打ち下ろしの右ストレート
初回が始まり、あたしはありえないぐらい距離を取ってサークリングをしていく。UMAを中心に、コンパスで円を描くようにキャンバスを移動していく。観客はブーイングの嵐だけど、気にしている場合じゃない。
UMAは無表情というか、闘志も感情も読み取れない不気味な目でこちらを観察していた。
さて、どうしようか。
そう思っていると、すぐ目の前まで拳が迫って来ていた。
「うわ」
思わず声に出しながら、身体を沈めて規格外のロングジャブを外す。たかだかジャブを放っただけなのに、観客たちは大喜びだった。
ちょ……このリーチ、人間じゃないって。
そう思うも束の間、また次のジャブが速射砲のように放たれる。あたしはぎこちない動きでそれらをかわした。
何よこれ。本当にダ〇シムとボクシングしている気分。その内テレポートしたり回転しながら頭から降ってくるんじゃないの。
だけど軽口を叩いている場合じゃない。やたらと伸びる左右のストレートは容赦なくあたしに狙いつける。
ガードを上げる。その隙間から、しっかりと相手のパンチを観察……しようとしたら左ジャブをもらった。ちょ、距離感がバグってるってこの人。
観客がイキりはじめる。規格外のロングジャブがあたしのガードを叩くたびに「オイ!」「オイ!」と煽るような声を上げる。応援に乗せられているのか、UMAのジャブもより力強くなってくる。こんなの、反則でしょう。
こうなったら強引に攻めるしかない。
ガードを固めて、正面から走るように突っ込んでいく。
刹那、死角から迫る左フックが迫る。ガード。まだ見えている。あたしはまだ大丈夫。そう思った瞬間、衝撃とともに目の前が暗くなった。
思わず後ろからマットに倒れ込む。レフリーがダウンを宣告して、カウントを取りはじめた。
「やられた」
思わずもらってしまった。喰らったのは右のストレートだった。
遠距離から来る変則的な左フックをガードした際に、対角線上のアホみたいにエグい角度から放たれた右の打ち下ろしをまともにもらってしまった。かすかに視界にはとらえられていたけど、思った以上に威力があった。
野蛮な観客が歓喜で爆発する。生意気な外敵が倒されてさぞ気分がいいだろう。
レフリーは比較的まともなテンポでカウントを数えていく。あたしの時だけ高速カウントでない分、まだマシだった。
「立て、由奈ちゃん。まだ試合は終わっていない」
ぶーちんが檄を飛ばす。そうだよね。まだ試合は終わっていない。たった一度のダウンで、いちいち落ち込んでいるわけにもいかない。
ダメージを確かめるようにゆっくりと立ち上がる。大丈夫。まだ足は動く。あたしはまだ闘える。
「ボックス!」
レフリーが試合を再開したとともに、1ラウンド終了を知らせるゴングが鳴った。観客席からは「ああ」と落胆の声が漏れる。だんだん後楽園ホールみたいになってきた。
クソ、倒された。
UMAを睨みつけていると、ぶーちんに自陣まで引き戻される。インターバルは1分しかないので、余計なことをしている場合じゃない。彼のお陰で少しだけ冷静になれた。
UMA――まだ二回戦の相手に過ぎないけれど、いきなりとんでもない相手にぶつかったみたい。




