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一光の試合映像

 山中の予告通り、部屋まで決勝戦で対決する一光の試合映像が届けられた。さっそく映像を再生してみると、山中の言う通りかなりの美女に見える選手が映り込んだ。


 整った顔立ちに切れ長の目、ショートカットの黒髪はアスリートの女子らしい感じがしつつも、妙に色っぽく見えた。


「なんか、モデルみたいなコだね」


 映像を観た菜々さんが口を開く。


「そうだね。なんか、殴ったらもったいない感じ」


 あたしは前世でジャック・ザ・リッパーと呼ばれたほどの切れ味を持ったパンチを持っている。そのパンチでこの綺麗な顔がズタズタになる画を想像すると、少し申し訳ない気がした。


 ただ、敵に同情しているわけにもいかないからな。


 あたしたちの置かれた状況が状況だし、この裏ボクシングに参加しているということは、彼女もあたしたちが知っている以上にワケアリなんだろう。


 試合の映像が続く。


 映像の試合はあたしたちのいた廃ビルの地下みたいで、見覚えのあるリングと見たことのあるような観客たちがちょいちょい映り込む。


 対戦相手は屈強そうなスキンヘッドの黒人ボクサーだった。ムキムキ過ぎでどう見ても同じ階級には見えないんだけど、一光ちゃん大丈夫だろうか。


 しかし男子と女子()の対決か。同じリングに並んでいるだけでなんか背徳感があるな。


 そう思っていると、すぐに試合が始まる。


 試合開始直後に、一光ちゃんは黒人を中心にグルグルと回り出す。そのスピードの速さに驚いた。まるでスケートリンクを滑らかに移動するフィギュアスケートの選手みたいだったからだ。そんな風にリングを動ける選手はほとんどいない。


 黒人選手が圧倒されている間に、すぐ一光はジャブを突いていく。まるでそういう作業をするみたいに、当たり前のようにジャブをどんどん突き刺していく。スピードに差があり過ぎるせいか、黒人のボクサーは対応が出来ない。


 何発もジャブを当てると、一光は一気に距離を詰めて3~4発のコンビネーションをバババっと放った。すると、即座に相手は尻餅をついてダウンになった。


 レフリーがカウントを数える。黒人のボクサーは何が起こったか分からないといった顔でレフリーを見上げて、数秒してから我に返ったのか慌てて立ち上がった。


 試合が再開される。あっという間のダウンではあったけど、黒人の方もそこまでダメージを溜め込んだ感じはない。ビックリして倒れた程度だったんだろう。


 だけど、一光の詰めはここから一層過酷になる。


 ガードを上げて、ありえないぐらいのプレッシャーを放ちながら距離を詰めると、ガードも何のそので飛び込んでの左フックを強振した。ガードしていたはずなのに、あまりの威力に黒人選手がバランスを崩す。映像にも、エグ過ぎる音が記録されていた。あんなパンチをまともに喰ったら一撃で天国行きになりかねない。


 バランスを崩してバタバタする黒人選手。反撃を試みるも、それも許さず一光はさらに距離を詰める。瞬く間に左右のフックを叩き込むと、恐ろしいほど急角度のアッパーで相手に上を向かせた。


 天井を向いたまま、黒人の対戦相手は横へ倒れ込んだ。


 レフリーがノーカウントで試合を止める。はた目に「死んだんじゃないか」と思わせるような倒しっぷりだった。


「エグいな、こいつ」


 ぶーちんが眉間にシワを寄せる。経験者でなくても、一光のヤバさは分かったみたいだった。


「ねえ、大丈夫なの?」


 菜々さんが不安いっぱいの顔で言う。いや、大丈夫も何もこの選手に勝たないとあたしら全員が生命の危機なんだけどね。


 少しでも弱点を見つけてやろうと思ったはずなのに、映像が終わると一光のヤバさばかりが印象に残った。前世の時でもこの選手とまともに闘ったら勝てたかどうかは怪しい気がする。こんな選手が知られずに埋もれていたなんて。


「まあ、やるしかないよね」


 勝てるかどうかはともかくとして、どんな相手でも試合が決まったからには全力を尽くして闘うしかない。それがあたしたちボクサーの宿命だ。


 いつだって勝てる相手と試合が組まれるわけじゃない。時にはどう足掻いても勝てないような相手と試合が組まれることだって日常茶飯事で起こっている。


 正直映像は見ない方が良かったんじゃないかとすら思ったけど、あとは繰り返し見て勝つパターンを想像するしかない。


 決戦は明日。あたしは覚悟を決めて闘うしかない。

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