No.21 不可解の原因、知らなければならない事
『白猫亭』にて料理を堪能した後。
もうしばらく学園の周りを見て回ろうと、僕は一人で街をぶらついている……はずだった。
なのにどうしてこうなった?
僕の三メートル後方にはエレオノーラ。
初めに言っておくと、彼女はまだ別に何もしてないぞ。
いくら僕でも、こんな街中で急に戦いだしたりはしないからね。
彼女は何もしていない。
そう、何もしていないし何もしてこないのだ。
ただただなぜか僕にずっとついて来るだけ。
さっきから。
何を言ってきもしないで。
ずっと。
ずーーーーーーーっと。
その上エレオノーラは無表情なのだ。
教室で話した時もそうだったけど、今も。
分からない、彼女が何を考えているのか。
表情からは何も読み取れない。
分からない……からちょっと怖い。
ってか本当、なんでこんな事に……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二、三時間ほど前……
(いや~、それにしてもさっきの料理は美味しかったなぁ。ちょっと床が壊れたりとかはしたけど、そんな事どうでも良くなるくらいには。今度ラーファルとメルトも連れてこよう。次にあの先輩に会ったらちゃんとお礼言いたいな。授業では……何かと色々あったけど昨日ほど面倒な事にはならなかったし、何よりあんな良い店を知れたんだ。何だか今日は運が良い……)
最初にいた大通り、そこから東の方にちょっとずれた所にある武器屋で、銀色に輝くナイフの刃を眺めながら僕はそんな事を考えていた。
どうして武器屋なんかにいたのかは聞かないでくれ。
現代日本にはこんな物騒な店無かったから、ちょっと奥の方にしまっておいてあった中二心がくすぐられて……まぁ、その……な、分かるだろ。
でも理由と言ったら他にもある。
学園ではある程度の武器の所持が許可されている。
まぁ決闘システムとかがある以上は許可されない方がおかしいんだけれども。
実際メルトとか剣持ってるしね。
僕のぶっ壊れ性能の魔術だと細かい調整が利かなくてなにかと不便だし、仮に近接戦になったとしても、人前で爪を出す訳にはいかない。
だからせめてナイフでも買おうかと割と本気で考えてた。
……結局この店では買わなかったけれども。
それで、店を出ようとして扉に手を伸ばした時。僕が手を掛けるより先に、外側から扉が開いた。
鉢合わせたのは当然……エレオノーラだ。
(……前言撤回、最悪だ)
もうそれしか出てこないよね。
なんだってこいつとこう一日に何回も顔を合わせなきゃいけないんだよ。
「……なんでこんな所にいるの?」
先に口を開いたのはエレオノーラだった。
なんでって、歩いてたら偶然この店を見つけたってだけで理由も何もあるか。
「……そっちこそなんでいるの?」
彼女の質問には答えず、そっくりそのまま聞き返す。
「別に。私はただ剣の状態を見てもらおうと思っただけ。私のレイピア、しばらくメンテナンスしてないから。あなたは? 特に武器は持ってないようだけど、何か買いに来たの?」
エレオノーラは腰のレイピアの柄をいじりながら再度僕に問う。
「いや、見てただけで何も。当分は必要無いだろうし、もし必要になるならその時買えば良い」
「ふうん。そう……」
「……」
「……」
……駄目だ、会話が続かない。何っでだかこいつの前だと調子狂うんだよなぁ。
別にエレオノーラの事が嫌いって訳じゃない。
それを言うならメルト……ってよりあのお供二人……の第一印象の方がもっと酷かった。
だからこれは深層心理よりももっと根本的な何か……何だろう、本能?
十中八九彼女の血統によるものだとは思うけど、本能的拒絶? 嫌悪? みたいな。
「……あー、いつまでもここにいたってしょうがないし、僕もう行くから。それじゃ」
なんとなく無言に耐えられなくなり、適当に別れを告げ店を離れる。
言うまでも無くただの逃走だ。
セコいとか狡いとかそういうのはナシだぞ。
気まずくなった時は結局逃げるのが一番なんだ。
で、だ。普通だったらこの状況では逃げた相手を放っておくのが定石だろ? 間違っても追いかけたりなんかはしないはずだ。
エレオノーラは用事があってここに来たんだから、なおさらそのはずだ。
だからこれはおかしい。
店の入り口でUターンして僕について来るのはおかしい。
でも早合点するのは良くない。
もしかしたら気が変わっただけなのかも知れないし、店の内装が気に入らなかったのかもしれないからな。
ためしに学園の方に向かって歩いてみる。
さっきよりも学園の生徒の数が増えてきた。
横目で後ろを見てみると……エレオノーラはまだついてきている。
今度は南へ向かってみる。
噴水のある広場があって、家族連れやカップルが多くなってきた。
もう一度後ろを確認してみると……まだいる。
それから西に東にあっちへこっちへ、あてもなく街をぐるぐるぐるぐる。
……そして今に至る。
なんだかんだでまた最初の大通りへ戻ってきた。
そしてまた振り返る。
……やっぱり、いる。
いやなんでだよ!?
「なんでこんなずっとついてくるんだよ!?」
ついに堪忍袋の緒が切れ僕は叫ぶ。
こうも何時間もつきまとわれては、自由に散策も出来やしない。
その上エレオノーラは有名人だ。
北にある大国の王女様だ。
ここいらで彼女を知らない人はほとんどいない。
そのせいで、どこに行こうが僕らは注目の的だ。
もう本っっっ当にこれ以上は目立ちたくないのってのに!!
「何で……? 特に理由は……無い」
「嘘つけ!! 理由も無しに何時間もつきまとうなんて、普通ありえないだろ! そもそもレイピアはどうしたんだ? 武器屋で見てもらうって言ってたじゃないか!」
エレオノーラは自分の剣に一瞬目を向けるも、またすぐ僕に向き直る。
「剣は別に後でも良い。今すぐ整備しなきゃいけないって訳でもないから。それと……理由は本当に無いの。ただそうした方が良いって気がするだけ」
「はぁ……?」
何だよそれ。
本当に意味が分からない。
「何だよ、そんな気がするって。どうせ気のせいだろ。今日の朝だってそうだ。……なぁ、王女様、いやエレオノーラ。教えてくれ、お前は一体何なんだ」
今一度エレオノーラに問う。
これまでの彼女の説明は、どれも酷く曖昧だった。かと言って何かを隠している様子も無ければ、嘘をついてる様子も無い。
なぜこんな行動をとるのか、今後の為にもちゃんと確かめる必要がある。
理由のともなわない行動、僕の正体、トルグイネ王族の血。
これらの情報から今のところ考えうる事はただ一つだ。
……もしエレオノーラの答えが僕の考える通りだとしたら?
「いや、絶対に気のせいなんかじゃないわ。私自身よく分かっていないけれど、そこだけは何か確信のようなものがある。こう言う類の勘は外れた事が無いの。なにせ私は『先祖返り』らしいから」
やっぱり、そういう事か。
彼女の言う勘とはおそらく本能、そしてその源泉は僕と同じ。
少々僕はこの世界を楽観的にとらえ過ぎていたようだ。
この世界はファンタジーなんかじゃない。ここが現実である以上は、何もかもが上手くいくなんて事はありえない。
人間の街に出て、エレオノーラと出会って新たに得た一つの真実。
僕は最初から、それこそ転生したその時から“何か”に巻き込まれている。
三千年前から続く“何か”に。
白竜の事。
僕を含め現在を生きる同族達の事。
そして、かつてあったこの世界の歴史の事。
――僕は全て知る必要がある。




