彼はカメレオン
試合の時間になった。
準決勝になったせいか、今回から両選手別々の入場になるみたい。そういうわけで、あたしの方が先にガラの悪い男たちのひしめくボクシング会場に姿を現した。
会場に流れる音楽はデスメタル。なんていうか、あたし見た目はかわいいんだからもっとアイドルみたいな曲とか使ってくんないかな。役割が露骨に悪役すぎるでしょ。何人もの観客を破産に追い込んでいるって意味では確かに悪役なんだろうけど。
会場は親の仇でも見つけたかのようなブーイング。こんな美少女がどうしてここまで嫌われないといけないのか分からない。
今さら嫌われて動揺するタマでもない。あたしはぶーちんと菜々さんを率いて、会場のど真ん中で孤島のように浮かんだリングを目指した。
歩きながらよくよく聞いているとあたしを応援する声も聞こえてくる。本当に少しずつではあるけれど、あたしもここの人々に受け入れられてきているようだ。
優勝したら消費税ぐらいの割合でファンがいればいいな。これだけ嫌われていると、それが起こったとしても十分に奇跡だから。
あたしがリングインすると、相手選手の入場が始まる。
「それでは次に迦米レオン選手の入場です」
「え? なんて?」
リング上のあたしは思わずアナウンスに訊き返す。
――今、カメレオンって言わなかった?
あたしの混乱をよそに、観客たちが対戦相手の入場を歓迎する。会場に流れる爽やかなラップミュージック。あたしの時と扱いが違うじゃねーかと思いながら向こうから歩いて来る相手を眺める。
迦米レオンとやらは音楽に合わせて踊りながら入場してきた。色黒のドレッドヘア。右肩から胸にかけてトライバル柄のタトゥーをしている。
なんか普通に強そうなのが来たなって思っていると、リングへ上がった時に嫌なことに気付く。
「え? どういうこと?」
遠くから見れば色黒のイケメンに見える迦米レオンは、近くで見るとやたら両目が大きく、それでいて黒目が真逆の方向へギョロギョロと動いていた。
「ガチのカメレオンじゃん……」
あたしは思わずひとりごちた。迦米レオンはまるで人間とカメレオンを合成したキメラのようだった。
試合はいつもと変わりなく進行していく。いや、あれ、明らかに人間じゃないけどいいんか。
そんなあたしの想いも届かず、相変わらずあたしには盛大なブーイングが浴びせられ、敵の迦米レオンには盛大な拍手と声援が送られる。いっそ観客全員あたしに寝返れ。儲けさせてやるから。
レフリーにリング中央へと集められる。
諸注意を受けながら迦米レオンを観察する。やはり本家のカメレオンの如く、左右の目が独立して違う方向を見ているようだった。ビジュアルはともかくとして、文字通り見えている景色が違うんだろうなと思う。
注意が終わり、自軍のコーナーへと分けられる。
ええい。どちらにしてもこれに勝てば決勝なんだ。やるしかないでしょ。
「ラウンド1」
バケモノ退治の口火を切る、初回の鐘が鳴った。




