。さぁ、オーガスト、存分に話をしようか」


 すると、おっとりとしていて、レーナに一度も怒ったことのないおばあ様が皺の深い笑みを浮かべて、おじい様に指示する。


 おじい様も待ってましたとばかりに父の前に立ちはだかり、しおらしい父を連れて行った。


 彼はここでもこってり絞られるらしい。


 ぜひとも、思う存分に絞ってほしい。レーナたちも父の無責任さには困っていたのだ。


「うーん。……クレメナ伯爵は誰にも頭が上がらずに大変だな」


 そんな彼をみてヨエルは感想を言う。ここに来るまでも何度か、自分などローゼにあわす顔がないと再三言っていた彼を見ていたので、少々呆れも含まれている。


「そうですね。でも、皆、父を待っていたのです。見離すことなく、おばあ様たちも」

「ええ、そうですよ。きっと、来るだろうとローゼは言っていましたからね」

「すごいな。俺だったら……きっと待てない」


 ヨエルは感心するように言って、レーナたちはローゼの元へと向かった。


 屋敷の庭園を抜けてはずれの方へと向かうと、そこには大きな泉があり、そばにはたくさんの野花が咲いている。


 小さなテーブルセットがあって、髪も結い上げていないし、簡素で動きやすい平民のような服を着ている女性が一人。


 レーナの記憶にもこの場所で遊んだ記憶がある。


 彼女はそわそわとしてあたりを見ていて、こちらを見つけると、椅子をけ飛ばすように立ち上がって、小さな石畳の小道をぱたぱたと駆けてくる。


 くるくるとした髪とべっ甲色の瞳はレーナとまったく同じで、年をとってもあまり年齢を感じさせない外見だった。


「っ、レーナちゃん! 久しぶり、ずっと、ずーっと会いたかったのよ!」


 彼女はガバッとレーナに抱き着いて「アハハッ」と軽やかな笑い声をあげる。それから「おっきい、おっきくなったわ!」「可愛い可愛い私のレーナちゃん!」とレーナの事をこれでもかと抱きしめながら楽し気に口にする。


 ぱっと離れていって、とても仲の良い親友にあった子供のようにはしゃぐ母に、レーナも目を細めて手を取る。


「私も、ずっと会いたかったです。お母さま」

「うん、私ったらレーナちゃんのお母さんだもの。アハハッ、不思議、レーナちゃんが大きくなってて、すっごく嬉しい、ずっと会いに行ってはダメって言われていて困ってたの」

「私もちょっと困ってたけれど、これからはいっぱい会いに来られます、来ていいですか」

「うん。いいよっ、何して遊ぼうか? 小さかったときみたいに、ぐるぐる回すのはもうできないかも」


 レーナの身長を見て困ったように言う母に、そういえばそんな遊びも昔はしていたなと思う。


 しかし、今日来たのには理由があるのだ。置いてけぼりにしてはいけないだろうと、ヨエルの方を見た。

 

 すると彼は目を見開いていて、ローゼのことを凝視している。


 ……もしかして、気を悪くしてしまいましたか?


 レーナにとっては過去の思い出と変わりない母で元気で愛らしいまま健在なことが嬉しいが、彼からするとこんなふうだとはまったく想像していなかったのかも知れない。


 もしくは、想像はしていたけれどひどくかけ離れていたとか。


 心配になって、ヨエルに声をかけられずにいると、彼は堪えられないような笑みを浮かべて、レーナと目が合って嬉しそうに言った。


「すごいな、レーナ。君、ローゼさんとそっくりだ」

「そ、そう、ですか?」

「ああ、俺も話したい、紹介してもらってもいいか?」

「はい」

「レーナちゃん、このお兄さんは?」


 レーナがヨエルと言葉を交わすと、ローゼも気になった様子で問いかけてくる。


 その質問に用意していた返答を返す。


「お母さま、この人は私の好きな人、私、結婚します。名前はヨエル様です」

「ヨエルくん?」

「はい。とってもいい人です」


 紹介すると母は、ヨエルのことを上から下までじっと見て、それから少し考えて、ヨエルはその間に少し緊張している様子だった。


 しかし母は、ぱっと手を広げてそれから、そっと抱きしめる。


「うん、かっこいいお兄さんね。じゃあ、三人で遊びましょ」

「お、おう」

「はい」


 ヨエルは自分にも抱擁をされてこれまたとても驚いた様子だったが、母の提案に反射的に答える。


 その様子を見てほっとしたらしいおばあ様は「ローゼ、はしゃぎすぎないようにね」と声をかけて、屋敷の方へと去っていく。


 そうして天気のいい中、三人で野花で冠を作ったり、トランプをタワーにしたりして遊んだ。


 ヨエルは、疑問符を浮かべながら参加していたけれど、最終的に彼は割とはしゃいで、小石を魔石に代える魔法を披露した。


 レーナはそれをこんなところで見ることになろうとは、と思いつつも、キラキラとしたものに喜ぶ母が楽しそうでよかったと思うのだった。





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