仕掛け
アマガミとオモイカネは人間界につながる池の水について話しながら……
○仕掛け
その頃、天界ではオモイカネとアマガミが人間界の子供達の様子を見たことで話し合っていた。
「トモ〜? 子供たちは何やら楽しそうなことを始めるようじゃのお〜?」
「そうですねえ〜。池の水たちも喜ぶでしょう」
モトキたちが通う中学校の中庭にあるビオトープは、学校が建設させるよりもずっと以前から湧き水が溜まる泉があって、その泉を改造したものだった。その泉の水は天界より滴り湧き水となって地上に溢れ出ていた。その為、天界から人間界の様子を見聞きすることは、その水を通せば容易に出来たのだった。
「子供たちは水をどうするのかのう〜?」
「どうするのとは?」
オモイカネが尋ねる。アマガミは目を閉じて言う。
「ふうむ……あの池には、さまざまな仕掛けがあって、その……」
「仕掛けでしたか? 例えば?」
「え、えーと……」
アマガミは目を開けて言う。
「生きたものたちで言えば……メダカ、ワニ……」
「はっ!? い、いま、な、なんとっ?」
「ワニガメじゃ」
「えっ!? ワ、ワニガメって見つかったらまず駆除されるのでは……? な、なぜ、そのようなものまで……?」
「ワニガメの母に頼まれてのう。それからじゃ」
アマガミは笑いながら言う。
「わ、笑い事では……ない!」
オモイカネは焦って下界を覗きながら言う。
「よくこれまで誰も噛まれませんでしたね?」
「もちろんじゃ、そこは大丈夫!」
「な、なぜです?」
「そのように約束したのじゃ、ワニガメの親子とな。フフフ」
「ま、まあ……アマガミ殿は愛を司る女神ゆえ、それぞれの凶暴性を取り除くのはお手のものでしょう?」
「うむ。どの子も愛する子供達じゃ」
アマガミは嬉しそうに微笑む。
「他には? まだ、何か? 仕掛けが?」
「そうじゃのう……。エビに、トカゲにヤモリ。カエルに鳥たちかのう……?」
「えっ? と、鳥たちもですか? 水場が小さすぎるのでは!?」
「うむ。狭すぎて白鳥たちは無理であった」
「そ、そりゃあ〜、そうでしょう。ハア〜」
オモイカネはため息をついた。
「生きたものたちは、そのくらいじゃ。また、追々出てくるかもじゃがな」
「それは、神使ですか?」
「うむ。人間にはそのようには見えぬ。ただの生き物じゃ」
アマガミは神使を手の平に現してオモイカネに見せた。
「フウ〜」
アマガミは手の平に息を吹きかけた。すると、手の平から一羽の蝶が舞い出た。
「ほほう〜。お見事です」
「うむ。この世界では生き物たちがわらわのことを手伝い支えてくれる。ありがたいことじゃ」
オモイカネは感心したように「うんうん」と相槌を打っている。
「それで……? 生きものの他の仕掛けとは? 何でしょうか?」
「えっと〜……」
アマガミは忘れたことを思い出すような面持ちでオモイカネを見つめた。
「すぐには出てこぬ」
「はあっ?」
「だ、だから、すぐには出てこぬって〜」
「お忘れ……ということでしょうか?」
オモイカネはアマガミを見つめる。
「う、うむ……」
アマガミはまだ願いを叶えると言う修行がよく出来ておらず下界の仕掛けのことも充分には習得できていなかった。そのため、仕掛けのことも話には聞いたままで理解するまでには至っていなかった。
「か、帰って……ウメに聞くぞよ」
アマガミはシュンっとして下を向いてしまう。オモイカネは思い付いてアマガミに話しかけた。
「今日のところは、これでお別れしましょう。アマガミ殿はウメ殿に、私は帰って年長の神々に話を聞いて参ります」
「う、うん。頼りなくてすまぬな、トモ……」
「良いんですよ、アマガミ殿。恋は始まったばかり。人の子たちもそうでしょう?」
オモイカネは水を通して人間の子供達の様子を映し出した。
「ほらほら。可愛い子供たちの顔が見えますよ?」
そこに映っているのは、エミリとエリカの顔だった。
「この二人……どうなるのかのう?」
アマガミは二人の顔を眺めると、そのままスウーッと姿を消した。
「やれやれ……行かれましたか」
オモイカネはアマガミが帰ったことを認めると自らもその場を去った。
下界では、エミリとエリカが街中で戯れあっていた。
少しずつ仕掛けが明らかになって行く……