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笑い声

エミリとエリカの母親との深い話から……

○笑い声

 

 エミリたちはエリカの家に着いた。エリカは迷いながらも玄関のドアを開ける。

「ただいま〜」

「エリカのママさん、今日はいるの?」

「うん、多分……」

 家の奥の方からパタパタとスリッパの音が聞こえて来る。

「はあ〜い、どなた〜?」

「こんばんわ〜」

「ただいま」

「まあ〜、エミリちゃ〜ん、いらっしゃ〜い、随分、久しぶりじゃない?」

「ママさん、こんばんわ。お邪魔します」

 エミリはペコリと頭を下げた。

「エリカ、今日は早いんじゃな〜い? レッスンは? 行ったの?」

 エリカは何も言わずに部屋に行こうと靴を脱いだ。

「あ、えっと、ママさん……」

 エミリは取り繕うとして必死で話を続けようとする。

「行こう、エミリ」

「えっ? あっ、ちょ、ちょっと〜、エリカ〜?」

 エリカは振り向きもせずにツカツカと廊下を先に行く。

「えっ? えっ? えーっ?」

 エミリが愛想笑いで通り過ぎようとすると、エリカの母親に腕を掴まれた。

「待って、エミリちゃん。良いでしょう?」

「えっと、はっ、はい。ママさん……」

 エリカの母親は腕を放して、ニッコリと微笑んだ。

「ありがとう、エミリちゃん。いま、お茶を用意するから持って行ってくれる?」

「あ、えっと、も、もちろんです。ありがとうございます」

「そうだわ。せっかくだしお夕飯も一緒にどう? おテンちゃんには私から連絡するから、ね?」

「はあ、まあ……。い、良いですけど」

 エリカの母親とエミリの母親は娘たちの子役オーディションなどを通してお互いに連絡先を交わした仲だった。

「うちのママとママさんは、お友達なんですよね?」

「そうよ〜。いまでもお友達」

「他にもいらっしゃるんですか?」

「え〜と、それは、子役つながりのお友達ってこと?」

「は、はい。そうです」

「う〜ん、そうねえ〜」

 エリカの母親は考え込むように言う。

「仲良しでなくってもお互いに忘れない間柄で続いている親子も居るわねえ〜」

「ええっ? ど、どういうことですか?」

 エミリはエリカの母親の意外な言葉に驚きを見せる。

「う〜ん、そうねえ〜」

 エリカの母親とエミリは並んでキッチンに立った。エミリは手洗いとうがいを済ませると、エリカの母親に促されてテーブルの椅子へと座った。

「あなたたちの学校にアイカさんっているんじゃない? う〜ん、学年は一つか二つは上だったとは思うんだけど?」

 エリカの母親は食器棚から茶器を取り出しながら言う。カチャリ、カチャリと音が鳴る。

「あなたたちの高校にある演劇部はね、私たちにとっても思い出のある演劇部なの」

(エリカのママって、私たちと同じ高校だったんだよね……)

 エリカの母親は続ける。

「私はその頃、日陰の存在だったんだけどね? とても強烈な個性の先輩がいたのよ」

「えっ? エリカママが日陰の存在って? 信じられないですけど……?」

「ウフフ、ありがとう。エミリちゃん」

 シューッ、シューッとやかんの湯が沸き始める音がする。

「その先輩の娘さんがアイカちゃんなの。もう出会ってるのかな? エミリちゃんもエリカも?」

「え、え〜と……。も、もしかして〜っていう人はいますけど……?」

「ウフフ。や〜っぱり〜、出会ってたんだあ〜」

「も、もしかして〜、で、ですけども」

 エミリはきっとそうだと確信する。

「そこで、エリカなのよ」

「えっ? エリカですか?」

「そう。エリカなの」

 エリカの母親は紅茶のティーバックをポットに入れた。

「母親の私は日陰の存在だった筈なのに、その娘たちは真逆になっちゃったのよねえ〜」

 エリカの母親はやかんからポットへと湯を注ぐ。

「それって、子役オーディションのことですか?」

「そうなのよ。アイカちゃんの母親も熱心でねえ〜。自分の事以上に熱中しちゃってね〜」

「まさか、エリカが役を貰ってばかりだったとか?」

「まあ、そういうことよね。あの子は華があるから、大人たちから見ても目についちゃうのよね」

「それで、アイカちゃんは?」

「う〜ん。あの子も綺麗な顔立ちはしてるんだけど。私と一緒ね。地味なの」

「じ、地味って……」

 エミリはどう返事をして良いのか戸惑ってしまう。

「もう、二人とも、いつまでくだらないこと話してるのよ?」

 ドアが開いてエリカがキッチンへと入って来る。

「くだらなくはないでしょう? エリカ? 本当のことじゃない?」

「ママが言うとくだらないの。もう行こう? エミリ?」

「う、うん。エリカ。ま、待って」

「だからねえ、エミリちゃん?」

「はい? ママさん?」

「エリカは本当は輝く子なのよ。でも、そのことで周りが傷ついてると思ってる。優しい子なの」

「も〜う、ママ。恥ずかしいからやめてよ! 行こう? エミリ?」

「う、うん」

「お茶も持って行って? いま用意できたから」

「分かったってば、ママ」

「お夕飯も食べて行ってね? ママ、美味しい料理を作るから」

「い、いただきます。ママさん」

「行こう?」

 エリカは強引にエミリの腕を引っ張って行く。片手に紅茶とおやつが載せられたお盆を持ちながら器用にエミリの腕をエリカは引っ張る。

「だ、大丈夫なの? エリカ? それ、持とうか?」

「大丈夫、大丈夫。エミリはお客さんだもん」

「うん……」

 エリカは自室にエミリを誘い入れると座卓のテーブルにお盆を置いた。

「座って?」

 エリカはエミリにクッションを差し出す。

「うん。いつも綺麗だね?エリカのお部屋。おしゃれだし、ファッション雑誌にも出て来そうだよね?」

「ん? そう?」

「うん、そうだよ。一つ一つが可愛いよ」

 エリカはお盆からティーカップとおやつの皿を座卓に並べた。

「エミリが気に入ってくれたならそれでいいよ、私は」

「うん」

「さあ、食べよう? お腹すいちゃった、私」

「エリカって、結構な食いしん坊だよね? こんなにスタイルいいのに?」

「ヘヘヘ〜。分かる〜?私って結構な食いしん坊なんだ〜」

「気にしてないの? お仕事とか?」

「ううん。全然」

「すごい、さすがはエリカ!」

「もう〜、馬鹿にしてる〜?」

「ううん。全然。尊敬してる」

「ウフフ。嘘ばっかり」

「本当だって〜」

 エリカはエミリの脇腹をくすぐり始めた。

「アハハ、ちょっと、エリカ〜。くすぐったいよ〜」

「だあって〜、エミリが意地悪言うから〜」

「キャハハ、ちょっと、待って、エリカ〜」

「クフフ」

「キャハハ」

 エミリとエリカは笑い合いながら床に抱き合うように転がっていく。

「エミリ〜? キスしようか?」

 エリカはエミリをジッと見つめる。

「な、なんで? どうしたの? エリカ?」

 エミリは突然の眼差しに動きを止めた。

「うん、ごめんね。エミリ」

「何が? 何がごめんなの?」

(エミリの気持ちに応えられなくってごめんなさい……)

 エリカは長年のエミリからの気持ちに気づいていたけれど、それは無かったことにして来た。エミリはエリカを好きでいてくれるけどエリカ自身にはその気持ちには応えられない。エリカは周りの人間が求めることに敏感だったけれど、その殆どが自分から応えられないものばかりだった。

「う、ううん。何でもない」

「えっ? エリカ? 何でもないの?」

「うん。何でもない」

「そっかあ……。じゃあ、何でも無しにしょうかなあ〜?」

「うん、そうしよう?」

「分かった、エリカ」

「うん」

「ウフフ」

 二人は床から起き上がると冷め始めた紅茶を啜った。

「紅茶、美味しいね?」

「うん、ちょっと冷めてきちゃってるけど、まだ美味しいね?」

「うん、美味しいよ」

「エリカのママ、お料理も上手だし。紅茶のセンスもいいね?」

「ウフフ。エミリってば。ここに来てママのこと褒めすぎじゃん?」

「えっ? そうかなあ?」

「ママに言われたこと、気にしてるの?」

「えっ?」

 エミリは寂しそうなエリカの横顔を見つめる。

(エリカも苦しいんだ……)

 エミリは紅茶を啜るフリをして話題を避けた。

「ママは、いっつも、そう。ママにはママの考えがあって、私にも押し付けて来て……」

「押し付けてるの?」

「本当はそうじゃないのかもしれないけど。私がそう思ってしまうの」

「そう……」

「エミリのお家はそういうこと無さそうだね?」

「うち〜? うちは〜?」

 エミリは我が家のことを思い返してみる。

(う、う〜ん……。うちは、兄弟が多いしなあ……。結構、サバイバル〜?)

「うちは、兄弟が多いしさ……。エリカと違って放任すぎだったかも、アハハ」

「いいなあ〜、そういうの。兄弟って楽しそう〜」

「ど、どうかなあ〜? イツキ兄とモトキと私って、結構、暴れ馬だよ」

「プププ。暴れ馬って? 競争でもしてたの?」

「うん、競争だね。おやつにしてもご飯にしてもオモチャにしてもゲームにしても。一緒にやらなきゃいけないことはいつも競争!」

 エミリは気合を入れて握り拳を上げて見せる。

「エミリの強さはそういうところだよね?」

「強いかな? 私?」

「うん。勝って来たっていう誇りがある」

「誇りかなあ〜?」

「うん、誇りだよ」

 エミリはエリカの瞳の暗い影を見逃さなかった。

(やっぱり……何かあるのかなあ〜?)

 エミリはエリカの心に暗く宿すそれが何か思い当たらないでいる。

「じゃあ、夕飯までゴロゴロしよっか?」

「えっ? あっ、うん。うん。そうしよう」

 エミリは明るく言うとカバンから端末を取り出す。エミリは、そこからお気に入りの動画を流し始めた。

「ねえ、ねえ、これこれ……」

「ああ〜、私も知ってる〜。いま、一番面白いやつだよね〜」

(エリカが笑えるように私はずっとそばにいるね……エリカ……)

(エミリ、いつもありがとう……私も答えを自分で……)

 それぞれの想いを隠しながらエリカの部屋には二人の笑い声が響いた。

エミリとエリカの切ない話……

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