■第2部 プロローグ
あたしが志崎由奈という存在に転生してから、それなりに時間が経った。
そのせいだろうか、久しぶりに運命の女神が夢に現れた。ギリシャ神話風のドレスを身にまとった金髪のギャル。何度も見ても、コスプレ好きのパリピにしか見えない。
「やっほー。由奈ちゃん、久しぶりだけど元気?」
「まあ、なんとか」
「あ、やっぱりボクサーだった時よりも今の方がかわいいね。うんうん、あたしも嬉しいよ」
女神は誇らしげに頷く。一般的に言う神さまが持つ威厳がゼロなのでどうにも調子が狂う。
前世でトラックに轢かれて亡くなった「俺」は、目の前のギャルの手引きで超絶美少女へと転生した。
いわゆる一般的なチートとは違うものの、世界ランカーがそのまま美少女に生まれ変わっただけなので規格外の強さを持った超絶美少女と騒がれ時の人となっていた。
当初こそ志崎由奈として生きることに戸惑いを覚えたけど、今ではすっかり「俺」だったアイデンティティは「あたし」へシフトしつつある。思い出すと不思議な感覚だ。だから人は死ぬと前のアイデンティティを忘れる傾向にあるんだろうか?
機嫌がいいのか、運命の女神はニコニコと笑っている。
このギャルが無意味に出てくるはずがない。わざわざ夢に出てくるということは、何か用件があるに違いない。
「それで、今回はまた何かあったの?」
「お、さすがに鋭いね」
女神が小首をかしげて下手クソなウインクをする。
「あのね、由奈ちゃん。落ち着いて聞いてね」
「ええ」
「今ね、由奈ちゃんのことを狙っている、とっても悪い人たちがいるの」
「……誰なの、それは?」
「う~ん。悪い人っていう以上の情報がないから、あたしも『こいつが犯人です』みたいなことは言えない」
なんだそれ。
じゃあ、とりあえずあたしのところへ悪い奴の手が伸びつつあることだけが知らされたということか。誰かも分からないなら、いっそ知らない方が平穏だった気がするんだけど。
あたしの心でも読んだのか、目の前のギャルがフォローする。
「まあ、由奈ちゃんなら大丈夫でしょ。吾妻タツの件でも自主的に解決してきたし」
「あいつはバカだったからね。今度の相手もそんなのだといいけど」
匿名で誹謗中傷された時、吾妻が承認願望モンスターだったお陰でネット上に大量の証拠とヒントが残されていた。お陰で吾妻があたしの悪評をバラ撒いているのもすぐに分かった。
今回の相手が何をしてくるか分からないけど、吾妻のようなドジっ子であることを切に願っている。
「それじゃあ、忠告はしたから頑張ってね」
「え? それだけ?」
運命の女神は不安になるような予言だけをあたしに投げつけて、後は帰ろうとしていた。
「ああ、そうそう。由奈ちゃん自身は強いから大丈夫だろうけどさ、その悪い人たちは由奈ちゃんの大事な人を傷付ける可能性があるから、自分以外の人にも気を付けてあげてね」
「え、それは一体誰の……」
あたしが言い終わる前にギャル女神は杖をかざして「謁見」を強制終了させる。周囲は光に包まれ、眩しくて何も見えなくなる。
ちょ……おい、女神。もうちょっとなんか出来ただろう?
あたしの抗議は聞き入れられるはずもなく、光に包まれていく中で意識は途切れていった。




