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【本編完結】“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。  作者: ぽんぽこ狸


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27 間違えないように


 



 ヨエルとこれからのことを話し合った舞踏会の翌日、レーナは珍しく父から呼び出しを受けて、彼の執務室へと向かった。


 そのことを伝えてきたアメーリアもなんだか不安そうな様子で、何か事情をすでに知っているのかと思い、問いかけてみる。


「アメーリア、本来ならば今日はヨエル様と父に婚約の件を話す予定だったのですが……このタイミングで呼ばれたのにはなにか理由があるのでしょうか」

「ええと、その。レーナお嬢様、わたくしはもちろんレーナお嬢様から仰せつかったように旦那様にレーナお嬢様が望む相手がいるとお伝えしていました。ただ……その件と今朝になって一番に着た連絡によって少し自体が複雑になってしまったかもしれません」

「今朝の連絡……ですか。なにか昨日の夜にでも、ありましたか?」


 アメーリアの言葉に、変なタイミングで何か事件が起こったせいでせっかくの門出が疎外されてしまったということを知り昨日のことを思い出してみる。


 レーナはヨエルと少々公の場で行き過ぎた行為をしてしまったように感じるが、それ以外はいつもと変わらない舞踏会だったように思う。


「それは……もしかすると、ライティオ公爵令息がいらしたからかもしれません」

「……ヨエルの関係という事でしょうか」

「はい。とにかく詳しくは旦那様からの説明があるはずですわ。行きましょう、レーナお嬢様」


 彼女に促されてレーナは執務室の中へと入る。


 中には相も変わらずどこを見ているのかわからないうつろな目をした父ががりがりと書き物をしていて、レーナがそばによると彼は、細くため息をついてそれからペンを置いて顔をあげた。


「お父様、お話とは何でしょうか。今日は大切な予定があったのですけれど」

「……はぁー……その予定と言うのは、ライティオ公爵令息に関することだろう。君と何かとかかわりがあることは知っている」


 彼は寝不足のような瞳をレーナに向けて、それから自分の手を手でもむように手を組み替えながらレーナのことを見上げる。


 それから何というべきかわからなかったのか、何度か言葉を選ぶようなしぐさを見せてそれからやっとオーガストは言った。


「悪い事は言わないから、身分違いの恋をするのはやめなさい。昨夜の舞踏会では、彼に付きまとっていたそうじゃないか。このように、王族から苦言を呈すお言葉が届いている」


 言われて、レーナは首を傾げた。


 手紙を渡されて、目で追ってみればそれは綺麗な女性の文字で文章もわかりやすく、まるでレーナがヨエルに付きまとっている情景が目に浮かぶような文章だった。


 差出人の名前を見てみれば、昨日話題にも上がったサラ王女殿下の名前が記されている。


「……」

「レーナ。君は……君のことは私なりに理解できたと思う。ただそもそも君は今の君を認められることはあっても、過去の出来事は無かったことになら無いし、君があの人の娘だということに何ら変わりはないんだ」


 父はレーナと目を合わせない。


 好いて娶った母の名も呼ばない。


 ……お母さまは、あの人なんて言う名前では、ありません。


「もちろん、努力をしてマシになる性質をレーナは持っていたんだろうが、それはただ少し近づいただけだ。わかるか? つまりは、何というか。釣り合わない。醜聞がある身の上なのだから身の丈に合った者を望むべきだ」

「……身の丈ですか」

「そうだ。君は多少は理解できるようになったのだろう。それは良い、父として誇らしく思う。だからこそ私は、こう考える。ならばこれ以上は立場が悪くならないように出来る限り間違わないように先駆者の教えを聞くべきだ」


 オーガストは吐き出すようにそう言って、手慰みに自分の書いていた書類をまとめて横に置く。


 そわそわとしていて自信がなさげだ。


「いいか、レーナ。よく聞いてくれ、若い時の憧れや恋慕なんてよくあることだ。ただそのまま社交界でのあこがれの的と関係を結べるのなどほんの一握りのなんの失態も犯していない人間だけだ」 

「私のヨエル様への思いも、関係もきちんと聞かずにそう思いますか」

「ああ、言われなくてもわかる。そういうものなんだ、レーナ、まだ君は多くの事を理解できるようになって間もないのだろう。これからは私が導こう。今まで放ってきた分。大丈夫だ、心配はいらない」


 断言しているのに、目を合わせてくれない。


 オーガストの言っていることはたしかに正しいと言える。


 彼の側から見た今のレーナの状況は人より遅れて、交流をもてるようになって遅れていた分、はしゃいでしまって、憧れの人に思いを寄せる少女のようにでも見えているのだろう。


「君の人生が出来る限り良くなるように私が手を尽くそう。だから、いう事をよく聞いてくれ。今までのライティオ公爵子息のヨエル殿は婚約者もおらずに一人図書館の運営に励まれていた」

「そうですね」

「しかし、彼の功績をたたえて、国王陛下はサラ王女殿下を降嫁することにされたそうだ。ライティオ公爵家の跡取りは第一夫人の息子であるエリオット殿ではなく、ヨエル殿になるだろう」


 ……これまた突然の話ですね。


 前置きを終えてやっと事情を説明し始めた父に、レーナは目を見開いて驚く。


「もちろん、この決定はまだ内々のものだ。しかしそれと同時にレーナ、君に対するその手紙だ。一度きちんと言っておかなければならないだろうと思ったんだ」


 つまり王家に取ってレーナは邪魔者で、父から見ても浮かれる娘がこれ以上下手を打たないように釘を刺すべきだと判断したということだと理解できる。


「それに、この王都での生活を見ていて、君の成長は痛いほどに理解した。私も君の事を親として、幸せな貴族らしい生活を送れるように手を貸そう。まずは、新しい婚約者を選ぶところから、二人で話し合おう」


 父は最後にレーナの事を見た。


 眼はあっているように思う、しかし彼はやっぱり変わらないなとレーナは思う。


 それから冷めた気持ちで口を開いた。





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