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カジノ船

 善は急げではないけど、あたしたち一行は巨大な船に乗って海を進んでいた。


 出国に関して、必要な書類は山中が用意した。平たく言えば密入国だ。そうでもしないと近日中に控えた試合にビザが間に合わない。


 ツッコミどころ満載だけど、ぶーちんも菜々さんも偽名を使って密航したのがバレたら大変なのもあって大人しくしている。ぶーちんの偽名はパスポートにTakeshi Goudaって書いてあったけど、入管に捕まることはなかった。こっちの人はジャイアンの本名を知らないみたい。いや、もしかしたら本名かもしれないけど。


 それはそうとして、飛行機を乗り継いでから船に乗ると、別の港に停泊していたカジノ船とやらに乗り換えた。


 船はやたらと豪華だった。金持ちが乗るせいか、値の張りそうなカーペットにキラキラと光る無駄に豪華な調度品、シャンデリアに噴水まである。


「なんか、住む世界が違う人の場所って感じだね」

「そうだね。二度とこんな所に来ることはない気がする」


 あたしの漏らした感想に、菜々さんが圧倒されながら答える。


「これがカジノ船ってやつか。俺、ルーレットとかやりたいな。あとスロットも」


 ぶーちんは大物なのか、呑気に命懸けの船旅をエンジョイするつもりのようだった。まあ、これくらい図太い方がここでは生きていけるんだろうけど。


「どうだ、気に入ったか?」


 山中がドヤ顔で訊いてくる。でも、この豪華な場所で自由気ままに出来るのであれば、そんな顔になるのも仕方がないのかもしれない。


「ここで試合をするんだね」

「そうだ。あんな小汚い場所よりはよっぽどやる気が出るだろう」

「自覚はあったんだ」

「そりゃあ、あんなろくでなしがひしめく場所になっていればな」


 あたしたちはさらに船内を歩いて行く。ある回廊を歩いていくと、やたらと大きな両開きタイプの扉があった。


「お前の試合はここで行われる」


 制服に身を包んだスタッフが両開きの扉を開けると、中には薄紫色の照明に照らされた客席とステージがあった。ステージの上には優雅な船内からは浮いたイメージの立方体が設置されている。あたしの上がるリングだ。


「はあ~」


 あたしも思わず感嘆の声を上げる。シャンデリアが吊るされて、あちこちからきらびやかな照明で照らされた場内。


 今まで上がったどこのリングよりも豪華な会場だった。リングさえなければディナーショウでも始まるのではないかとすら思わされる。


「ここが決勝戦の舞台だ。どうだ、やる気が出ただろう?」


 山中が嬉しそうに言う。悔しいけれど、立場はどうあれこういった豪華な会場で試合が出来るとなると、あたしは一人のボクサーとしてテンションが上がってくる。うん、まあ士気が上がるのはいいことなんだけど、そもそも非合法の試合でそんなにやる気になっちゃっていいのかっていうのは正直ある。


 複雑な気持ちを抱えつつ、今度は控室へと案内される。歩いている最中、ふと浮かんだ疑問を山中にぶつけてみる。


「そう言えば、その一光っていう選手は見た目がゴツい人なの?」


 性転換していようが中身が女の子だろうが、元々生物的に男であったことは変わらない。そうなると、ムキムキの黒人系である可能性も捨てきれない。そうなればいよいよ勝つのが難しい気がするけど。


「それがな、見た目はどこから見ても女なんだよな」

「へえ」

「暴力事件こそあったけどな、そういうのがなければアイドルグループに放りこんでも違和感のない選手だ。後で映像を渡すから見てみるといい」


 軽く聞いた感じだと話を盛り過ぎのような気がしないでもないけど、アイドルグループに入れても遜色がないってことは相当にかわいいんだろう。なんか、信じられないけど。


 でもあたしも前世では相当にゴツい選手だったので、悪魔のような強さを持った美少女が出て来てもそうは驚かない。前世からのライバルだったケンだって、転生して天城楓花に変わると美少女になっていたし。


 自室に入ると、豪華なベッドが三つ用意されていた。天蓋と呼ばれる屋根のついた豪華なやつだった。多分後にも先にもここまで豪華なベッドで眠ることはないだろう。男女同じ部屋っていうのが「おいまて」って感じだけど、捕まっている側の立場からすれば贅沢も言っていられない。まあ大丈夫でしょ。だってぶーちんだし。


「試合まではここで好きなだけ楽しむといい。体重はいくら増やそうが構わないが、中継に耐えられる程度に保っておけよ」


 それだけ言って山中は去って行った。


「うわーすげえ」


 ぶーちんが豪華なベッドにダイブする。すかさずその感触を噛みしめているようだった。あたしが負けたら死ぬかもしれないのに、ただの観光気分に見えるぶーちんの気楽さが今は救いになっていた。


 明日にはここで人生を懸けた大一番が待っている。文字通りに勝てば天国、負ければ地獄。中間などない。


 なんだか、転生しても前と似たような人生を歩んでいるなあと思う。


 ところであたしのいなくなった家やら学校は今頃大騒ぎになっているのだろうか。まあ、有名人のJKが急にいなくなったらそれは色んな憶測を生むよなあとは思う。その辺を山中はどうするつもりなんだろうと思うけど、おそらく何も考えていないんだろうなとも感じる。


 まあどうあれ、あとは一戦ですべてが決まる。一光がどんな相手なのかは知らないけど、覚悟を決めて闘うしかない。

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