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宇宙で一番かわいい笑顔

「危なかった~」


 会場から引き返してきたあたしは安堵した。


 前世でもUMAみたいなバケモノとは試合をやったことがなかった。くっついたらディフェンスがザルだったから勝てたものの、あれで接近戦を覚えられたらトッププロでも手が付けらない存在になるはず。まあ、そこまでになるのが大変なんだけどね。


 ガラの悪い観客たちは例のごとくUMAに賭けていたみたいで、全財産を失って破滅した者がそれなりに出たみたい。彼らもきっとカイジの世界へ行って借金を返し続ける余生を過ごしていくのかな。まあ、自己責任ですけど。


 お陰でまたアホな奴らの怨みを買って暴動のようになった。あちこちから酒瓶やゴミ、ひどいと刃物が飛んでくる中で菜々さんの手を引いて逃げるように退場してきた。なんで毎回勝った方が逃げないといけないんだって思うけど、あたしはここだと外敵。そのような扱いを受けても仕方のないところはある。


「ぶーちん、大丈夫?」

「ああ、なんとか」


 ぶーちんは体も大きいし見た目がやられ役っぽいところがあるせいか、ゴミを散々投げつけられて服はコーラ臭くなっているし頭にミカンの皮がのっていた。


「まったく、災難だったぜ」


 ぶーちんは体中にひっついたゴミを払いながら言う。こういう目に遭うのは今回が初めてじゃないのか、どこか変な落ち着きがあった。


「ホント。ねえ、菜々さんも……って」


 あたしは思わず言葉を失う。というのも、菜々さんが目を真っ赤にして泣き顔になっていたからだ。


「だだだだ大丈夫? どこか怪我でもした? 飛んできたビール瓶でも当たった?」


 あたしは予期せぬ事態に動揺しまくる。知らないところで怪我でもされていたらたまったもんじゃない。


「違うの。それは大丈夫、大丈夫なんだけど……」


 菜々さんは鼻を啜って続ける。


「なんて言うか、由奈ちゃんが倒された時に色んな思いがバーって出てきて……」


 そこまで言うと、また菜々さんの目には涙が溢れる。


 そうか。そんな人だったよね。


 あたしが「俺」だった時も、強敵相手にダウンを取られたら試合後に泣いていたし、勝ったのに「こんな競技早く辞めて」って言われて苦笑いしたんだっけ。


 懐かしいようにも、つい昨日のことのようにも思える。


 ましてや、その世界戦直前にトラックに轢かれて死んじゃったんだからね。彼女のトラウマを刺激しないはずがないじゃないか。


 なんか、ごめん。何でもかんでもあたしの図太い神経をベースに物事を進め過ぎたところがある。そうだよ。これが一般人の感覚なんだ。涙を流す彼女を見て、そんなことに気が付いた。


 それでも、あたしは闘わないといけない。だって、あたしはこの命に代えてでも菜々さんのことを守り抜きたいから。それこそが、前世から誓いを立てた自分への約束だったから。


 あたしは菜々さんをぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫、あたしは絶対に負けないから」

「由奈ちゃん……」

「これからも心配はかけちゃうかもしれないけど、菜々さんのことは絶対に守って見せる。だから、あたしを信じて」

「うん……」


 ようやく菜々さんが落ち着く。


 ごめんね。意図していなかったとはいえ、トラウマを刺激しちゃったよね。


 でも、今度は絶対にあなたの傍を離れないよ。たとえこのアイデンティティが前世のものとまったく違う人間であったとしても。生まれ変わっても菜々さんを超超超超超愛してる。


 あたしはあらためて守るべきものを思い出した。


 それは単に彼女の無事だけじゃなくて、あたしにとって宇宙で一番かわいい笑顔なんだ。

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