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67:ココロの帰還

 



「黒い──オーメン?」


 まどろむような心地の中、ボクはそれを見た。



 さっきまで……流れるような……魂の天の川にいて……そして……ここは……夢の中だろうか。


(違うよ。リュウのココロの中さ!)


「ボクのココロ……」


(そうさ。あー住み心地が良いぜ~)


「寛いでる……。どうしてそんなに真っ黒なの?」


(ん? この色って言えばさ、なんかほら、リュウにも覚えあるだろう?)


「ボクが……白と黒になったような?」


(さすが俺様の相棒だな! そう。俺様だって白と黒に別れて、白いほうが亡骸サーカス団にいるはずなのだ。なんで?)


「……知らないよ……。けれどまあ、想像でなら……君と離れたくなかったんじゃないかな。キングはああ見えてさみしがりやに思えたから」


(お別れみたいな啖呵切ってきたのにーー!?)


「いいじゃない。ボクたちは帰ってこられた。白いオーメンも黒いオーメンもボクは好きだから、黒いオーメンのことを大事にするし、白いオーメンは、きっとあっちで心残りがあったんだろう。それが解消されていることをボクは願うよ」


(白いリュウ団長がいるから大丈夫だろうけどさあ。いやあいつだけだと心配だけど、周りが頼もしいからさあ。まあ、ありがとうな。へへへっ)


 ──あ、目覚めるぜ──


 そんな声を聞きながら、ボクは、目を開けるような感覚があった。

 きしむ瞼の裏。ぴりぴりと眼球が痛む。


 ──元の世界に戻る?──

 ──うん! やだ! どっち?──


(おい)


「キング?」


(おいおいおい、本当のさみしがりやさんかよおお!?)


「いや違うみたいだ。リュウ団長なんでしょ。あはははっ、ボクがビビるかもしれないからエールをくれたんだろうな」


(リュウ団長ってそんなにひねくれていたっけ)


「ベースはボクだからね。まあからかわれただけだよ。キングがキミにしたみたいに、背中を押してくれているだけのこと。あははは! ”うん!”」


 ──そこがつらい世界でも?──

 ──うん! やだ! どっち?──


「”うん!”  そこが、ボクのいるべき世界だから」






 病室だということがリュウにはわかった。

 いくつもの年を跨いでこの部屋の閉塞感、入り乱れる医療従事者の呼吸、冷たい空気に囲まれてきたからだ。──しかし、すずしくて綺麗な空気だと思う。


 音を楽しむ余裕すらあった。


 彼がそうしている時、ココロはゆうゆうと脈を打ち、なるほどこういうことかと思った。

 思えば、すぐに相槌のように心臓がうなずく。──トクン。


「脈、正常に戻りました」


 ──トクン。トクン。トクン。


 ──これからはもう心臓のリズムを忘れることなんてないのだろう。

 ──たとえリュウがこの体を見失いかけても、もうココロにいるオーメンがよしきたとばかりに張り切ってリズムを刻むにきまっている。


 ──あの時、廊下を駆けたリズム。


「もう大丈夫です」


 ほらね、とリュウは思う。


 それと同時に、信じられない、という感想も抱いた。


「峠は、越えました」


 そういう医療者の声もまた、震えていた。


 リュウ──火野川龍は、回復の見込みがほとんどなかった青年だ。


 その体のあちこちに不調が見られて、あの症状を治せばこちらの病気、と医者が幾人もたずさわり、まるで病院の検証例そのものみたいだった。

 そこにいる期間が長く、また、火野川龍は表情の乏しい男子だったことから、しだいに人間扱いをされなくなってもいた。


 忙しい医療従事者は心をときほぐすコミュニケーションをする時間が減っていった。


 火野川龍は(死んでしまいたい)と思ったことがある。


 それからしばらく、まどろんでいた。


(実際には亡骸サーカス団にまきこまれる大冒険をしていたのだけど──)


 そんなわずかな間に、一時死亡寸前ほどの急患となり、また蘇ってくる……などという奇跡を見せれば、医療者たちが声を震わせてしまうのも無理のないことだった。


 龍は、体が重くなっていることを感じた。


 あのサーカス団で小さな体で駆け回っていたことがはるかな夢だったかのように思える。

 そして、あそこで帰るのを諦めてしまっていれば、おそらく自分は目覚めなかったであろうことを確信していた。


 ──トクン。トクン。トクン。


 今はただ、体があり生きているということや、体がまとう病院着の感触に、指先が触れるシーツの質感、体を包むすずしい空気といったもののすべてが生々しく、ときめいてすらいた。


 つらい世界であることには変わりない。


 これからリハビリなどが大変だろう。


 周辺環境だって健全とは言えない。

 日本中が暗い空気の最中にあった。


 それでも楽しめている。


 火野川龍はすっかり可笑しくなって口元が微笑んだ。





 それからベッドに寝かせられたまま病室が移動する。

 病院のベッドというのは場所移動ができるように作られている特別製だ。そのようなことを知っているくらいには、ここで生活してきたのだ。


 どうやら、手術室から個室、そして大部屋の方へと回されたらしかった。


 ココロはずっと躍動していた。


(目を開けないとなあ)


 楽しみすぎてどうにかなってしまうかもしれない。

 準備はいい? とオーメンに語りかけるように思う。


 目を開いた。

 ぴりぴりとする眼球と引きつれるようなまぶたのだるさ。そんなものなんてことないくらい景色が鮮やかに飛び込んできた。


 夕方で日が落ちかけている空のグラデーションのなんと芸術的なこと。窓が開けられていてカーテンが揺れるその動きに目がつられる。この世界の風はあまりに優しくトンと肩を叩くみたいに龍のことをかまった。


 そして、サカイとアカネが覗き込んでいた。


「ただいま」


 リュウに戻ったような気持ちでそう言えば、サカイは涙ぐんだ。


「おせーよ……バカ」


 アカネは無言で、けれど唇を噛み締めながら口角を上げて返事とした。



挿絵(By みてみん)



あけましておめでとうごじいます。

70話で完結です!


元旦にリュウくんが日本に帰ってこられたのは、ラッキーな作品だったなあと思います。投稿開始の日はずるずると先に延びてしまっていて、予定通りではなかったんですよ。

運を持っているドリームジョーカーの登場人物のみなさん、おつかれさまでした。

書かせて下さった原作動画のさらら様、キャラのみなさんに、ありがとうとおめでとう!!!です!


[黒杉くろん]



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