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No.35 どこ行きやがった馬鹿野郎

「……ってな事があってさぁ、もう本っ当に大変だったよ」

「ふぅん。ラミナ先生ねぇ……ルルス先生ってお姉さんいたんだ」


 昼間の出来事をラーファルに話す。ラーファルは僕の話を興味深そうに聞いていた。


「それで結局古代文字の授業選んだんだ」

「まぁね。このチャンスを利用しない手はないから。フフフ……昔の文献……楽しみだなぁ……」

「エス、何か悪役みたいになってるよ」


 すると突然、部屋のドアが激しく叩かれた。


「おい! ラーファル! セルマリエス!」


 ドアを開けると、メルトが息を切らして部屋の中に入って来た。いつになく慌てた様子で、ついさきほどまでどこかを走り回っていたのか、膝に手をつき肩で息をしている。


「ハァ、ハァ、なぁ、お前ら、サイラス見なかったか?」

「サイラス君? 見て無いよ。どうかしたの? あ、良いよ。ここ座って」


 ラーファルはベッドに腰かけ、自分の隣を指し示す。メルトは一言礼を言いそこに座ると、額の汗を拭い息をついた。


「……聞いてくれ。単刀直入に言う。サイラスがいなくなった。」


 ……は?


 いなくなったって? あの銀髪が?


「意味分からんって顔してるな。言葉の通りだ。サイラスが消えた」


 いや、聞いても分からんよ。消えたって何?


「どっかにいたりしないの? 単に部屋に戻って来てないだけとか」


 ラーファルが尋ねると、メルトは首を横に振り否定する。


「俺も始めはそう思ったさ。でも何時間待とうがアイツは帰って来なかった。それで色々聞きまわったり、あちこち探し回ったりしてたんだが、やっぱりどこにもいなかった」

「どこにも?」


 ラーファルが問うと、メルトは黙ってうなずいた。


 ラーファルは尾羽を揺らす。そしてメルトの部屋がある方向に目を向けた。


「でも朝はいたよね? 少なくとも朝食に行って戻って来た時、あそこで白くなってた事は覚えてる。」


 ラーファルは口元に手を当てる。首を斜めに傾けてしばらく目を閉じ考えていたが、はっきりした答えは出てこない。


「とにかく今分かってるのは、サイラス君は僕達が校舎に向かってからメルトが部屋に戻るまでの間にいなくなってたって事?」

「そうなるよね。あのすぐ後にはもういなくなってたのか、それとも数時間の間はまだあそこに倒れてたのか。どちらにせよ、僕達がここにいなかった間に起こった事だから、厳密な時間は分からない」


 現時点で分かっている事は、サイラスがいなくなったのは僕達が寮を出て戻って来るまでの数時間、そのどこかだと言う事。アバウトすぎて、正確に『はい! この瞬間!』と絞り込むのは、ほぼ不可能に近い。


 つまり、実質何も分かってないって事だ。


「……そもそもサイラス君は何でいなくなったの?」


 ラーファルは尾羽をぽすぽすベッドに叩きつける。


 「自分から出て行ってたんだとしても、理由が無きゃおかしいよね?」


 ……確かにな。どこに行ったか、いついなくなったかの話以前に、動機が無けりゃその見当すらもつけようが無い。


「なるほど。アイツがいなくなった動機か……まず不満があるから出て行った、ってのはまず無いだろうな」

「そうなの?」

「ああ。アイツの性格からして、それだけはあり得ない。別段仲が良かったとかは無いが、一応、アイツの事はここに来る以前から知ってるからな。ありゃ不満を感じない、もしくは不満があったら脳死でギャーピー騒ぎ立てる、そんなタイプだ。」


 ……失踪中に悪いんだけど、あいつそんな能天気なお気楽お馬鹿、もしくは精神ガキンチョなの?

 まぁそれは置いておいて、メルトの言う事が本当なら、自主的にいなくなった線は薄い。


「あの夢遊癖で外を歩きまわってる、って可能性はない?」

「ある……かもしれないが、それも無いだろうな。そんな変なやつが徘徊してたら、間違い無く今頃噂が立ってるはずだ。セルマリエス、お前には心当たりがあるだろう? ここの連中は噂話が大好きだからな」


 メルトもラーファルも、そこまで言って口を閉じる。考えれば考えるほど分からない。


 ……待てよ、アイツは本当に自分からいなくなったのか? 


「……誘拐された、ってのは?」


 突拍子も無い意見が口を突いて出る。


「誘拐? 学園内で? そんな事出来るか?」


 うん。正直僕もそう思う。こんなどこで誰に見られてるかも分からないようなところで、白昼堂々誘拐なんて出来るはずが無い。


「……普通だったら出来ないだろうね。街との境界には一日中見張りがついてるし、見たところ学園の施設がある範囲の周りには、そこそこ強力な結界が張られてる。それに校則には、『学園内で犯罪を犯した者は、生徒・職員に関わらず厳しく処罰される』って明記してある。」


 机の上に置いてあった生徒手帳を開き、二人に見せる。

 校則のページを開くと、確かにそう赤い太字で記されていた。


 ——故意による殺傷、ならびにその他の犯罪行為。学園内においてこれを行った者は、立場に関係なく厳しく処罰される。


「内からだろうが外からだろうが、誘拐なんてハイリスク過ぎる。そんな危険極まりない事、普通だったら絶対しない。でも『普通』じゃないやつだったらどうだ? もし普通じゃない何かに攫われたのだとしたら、ひとまずの辻褄は合う」

「……確かにそれはありえなくはない。だけど……」

「……現実性は欠けている……」


 二人はますますひどく悩み込む。僕の仮説がちょうど上手く成り立っていて、どうにも否定しきれないからなおさらだ。


 サイラスがもう少し大人っぽい性格をしていたらどんなに良かった事か。皮肉にもあいつ自身の人格が、僕達を一番可能性の低い選択肢へと導いてく。


「ああ〜、恨むぞサイラス。面倒な事に巻き込みやがって」


 ディア、サイラス。

 なに誘拐されてんだテメェ。連れ去られるのは、アニメ・ゲームのお姫様だけで十分よ。


 目を閉じ、まぶたの裏にサイラスの顔を思い浮かべる。


『捕まっちった。助けてくれ』


 僕の中のイマジナリーサイラス君は、誘拐されたってのにウインク、スマイル、親指グッドだ。

 僕の主観が混じってるとは言え、なんて知性の欠片もない態度……


 あぁーもう、キラーン、じゃないわ馬鹿タレぇ……

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