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VSドラえもん

 ゴングが鳴るとともに、ヤバいお薬を接種したドラえもんはダッシュでこちらへ向かってくる。そのまま利き腕でパンチングマシーンのような右ストレートを放ってきた。


 ちょ……。


 信じられないほど荒っぽい戦法にあたしはいくらか面食らう。


 まったく防御を考慮していない右ストレートには予想外の迫力があった。


 左へと回り込みながら、必殺の右をかわす。風を切る音。パンチを空振っただけなのに観客が騒いでいる。


 アウェーだね。


 あたしはあらためて自分が外敵であることを認識していた。いきなり来たよそ者が気に入らないので、みんなが地元のヒーロー(?)ドラえもんを応援するということだろう。


 まあ、そんなんじゃあたしは負けないけどね。


 振り返ったドラえもんは、相変わらずTウイルスにでも感染したかのようなヤバい目をこちらに向けている。さっさと倒した方がいいだろう。


 身体を左右へ振りながら、パンチが来ると左へとサイドステップで回り込む。最初こそ驚いたけど、ドラえもんはフルスイングの右しか打てないみたい。よく見ると左腕はピクピク痙攣しているし。


 あたしはサイドへと回りながら、カミソリ並みの切れ味を持った左を突いていく。カミソリジャブは、次々とドラえもんの顔面をとらえていく。そのたびに会場からは悲鳴が上がった。


「正面から殴り合え、卑怯者!」


 どこからか理不尽な野次が飛び、それが会場全体の罵声へと拡大していく。何が楽しくてこのヤク中と正面から殴り合わないといけないのか。


 あたしはあちこちから投げられる罵倒もどこ吹く風でステップを踏む。体の大きさで言えばドラえもんの方がよっぽど大きいけど、この程度の選手では問題にならない。


 相変わらず全力で右を振ってくるドラえもん。わずかに頭をずらして、必殺の右を外す。パンチを交わしながら、リードブローとなる左を二発三発と突いていく。


 左拳にサクっと不思議な手ごたえ。あ、これは切れたかな?


 距離を取ると、ドラえもんの目尻がザックリと切れていた。対戦相手を次々とカットさせてきたことから、あたしは「前世」でジャック・ザ・リッパーと呼ばれていた。


 右を振り過ぎたせいか、ドラえもんもぜえぜえと息を切らせ始めた。スタミナもお薬も切れてきたみたい。


 左右に高速でステップを踏む。タイミングをずらして、素早い踏み込みからワンツーを放った。ヤク中患者にこのスピードのパンチが見えるはずがない。ワンツーは綺麗に当たり、ドラえもんは崩れ落ちるように尻餅をついた。


「ダウン!」


 前歯のないレフリーがカウントを数える。ドラえもんは呆然としてレフリーを見上げていた。


「何やってんだコラー! お前にいくら賭けてると思ってるんだー!」


 観客の一人が野次ると、同心円状にその怒りは伝播していく。そう、ここは格闘技の会場であるとともに賭場でもあるのだ。だからこそ、観ている者にとっては公式試合とは別種の熱がこもる。


 まるで借金取りに追い立てられるようにドラえもんが立ち上がる。立たないと後で何をされるか分からない。ヤク中の頭でもそれは理解出来たのだろう。


「ボックス!」


 試合が再開される。


 知ったこっちゃない。あんたの運命なんて。こっちは自分と恋人と、ついでに言えばぶーちんの運命も懸かっているんだから。


 素早く距離を詰めると、ワンツーから左アッパー、そしてもう一度右ストレートをコンビネーションで放つ。すべてのパンチが命中し、ドラえもんは白目を剥いて崩れ落ちた。あっという間に二度目のダウン。またカウントが始まる。


 絶対に立てないと確信していたけど、TKOにすると観客から逆恨みされるとでも思っているのか、レフリーはしっかりテンカウントを数えて試合終了を告げた。


 ドラえもんは白目を剥いたまま大の字になって痙攣している。文句無のノックアウトだった。


 あちこちから悲鳴が上がる。かなりの人間がドラえもんの方に賭けていた。なぜあんなヤク中にそこまでの信頼を置いていたかは分からないけど、破産かそれに近いレベルで高額のベット金を失った者たちがいるようだった。


 何人かが怒り狂ってリングへと乱入しようとする。リングの近くに待機していた屈強な警備員に止められ、ボコボコにされてからつまみ出されていった。


 彼らはどうなるんだろう。カイジみたいな生活を送るのだろうか。まあいいか他人事だしと言いたいところだけど、明日は我が身のような気もした。ここで負けるということはそういう意味なのだ、きっと。転生してカイジは嫌だな。


 リングには届かないものの、四方八方から罵倒とともに酒瓶やらゴミが投げつけられる。昭和のヒールレスラーにでもなった気分だった。


 会場のあちこちからブーイングが響く。なんでここまで嫌われないといけないか分からないけど、これだけアウェーな状態がある中で長居は禁物だ。あたしたちはさっさと帰ることにした。


「菜々さん、さっさと行こう」


 菜々さんの手を取って逃げるように試合会場を去って行く。どうやらあたしたちは対戦相手以外にも闘うべきものがあるみたいだった。

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