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【本編完結】“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。  作者: ぽんぽこ狸


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33/43

33 無知



 

「レーナ、今日は何の本を読んでいるんだ?」


 レーナに声をかけると彼女はぱっと顔をあげて、ヨエルの事をまん丸な瞳で見つめてくる。


 ガラス玉みたいに純粋な瞳には、やはりなんの打算も策略も含まれていないように見える。


「……今日は、新しい不思議小説を読んでいます」


 彼女はヨエルが声をかけても、質問に従順に答えるだけで、余計なことを話し出したりしない。立ち上がって挨拶やご機嫌伺いをするという事もない。


「そうか。一人で本を読むには慣れたか?」

「はい。ちょっとだけ、アメーリアには心配されてますが、良い子にしているので問題はありません」

「そうだな。向かいに座ってもいいか?」


 聞くと頷きつつも自分の読んでいる本に視線を移して、あまりヨエルには興味がないらしい。


 しかしヨエルはそんな無礼な対応などされたこともなかったし、目の前にある本の事よりヨエルの方を優先する人間ばかりだと世の中の事を思っている。


 そんな中で彼女だけがこうして興味を示さない。


 そのことを少し不服に思うのと同時にこちらを向いてほしいとも思う。


 考えつつも頬杖を突いてレーナをじっと見た。


 ただヨエルがレーナに対して抱いている感情はどう考えても醜い。


 その件については自分でも理解していた。


 ……純粋な瞳が好きだなんて言えばまるで美しい恋でもしているように聞こえるだろうがそうじゃない。


 俺はきっとこの子が無知だから、興味を持った。


 打算を巡らせていないと思えるのは、巡らせるだけの学がそもそもないから、含みがないのも嘘をつけるだけの知恵がないから。


 そういう性質を持っていて、それを抱えて生きている。そういう少女だとわかっている。そしてその部分にヨエルは救いを見てしまった。


 彼女となら、そばに居ても不快ではないかもしれない。苛立って警戒して、もう二度と利用されまいと睨みつける必要もない。


 自己中心的な愛情だ。


 ひどく自分が醜くて嫌になる。


「……」


 見つめているとレーナのページをめくる手が止まって目を細めたり、深く考え込んだりする。それからちらりと怒られないかと心配する子供みたいにヨエルの事を見た。


「……どこか意味が分からない言葉があったのか?」

「はい。ここが難しい言葉で、意味が分からないです」

「そうだな、これは━━━━」


 彼女の質問に丁寧に答えてやって目の前にすわっている役割を果たす。


 説明を聞くと彼女はこくこくと頷いてから、自分のそばに置いてあるバスケットを開いてあまりうまいとは言えない字でメモを取る。


 先日まで文字は書けないと言っていたのに、それなりに読める文章にはなっている。

 

 ……発達が遅いというだけで、まったく進歩しないというわけでもないんだな。というか、進歩しているならこのままいくと普通になるんじゃないか?


「ありがとうございます。教えてくれる人がいてとても助かります。みんなはわからなくても大丈夫だというだけで、教えてはくれないので」

「……」


 ……それは理解できると端から思っていないからだろうな。


「私もなにかヨエル様に、出来たらいいですが、もうしわけありません」

「いらないぞ。期待もしてない」

「そうですか、すみません」


 そんなことをレーナは考えずに気にせずに、ただこのまま無知のままヨエルを必要として欲しい、そんな気持ちで冷たく言った。


 すると彼女は少し落ち込んだような様子で謝罪をする。


 その様子に、ヨエルは付け加えていった。


「……だからいくらでも俺に聞いていいって意味だ。俺はいつもここにいるから、あー、その、ここの本をすべて読み尽くして暇なんだ。だから、君はいつでも聞いていい」


 そんなわけもないのに、嘘をつき、ヨエルは彼女に声をかけてもらえる機会を増やすために言葉を紡ぐ、するとレーナはぱっと顔を明るくしてそれから言った。


「すごいです! 私もいつかそうなりたいです、なんて言うんでしたっけ、ええと、あ、ハクシキ? になりたいです」

「博識な」

「ハクシキ」

「イントネーションがおかしいな」

「変ですか? ふふっ」


 純粋に信じる彼女に、ヨエルはそんなものにはならずにずっとそのままでいてくれとやはり思ってしまう。


 彼女自身はそんなことを望んでいないというのに、自分がただ、疑う余地のない知恵のない子供の様であってくれと思ってしまう。それが自己嫌悪を呼んでレーナと話をしているときはいつも少し苦しかった。




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