伝書ユニコーン
別の世界にいる相手に手紙を届けてくれる伝書ユニコーンという生き物がいるらしい。伝書ユニコーンを呼び出す術は、届けたい手紙を入れた封筒の切手の場所に馬の絵を描く、それだけ。そんな朧気な都市伝説を何かの本で読んだ千万梨には、手紙を出したい相手がいる。「相手」というか、千万梨自身……平行世界の千万梨に手紙を出そうというのだ。(まあ、都市伝説だから、試すだけなら良いよね)ダメもとで馬の絵を書いた封筒に手紙をいれて、一先ず自室の机の分かりやすい位置に置いてみた。夜になり、布団をひいて寝たふりをして伝書ユニコーンを待ってみる。(私……何本気になってんの?昔読んだ本の都市伝説なのに)千万梨は夢見がちな性分なので、本に書かれてある事は有り得ない内容でも本気にしてしまう。『平行世界』の存在だって、疑う事なく信じているのだ。(これが小説の中なら、多分現れるんだろうな……伝書ユニコーン……)布団の中から見てはいるが、何も起きない。現実なんてそんなもの、都市伝説は絵空事。半分現実、半分夢……その間で千万梨の耳に小さな物音が聞こえてきた。<ブルル……ッ、>(ん?)眠気まなこを開けてみた。ぼんやりした視界に入ったのは、透き通るような白馬。白馬の額からは、水晶のような角が生えているではないか。(え……っ?)声なき声。(伝書……ユニ……コーン)白馬はどうやらユニコーン、伝書ユニコーンのようだ。伝書ユニコーンの口元には、一通の手紙が咥えられている。(夢……?それとも現実?現実なら、寝たふり……)起きている事がバレたら、手紙を届けてくれないような気がして、千万梨は目をキュウウウ……と瞑った)目を開けずに、耳を傾けて部屋の気配を探る。カタン……。窓が閉じた音がした。「!」飛び起きて窓の方へ駆け出した千万梨は、日が登り始めた空を手紙が付いた白い風船が翔んでいくのを見た。「あの手紙……わたしが書いた手紙、だよね」答えがはっきりしない状況の最中、机に目をやると書いた手紙がなくなっていて代わりに銀色の長く綺麗な獣の毛らしき物が落ちていた。(これ、もしかして……伝書ユニコーンの鬣?かな?)こじつけかも知れないが、白い風船と消えていた手紙、落ちていた獣の毛をつなげると、そういう答えになる。(伝書ユニコーンが実在してて、平行世界も存在してて、あの手紙も向こうの自分に届いたら良いな……)
『平行世界の私へ……そちらの世界の私は夢を叶えていますか?こちらの私は全然ダメです。叶えたい夢が叶わないままで、けっこうしんどい世界です。もしこちらの世界で夢が叶ったら、その方法を教えましょう……なんて、叶わないのに出来るわけありませんね。きつい世の中だけど、叶えてみせます。叶えてみせたら、夢の交換郵便しましょう。平行世界の私より』
(そっか……向こうの私はまだ叶えてないんだね。それなら、夢への道を教えようかな。謙虚に、ひけらかさないで……教えよう)
『平行世界の私へ、お手紙、ありがとう。こちらの私は夢を叶えました。叶えたら叶えたで厳しいけど、それでも作家というお仕事は厳しくもあり、楽しくもありです』二つの世界、二人の私……それらを繋げた伝書ユニコーンは、どんな世界へでも手紙を届けていく。