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逃げ込んだバックステージで

「なんだあれ、暴動か」


 会場を出ると、ぶーちんが思わず本音を漏らす。


 文無しになった奴らの怨みは恐ろしかった。そのまま会場に残っていれば無事でいられたかどうかも怪しい。


「それだけ多くの奴らが破滅したってことだ」


 声のした方を見ると、知らぬ間に山中が立っていた。


「まずは初勝利おめでとう。俺も今の試合でだいぶ儲けさせてもらったよ」


 山中がわずかに口角を上げる。目つきは鋭いままだった。


「さすがにあの程度の選手には負けないよね」


 本音で答えると、山中はうんうんと頷くように口を開く。


「まあ、お前の実力を考えたら当然の結果だろうな。知らずに破滅したアホが大勢いたみたいだが。だが、次からはこんなに易しい相手ばかりでもない。当然だが、トーナメントだから上へ行けばいくほど強い奴が出てくる油断はするなよ」

「上等だよ。全員KOで倒してあげる」

「そいつは頼もしいな」


 山中は引き上げていった。その後ろ姿を三人で見送る。


「何だったんだろうな、今の」


 珍しく大人しかったぶーちん。いつものテンションで噛みつけばさすがに消されると思ったのか。


「さあ、あたしに負けられたら困るから釘でも刺しておこうと思ったんじゃないの」

「そうか。金も懸かっているからな」


 事実として、さっきのは忠告もあったのだろう。


 ドラえもんはヤク中の選手だから論外として、ワケアリ選手の中にはあたしのような本物のボクサーも混ざっているはず。となると、とんでもなく強い奴が決勝まで上がってくる可能性も十分に考えられる。


 ワケアリの選手……まさか、ライアン・ガルシアとかは出てこないよね?


 やめておこう。それ以上妄想をこじらせると別の問題が出てきそうだから。そんなことよりも心配なのは菜々さんだ。


 菜々さんはすぐ近くにいるけれど、それでも負ければ彼女がどんな目に遭うかも分からない。


「菜々さん、大丈夫?」

「うん、なんとか」

「ごめんね。あたしなんかのためにひどい目に遭って」


 割と本音だった。あたしが関与していなければ、菜々さんは今も平和な日々を過ごせていたに違いないのだから。


「ううん、由奈ちゃんが助けに来てくれたから私は無事でいられたんだし、そんなことないよ」


 菜々さんは心から言っているようだった。本当にかわいいな、この人は。今世でもあたしのヨメにしたいぐらい。そうなると百合になるのかな。でも、菜々さんとの百合なら全然いいかも。


 ……って、のろけている場合じゃなかった。


 明日もまた試合がある。さっさと戻って、体を休めなきゃ。


 そう、この裏興行はトーナメント。決勝戦を勝ち抜くまでは、決して油断をしてはいけない。


 あたしの闘いはまだ始まったばかりだ。

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