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逆襲の2ラウンド

 第2ラウンドが始まる。


 迦米レオンはさっきダウンを取ったせいか、余裕をぶっこいた顔で笑っていた。腹は立つけど、こういう奴を相手にカッカすると大抵ロクなことがない。


 というわけで、あたしは冷静さを保つことに決める。いや、殺すのはもう決めている。だけど、ボコボコにして殺すにはそれなりのプロセスと忍耐、後は計算高さに大胆さも必要になる。


 身体を揺すりながら、迦米の周囲をコンパスのようにグルグルと回る。迦米レオンは舌だけでなく腕も長い。正対してジャブを突き合うとどうしても不利になる。だからサイドから斜めの角度でジャブを突いていくのが定石。


 キレとスピードを重視して、カミソリ並みの切れ味をしたジャブを連続して放っていく。意外にも迦米は前でパンチを捌くのが巧く、なかなかクリーンヒットとはいかない。クソ。ここで初めて女子の体になったことがもどかしく感じる。


 あたしがもっと高身長で、捌く手も何のそのでストレートを届けられればいいけど、いかんせん腕の長さが違い過ぎる。イラつくけど、ここで考えもなしに強引に行けばカウンターの餌食になるだけだ。


 迦米はあたしのパンチを捌きながら、時折鋭いカウンターを放ってくる。左右へステップしてかわすけど、油断したらこの打ち下ろすような角度のストレートで倒されかねない。


 だけどいつまでも差し合いばかりやっているわけにもいかない。あたしは二段階でジャブをトトーンと打ってタイミングをずらす。二発目が軽く迦米のボディーをかすめる。


 ――今だ。


 そのままスーッと距離を詰めて、迦米に体を密着させた。これで念願の接近戦だ。


 左右から速い連打。腕が短い分、あたしの方が近距離の回転は速い。長身だからなかなか顔面は殴れないけど、ボディーを左右の色んな角度から殴っていくと迦米がかすかに呻き声を上げる。


 効いてる。あたしのパンチはしっかりと効いている。


「よっしゃ行け! そのままボディーで削れ」


 背後からぶーちんの割と真っ当なアドバイスが聞こえてくる。かつては最強のアンチだったぐらいだから、あたしの闘い方は研究しつくしているのかもしれない。


 ぶーちんの言葉で確信を深めたあたしは、さらに回転率を上げて近距離での連打を放っていく。密着している分、迦米もだいぶやりにくいようだ。さすがに後頭部へヒジを落とすわけにもいくまい。


 左右のパンチを放つと、空いたガードの隙間からアッパーを当てて左フックから右ストレートを返す。拳にたしかな手ごたえ。


 迦米がコケるようにダウンした。ヨシ。コケたとしても、ダウンはダウンだ。


 ――逆転。今度はあたしが迦米レオンを倒した。


 レフリーがカウントを数える。会場から悲鳴とわずかな熱狂の声が聞こえる。


 迦米はいかにも「コケただけだろ」という風に苦笑いした。そこまで効いていないのか、はたまた効いていても演技しているだけなのかは分からない。


 いずれにしても迦米はスッと立ち上がった。本当にそこまでは効いていないのかもしれない。


「ボックス!」


 試合が再開される。


 まあいいよ。それなら何度でも倒すだけだから。


 一度ダウンを奪い返したあたしは強気になっていた。


 すぐに距離を詰めて、また連打で襲いかかる。


 今度はガードの上からでもお構いなしに打っていく。顔面の近くを叩く。わずかに出来たヒジの裏側、ボディーの隙間をフックで巻き込むように打つ。思惑は的中し、「うう」と呻くような声が聞こえる。


 うん、これは効いているぞ。


 勝機を見出したあたしは、上下に打ち分けながら空いた箇所に強打を打ち込んでいく。見たか、これが世界ランカーのキャリア。転生しても、技術は死なない。


 右ストレートから左フックを返して、右ボディーアッパーを弓なりに突き刺す。みぞおちに一撃。いい角度で入って、迦米の身体がくの字に曲がる。


 さらに左右のボディーを速射砲のように打つと、ナチュラルに腹を打つと見せかけたパンチの軌道を上へと変えた。


 拳にサクっとした手ごたえ。迦米が背中から叩きつけられるみたいにキャンバスに倒れる。


「ダウン!」


 観客がどよめく。今度は本当に効かせてダウンを取った。ごろつきたちは、信じられないものを見せられているといった目をしていた。それもそうだろう。サイドテールの超絶美少女JKが地下ボクシングとはいえ、強豪選手をなぎ倒したのだから。


 カウントが進んでいく。会場は数秒だけ静まり返って、我を取り戻したかのように騒ぎはじめる。このまま傍観していれば破産すると理解した者が声を張り上げている。


 初めて迦米レオンが恨めしそうな顔でこちらを睨んでいる。人間らしく見えた最初の瞬間かもしれない。


 膝は揺れているけど、闘志は衰えていないように見えた。いずれにしても早く倒しに行った方がいいだろう。


 試合が再開される。


 さあ、倒してやるぞと息巻いていると、再開直後にラウンド終了のゴングが何度も鳴らされた。


 ああ、惜しかったな。舌打ちでもしたい気分だけど、無垢な美少女という設定なのでやめておこう。


 どちらにしても次で倒せる。焦らなくていい。後はどうやって倒すかだけなんだから。

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