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60:ピエロたちのココロ・愛

 



 トラウマの裂けたカーテンの間から見えているのは、ココロ自動販売機のある部屋にたたずむネコカブリとユメミガチ。


「お前たち……お前たちィ……私に協力しろ……私に力を与えてさァァ……!」


 崩れながらもそう語りかけ、トラウマは自らカーテンを大きく切り裂いた。


 どうやら二人の幹部からの応援をもらい、決死の攻撃を企んでいるようだ。

 せっかくキングからの助太刀を防いだのに!



 幹部二人の能力の恐ろしさは、よくわかってる。


 まだ震えるくらいだ。

 ネコカブリが持つのは死体を縫合して蘇らせる魔法。

 ユメミガチが持つのはたくさんのピエロを操る魔法。


 あの二人の声がついにこちらの空間まで届く。


 組まれちゃまずい!

 ──けれど、トラウマの語りかけを、あちらの叫びが大きく塗りつぶした。


 ボクらを気にもとめない。

 あっちはあっちで、自分事に必死のようだ。


 二人がココロ自動販売機を叩く。

 泣くような声、ココロが悲しみでいっぱいのような。


「やだーーー! うわーーんっ! ココロ自動販売機がバグってるなんて冗談じゃないよお! なんで!? なんでなんでなんでこんなタイミングで……ボクの仮面パワーアップしてよ、お願いっ! "叶えたいこと"があるんだ。ボクらのために働きやがれボロボロ機械ー!」


「あんたの腐ったココロがダメなのよ代わりなさい。さあてボタン連打してあげるわよ、それそれそれそれ、直れ直れ直れ、"もっと壊れた"ですって……!?」


「バーカバーカユメミガチのバーカ」


「うるさい!ああもうそんなことより」


「「キマグレ団長を治させてよ!!」」


 ……二人はココロ自動販売機を”使おう”としてる。

 自分たちのココロを売ってまでも。

 それは、キマグレ団長のために?


 見れば、二人と機械の間には、炎で焼かれた細長い体のようなものがある。


 ネコカブリの仮面は割れているからこの死体を操って連れてくることはできなかった。

 ユメミガチの仮面があってもピエロがいないから戦力にすることはできなかった。


 だから二人は、小さな体と背の高い体であっても協力して、苦労しながら団長の体をここに運んできた──そんなイメージがボクの頭の中に展開される。

 おそらく合っている。

 ボクは誰かのココロを察することが特別得意なピエロだから……。


 どうしてなのか。

 きっと見捨てられなくて、だ。


 ボクが地下で会った時のお菓子をくれるような人柄がキマグレ団長なのだとすれば、他の幹部に慕われていてもおかしくはない。

 たとえそれが亡骸サーカス団を運営している一人で、傷つけるための地獄を作っている一人なのだとしても、ボクたち人って結局、優しくされたことって忘れられないんだ。


 でも、ココロ自動販売機は直らない。


「んもおおおお動けよ、ボクの仮面をパワーアップしたら、団長の焼死体をココロまでも含めて綺麗に治せるかもしれないじゃん!?」

「そのために二人分のココロあげるっつってんでしょこのヘボ機械!」

「鞭打ちすんなバカ!」

「壊れかけの機械には打撃ってルールがあるのよ!」

「それは"テレビ"だけだ!」

「──!」

「──!」


 ──幕が下りる。

 トラウマは自らのカーテンをかき集めて、さっきまで映されていた景色を隠した。わなわなと震えながら。


 ココロ自動販売機は”直さない”。

 そんな覚悟が、トラウマから把握できた。


 あのままキマグレ団長の亡骸は死んだ状態となるのだろう。


「ウウウウウ!!グギギギギギ!!団長……コードネーム:キマグレ!!お前は"いつも"いつもいつもーー!!」


 転がった頭がダダをこねるように叫ぶ。


 だんだんと声が弱くなっていったけど、キングはその顔の周りと灰色の手に"赤い布を被せた"。

  死者へ贈る死装束のように生気せいきのない布地。けれど崩れかけの体をまだ縛り付けるための布地。


 そして光は歓喜したように両手を広げる。


<ああ、嫉妬に囚われた芸を見せるピエロ! それにふさわしい力をあげたいな……>


(違うよキング。これは”愛”なんだよ)


 すかさず割りいる。

 そんな陳腐な言葉にされてたまるかよ。


 団長を抱えて悲しんでいるネコカブリとユメミガチも、おそらくその二人に一番好かれていたかったから取り乱しているトラウマも……。深いところまでココロを潜れば、その人なりの愛の形が見えてくる……今回のことは、まさにそれだ。


 嫉妬なんてのは、浅いところにある情報で。

 キングなんて、そこまでしか見えない存在なのだということがわかる。


 わざわざ、キングを引きつける言葉を使った。

 愛なんて一言で、表せないものだけれどさ。


 隙あらば、キングはあの赤い布で覆ったトラウマに”まだ”何かさせるだろうから。


(ねえオーメン、見せてやろうよ。ココロの魔法の使い方ってやつを。彼がまだ気づいていない表現で! というわけでまた代わって。今度はボクがワガママを言う番でもいいでしょう?)


「絶対譲らないやつジャン。じゃあ……It’s show Time!」


 オーメンが優雅に礼をしてみせると、またしても体の主導権はボクに代わる。


 ボクが持つ”白黒ピエロ”とオーメンが持つ”大人びた姿”が混ざっているね。


 ボクはココロを研ぎ澄ませる。

 この場に散らばった様々なカケラから、さまざまな人のココロの色が見えるよ。

 浅いところだけでなく、深いところの助けを求める声までも。


 ボクが引っ張り上げて、君たちのことを覚えていよう。

 罠を仕掛けてしまったりしてごめんね。

 そのせいで、ココロ自動販売機の中の仮面ココロを割ってしまって。

 痛かったよね。

 けれど君たちの──忘れないで、無かった事にしないで──というココロは受け取った。


「”フロマーチ”」


 かき集めよう、ココロを。


「”ランドール”」


 ボクたちの魔法がきらめく。


 ココロパレットは七色になる。崩れかけた暗い空間で見るからちょっとくすんだ色だけど。

 何も書かれていない魔法カードを服の裏側から引き抜いた。ピエロが魔法を使う時の助けになるもの。

 これを作ったのは、コードネーム:トラウマだ。


 ボクの仮面の色を吸収した魔法カードからは、白い小さな馬が生まれる。


 どうすればいいのかわかるよ。

 この白い馬もきっと、ボクがやりたいことがわかってる。


 天井に巨大な魔法反応あり。


 それは巨大なメリーゴーラウンドの形をしていた。これがやりたいことの形。


 白い馬には翼が生えてボクのことを乗せて浮かび上がる。オーメンの仮面もボクが持っていく。


 それを追いかけてトラウマの体が伸びてくる。崩れながらも手を伸ばしている。


<──It’s show Time──>


 キングの恍惚とした声。

 メリーゴーラウンドの真下に”視界がある”ので、特等席で観覧しているのだ。


 さあよく見ているといい。

 君が邪魔したくもならないような魔法を見せよう。


 メリーゴーラウンドの構造が分解され、落ちてきた輪が、トラウマの体にはまって締め付けている。捉えた。


 メリーゴーラウンドの木馬がぷつり、ぷつりと千切れて、振っていく。流星のようだ。

 トラウマの体にぶつかるたびに火花を散らし穴を開けていく。


 ──フィニッシュ。核を壊す。

 ──もう終わりにしよう。

 ──ボクを乗せた白馬は、天井に向けて突き抜ける。


 トラウマの体が完全に崩れて、顔ももう半分も残っていない。


 オーメンが「代わって」と言ったからまた代わる。


「どうしてそこにいるのがコードネーム:キマグレなんだ……そこには私が……私こそがそこに……私……わた、私は…………?」


「”フレナイロ・バーバリー”」


 オーメンが呼びかけると、ガイコツのような頭は砂のように崩れ去った。

 オーメンではなくてキマグレ団長を思わせる、冷たくもやわらかな響きの声だった。


挿絵(By みてみん)




 そしてオーメンは間髪入れず”ワープ”を使う。ボクたちがやってきたのはサーカスの屋上だ。


(どうしてここに?)

「とりあえずキングから離れるため! 光の粒子みたいなのが、木馬の爆発の風圧も受けて散ってたろう、あれじゃあすぐには動けない。キングの本体はあのパレードの先、城にあるんだが、その二点を避けよう、とな」


(お疲れ様、オーメン)

「ああ、お疲れ様」


(体返してちょうだいな)

「それはダメ」


(君がしているのはただのイジワルじゃないよね。またボクを守ろうとしてるの……?)

「危なくなったら、助けてって言えるぜ。さっき見せただろ、情けないとこを。だから貸しといてくれ。あの転移の鏡の前に行くところまで」

(わかったよ)


 オーメンとそれから廊下を走った。

 倒れてくる柱や道具箱などをくぐり抜けて。

 ギャーギャー言いながらしばらくの友達らしい会話遊びを──。

 とてもスリリングで楽しかった。君とだから楽しかった──。


 そしてボクらは改めて地下にやってきた。

 転移の鏡がある部屋だ。




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