舌戦
「どんだけ……」
自然と有名なフレーズが口を突いて出た。
こんな所で最後の対戦相手と出くわするとは夢にも思わなかった。
一光はあたしたちをじっと眺めていた。
「あなたが一光……さん?」
「そう。私が明日の対戦相手であり、決勝戦の相手」
一光は感情のない声で言った。「転生」して女子になったわけじゃないので生物的には男性だったはずなんだけど、そのような要素はどこにも見当たらない。浜辺美波あたりを不愛想にして暗殺者へ転職させたらこんな見た目になるんだろう。たしかにこのままアイドルグループに放り込んでもまったく違和感はない。
だけど、静かな殺気というか、内に秘めた恐ろしさみたいなものは全身から溢れているように感じた。オーラがあるって言うよりは闇を孕んでいるという感覚の方が近いかもしれない。
「どうしてこんな時間に」
自分が眠れなくて散歩していたことは棚に上げて訊く。
「対戦相手がどんな顔か興味あってね。ここにいるみたいだったから見に来たの」
「そう。それで感想は?」
「ガッカリした、というのが本音かしら。お涙ちょうだいのお話を聞いて一緒に涙を流しているなんて、本当にバカみたい」
――何だと、コラ。
眠っていたはずの「俺」が牙を剥く。
「あなたは自分を不幸だと思っているのかもしれないけど、そんなことはない。もっと不幸な人はいくらでもいる。それはいくらでも証明出来るのに、あなたは自分の不幸に酔っているだけ」
「初対面にしては言い方がキツ過ぎるんじゃないの?」
「私は事実を言っているだけ。あなたは本当の闇を知らない」
「中二病発言が好きみたいだけど、酔っているのは一光さんの方じゃないかな」
今の発言がグサっと刺さったのか、一光の表情が一気に険しくなる。
「何ならここで決着を着けてあげましょうか?」
「やめて!」
菜々さんが両手を広げて前に出る。菜々さんを挟んで、あたしも一光も臨戦態勢になっていた。
「試合は明日でしょう? ボクサーなら勝負はリングの上で着けて」
まさかのド正論を吐かれて、あたしたちは矛を収める。
「命拾いしたわね」
「そっちこそ」
あたしと一光は、いまだに器の小さい小競り合いをやめない。
ともかく、菜々さんの言うように試合は明日だ。
こんなところで乱闘をして試合をぶち壊しにすれば、山中一味からどんな目に遭わされるか分かったものじゃない。冷静になってみたら危ないところだった。
かなりの不意打ちだったけど、一光を知る機会があったのは良かった。彼女がどんな過去を背負ってきたのか知ったこっちゃないけど、それでもあたしは彼女を叩き潰す。
――決戦は明日。あたしは絶対に負けない。




