21 完膚なきまで
「ルビー様、わかっていただけましたか。たしかに、私にも、足りない部分があり、あなたのお兄さまのアンドリュー様にも他の人よりも足りない場所がありました」
話しかけつつもそばにいると、彼女はぐっと歯を食いしばってレーナの事を睨みつけている。
「それでも、適切に補えば努力はきちんと報われます。ハンデを背負っているからと言って、馬鹿にできると思い込むのはただの先入観にすぎません。あなた方が努力して成長していくように誰だって変わっていきます。
私も、あなた方の努力によって培われてきた素晴らしい技術に追い付いてこれからも交流を持ちたいです。
対等だと認めてもらえるように、努力をします。だからこそ、今までの行動を反省して謝罪していただきたいです。
それで如何でしょうかアンドリュー様」
「僕はもちろん、構わないけれど……」
提案をするとアンドリューも了承する。周りにいた令嬢たちはルビーの様子を探るように、彼女を見つめる。
しかし、彼女は頬を引きつらせながらも余裕ぶった笑みを浮かべて、テーブルに手を叩きつけるように手を置いて、令嬢たちに視線を向けた。
「皆、見てくださいませ! 出来損ないの能無しどもが、勝ち誇って滑稽じゃありませんことっ? こんなのただのお遊びですわ! くだらない楽器の演奏なんてなんの役にも立ちませんもの!」
「……」
「……」
「わたくしは、あなた、たち! みたいな、落ちこぼれで何もできない人たちに謝罪なんてこれっぽっちも考えていませんわ! だってそうでしょう! 人に頼らないとまともに生きていけないくせに!! 一人前みたいな顔をして見苦しいですのよ!!」
「では、あなたは一人で生きているんですか。周りにいる友人たちに支えられることも、使用人たちに助けられることもあるでしょう。それと何が違うと思うのですか」
「違う、違う! まったくもって違いますわ! わたくしは一人でなんでもできますし、そこの障碍者と違って、一人では会話に置いていかれるような無様をさらしたりしませんものぉ!!」
びしっと指をさしてルビーは真っ赤な髪を振り乱し、兄を糾弾する。
その様子をレーナも周りの令嬢たちを冷めた目線で見つめていた。
彼女はもうこのお茶会を開くことができないだろう。
それに謝罪をしてくれたらアンドリューも納得して、これからのことを彼女と話し合った可能性があると思うがその可能性を彼女自身が潰したのだ。
そしてやるなら、完膚なきまでに叩きのめすしかない。
「そうですか、では、一人で生きていけるというのなら、これからの厳しい生活も安心ですね。ルビー様」
「何言ってんのよ、頭おかしくなったんですの?」
「いいえ。アーベルの件、あなたがどこまでご存じか知りませんが。精々、彼が下手を打って、罪を着せられ彼の両親に関係を絶たれた程度に思っているのではありませんか」
「っ……そ、そうでしょう。だって彼はわたくしと関係がありながら浮気をして、私生児の妹と婚姻しようとしていただけ、べ、別にわたくしは何の関係もありませんわ」
「本当にその言い訳が通用すると思っていますか。アーベルの両親はきちんとした方たちでした、問題行動が露見した時、今後の事を考えて家ののっとりなどという大層なことを入れ知恵した人物がいるのではないかと、考えていました」
「………………」
ルビーは途端に顔を青くして黙り込む。
アーベルのことは、残念なことで邪魔をされて腹を立てたが、自分にまでまさか何かしらの害を被ることだとは考えていなかったらしい。
「そこで、きちんと証拠を取って、今後何か起こった時に備えているというは当然のことでしょう」
「……」
「あなたがアーベルとやり取りした手紙。アーベルの実家からいくつか送っていただきました。他人の家を男を使って引っ掻き回し資産の横取りまで考えていた、この事実を大衆に知られてなお、あなたは跡継ぎになれると思いますか?」
「………………なんですの、それ。全然意味が分かりませんわ」
「アンドリュー様へ渡してありますのであなたが評価を気にしているお父上には話はいくでしょう」
ちなみに、例のマイリスが持っていた病気についてだが、ばっちりアーベルにうつっていた事が確認されている。
手紙だけでは証拠が弱かったとしてもルビーの病気によって周りの人間は世間にまわるルビーの噂が真実であったと決めつけるであろう。
「では、皆様、今の会話を聞いて詳しい事情が大変気になったと思います。こちらの封筒に事の顛末など様々な情報が記載してありますのでどうぞお持ち帰りください」
一人一人にアメーリアが用意していた手紙を手渡していく。
大衆にその様を披露して笑いものにする行為は、もとはといえばルビーが最初にやった事だろう。
受け取った令嬢たちは戸惑いつつも席を立つ。
「お茶会の雰囲気を台無しにしてしまって大変申し訳ありませんでした。後日埋め合わせが出来たらと思います。今日はありがとうございました」
「……そ、そうですわね、わたくしたちは……部外者ですし」
「今日はここでお暇、させてもらいましょうか……?」
レーナの言葉に去っていこうとする彼女たちは、きちんと手紙を自分の侍女に渡して持ち帰るつもりらしい。割とちゃっかりとしている。
その様子をみたルビーは鋭く視線をそちらに向けて、とても低い声で言う。
「ま、待ちなさい。それを、置いていってくださいませ。べ、別にわたくしは何の罪にも問われませんし、関係もありませんわ。ただ、ただそう! そんな頭のおかしい女の書いたものをあなた達が信じるかもしれないのが許せないだけですの!! 置いていきなさいよ!!」
「……それは……」
「真実かどうかは、自分で判断いたしますわ……」
「何よ、わたくしたち友人でしょう?! この女のことを信じるっていうの!? どうしてこうも頭が悪いんですの? はぁ~! 貸しなさいよ!!」
そうしてルビーは近くにいた令嬢にとびかかった。バッと手紙を奪い取り思い切り突き飛ばす。
「きゃぁっ、ぅう」
しりもちをついた令嬢と、別の令嬢に襲い掛かろうとするルビーを使用人たちが必死に止める。
「ルビー! やめろ、こんなことしたらただじゃすまない!」
「うるさい、ですわ!! この出来損ない!! ああ゛~!! ふざけるんじゃありませんわよ!! 誰も彼もこのわたくしを馬鹿にしてぇ!!!」
我を忘れたように叫ぶ彼女をアンドリューは必死に止める。
男性使用人たちもやってきて、結局、ルビーにつかみかかられて泣き出す令嬢が出て大事に発展した。
騒動に周りの屋敷の貴族たちも集まり、ルビーは相当な汚点を残す結果になったのだった。




