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48:リュウからサカイへ

 


挿絵(By みてみん)


 ボクはいつも誰かしらに支えてもらっているな。

 そうしてもらうだけの価値があるんだろうか。

 それはいつも、ずっと、ボクの頭にある哲学のようなもの。


 ふと走馬灯のように日本の病室のイメージが浮かび、ボクの体は成長する。


「え、重い。デブ?」


 ボクを抱えているサカイがのたまわる。


「……サカイさあ〜。思考がうまくできなくなってるでしょ。事象からの結論出しがすごく雑。サカイはデリケートなところをざっくり言う人じゃないのにさ!」

「わからないな」

「そうなんだろうな~」


 サカイの頬を軽く叩く。ぺちぺち。


 それでも表情はまったく動かず、眉も微動だにしない。

 いっさいのココロの活動を止めてしまったのだ……と理解できた。


 デブとか言われた怒りもしぼんでいく。


 おそらくココロを売って最上級の衣装を取得させられたサカイが、それでもボクのことを助けにきてくれたのは、身体に、ココロの名残があるからなんだろうな。


 そんな、いいやつだ。


 いいやつのさ、ココロが奪われるって、納得したくないなあ。


「なんで来た。脱出は?」


 サカイはそんなことを言う。ボクに対してだけ言う。


 君もいないとダメに決まってる。

 君を見捨てたら、ボクのココロはダメになるんだよ。

 とびきり生意気な顔をしてやろう。いーっ。


「今まさに作戦途中に決まってるじゃん。サカイを迎えにきたんだ。一緒にいこうよ」


「はあ?」


 サカイはイライラしているようだ。

 真顔で、はあ、は怖い。

 あいつ、こんな迫力あったんだな。

 初めて向けられたボクへの負の感情に、びっくりした。


 バチバチ、チュドーーーン! とあちこちで緑の雷が落ちている。「贅沢なパレードだなあ」という喜びの声と、「これ本当に余興!?」という叫び声。


 空のオウマさんが大暴れしているらしい。

 黒焦げになったドレスとダンスをしていたはずだけど、ドレスをバイクの旗みたいにひっかけて、パラリラ……って空中爆走中。いや芸としておもしろいけど、ヤンキーのやつじゃん。


「オウマあいつめ……。リュウをこの場から離しておいてくれって話しておいたのに、簡単に約束を破りやがって」


 へえ。オウマさん、約束事ってこのサーカスにおいてルールに近しい作用を持つのに、ふりきるなんて。

 オウマさんがそうしてくれてありがたかったし、彼はそうできるだけの高い実力を持っていることがうかがい知れた。


「彼が空で大暴れしてくれてるから、君がこうして外に出ていても、騒ぎになっていないんでしょ! みんなあの雷よりも目立とうとして必死だからさ……」


「狂ってるな」

「そうだね、いつも通り」


 サカイはため息をつく。


 ボクを抱えたまま、檻の上にのんびりと腰かけた。


「ちょっ、こんな目立つところにいて大丈夫かな……!?」


「周りは狂ってるし、まさか脱出したいなんて気持ちが俺に残ってるなんて思ってもないんだろうさ。周り、さっぱりしてるだろ。だーれもいない。警備がいたところで今の俺が本気を出したら敵うはずもないからなー。

 この紫の衣装を着てたらでかい魔法を使うことができる。パレードも壊せるかもな。そうしてみたいか?」


「あと少し、待って」

「ん」


 サカイはあまりに行動が早くなってる。ためらいもない。

 彼の中にあるのは名残だけなんだ……。

 言動に気をつけてやらないと、あっというまにボクの一言で暴れ出すだろう。


 アカネのように、ボクに作戦をすがっている。


 この檻はサカイにだけ触れることができるらしいから、足の置き場に気をつけるように、とボクは注意を受けた。


 ここで止まれてよかったよ。

 オーメンを待つだけの時間が生まれたから。


 檻の扉のあたりから、へろへろと上昇してくる黒焦げの仮面がある。どうして黒焦げなのやら。


「こっちだよ……!」

(も~無理ぃ~)


 へろへろのオーメンは、檻の金具に少し触れてしまい「アンギャー!」と声を上げた。

 な、なるほど。触れちゃったらああなるわけね……。

 オーメンのことが心配だけど、特殊金属で作られているらしい仮面だから、生身の人間ほどのダメージはないだろう。その証拠に、文句を言いながらまた上昇してきている。


 オーメンを胸に抱えて、コゲをはらってあげた。


「俺様よくやったと思わない!? 思うよな!? 本当に天才!!」

「その通りだよオーメン」

「リュウが言うならそうなんだろうな」


「……サカイ、こいつ、表情が壊れてやがんなぁ。でも、リュウを助けてくれてありがとうなぁ」


「別に、お前のためにやったわけじゃないから」


 ツンデレか。まさにぴったりな言動をしてるよね。


 とか、しょうもないことを思う。

 はーー、しょうもないって大事。

 まじめできつい出来事ばかりだと息が詰まるもん。


「さて、リュウとサカイ、おまえたち二人揃ったな。ここからどうすればいいのか聞かせてくれ」

「俺が力を貸してやるよ。どうしてほしい? どうすればいい?」


 二人がボクを見る。


 もうそれしか残っていないから、って君は言う。


 立ち上がったサカイは、背中にある翼を大きく広げた。

 コウモリのよう……というよりも伝承の悪魔みたいだ。おそらく魔界の幹部とかそういう類の。……魔王と呼ぶにはサカイのワンコ風の雰囲気をボクが覚えてしまっているので、なんだか似合わないや。


 ぷっ、とボクが噴き出す。


 サカイは(笑顔ってふしぎ)と珍しいものでも見るように目を細めた。


 こいつはきっと、ボクが一人では何もできないと思っているんだろうな。

 それ以上の思考を放棄してる。

 だから気付けていないんだ。


「ねえサカイ。ボクの仮面を見てどう推測する?」


「……? ……! ネコ、カブリ?」


 白の仮面はパッチワークのような模様に変わっている。

 あの憎たらしげな子猫の着ぐるみみたいな、ね。


 白の仮面は<コピー>。

 心を開いている状態のものから能力を借りる。

 もっとも、このコピーについてはネコカブリと仲良しなわけでもなく、裏技を使ったんだ。


「ネコカブリの力をここに映した。ボクたちはこの仮面を使って、ここから反撃をするつもり。パレードに乗り込み、サカイを解放して、ネコカブリの力を”悪用”する。作戦を叶えている途中なんだよ。負けてないんだからね」


「…………わかった。どうすればいい?」


「飛んで!」


 本当は風船で飛ぶつもりだったんだけどね。

 サカイが素直に協力をしてくれるなら、こっちにも都合がいいや。


 オウマさんがこっちを指差して爆笑している。

 あいつ協力プレイするはずないって言ってたのにさあー!!って感じかな?


 飛んで、いく先はパレードの先頭側。

 進む先には、ククロテア王国のお城だ。

 パニックにさせてやりたい。という復讐心がある。

 そしてその私欲よりも、みんなが逃げられるだけのパニックを起こすんだ、という理想を抱くように気をつける。

 やりすぎない。ちょうどよく。ガマンするんじゃない。将来ガマンしないために、順番に叶えていくってところなんだ。


 ボクは腕を大きく動かした。マリオネットを操るみたいに。

 するとフロート車の周りにいるピエロたちが、みるみる魔法に染められていく。


「……ああ、なんとなく感じられる。空気が変わった。リュウが何かしたんだろうな。成功しているか」

「うん」

「それはよかったな」


 魔法をかけながら上空をいく。


 緑の雷は、遊ぶみたいに、時々ボクらをかすめていった。


 力を使いすぎてうとうと居眠りしていたオーメンが、たまに雷の音にビビって「ひいっ」て目を覚ます。

 そしてネコカブリのフロート車の上も通過した。


 彼が起きたから、ネコカブリの能力は返還された。


 十分、使わせてもらったよ。


 それなりの使用に留めておかないと、ネコカブリの思想がボクに入り込んで、ボクの思考がどんどん過激になってしまうらしい。

 ムムリノ耳が生えたみたいにね。

 口汚い言葉が頭をぐるぐるしていたし、腐ったようなにおいが鼻にこびりついて気持ち悪かった。おそらくボクとネコカブリは、相性が悪い。アレを長時間使っていてはいけない。



「で、どうすんの?」


「パレードをもっとパニックにする。思った以上にオウマさんが活躍しちゃってるけどね……」


「みんなの視線はあいつに釘付けだな。それをリュウに釘付けにするつもりってこと? 俺を使ってくれてもいいぜ」


「君をマリオネットみたいに? ごめんだよ。君自身のココロで動いてほしいんだよね」


 サカイは、よくわからない、というように首をひねった。


 初めての事柄には、なかなか思考が進まないらしい。


 早く、君とまた、くだらない言い合いがしたいなあ。


 ボクたちは、パレードの先頭の上空までやってきた。


 白の仮面に戻っているけれど、ボクはまた仮面を染めようとしている。


 連続使用はきついけど、今度は相性がいいはずだ。



「サカイ。君の仮面の色……君の、ココロパレットを貸して。君はココロがわからなくなっている。でもボクは、サカイが周りを見て感じるであろうことを分かる。それを、お揃いの仮面を通してキミに返してあげたいんだ。

 君が持つべき、君自身のココロで、君が望んでくれるならこのパレードで暴れたっていい。その紫の炎は君そのものであるはずだから──」


 きっと君は、こういう展開に、ワクワクするはずなんだ。


 日本の病室でともに本を読んでいたあの頃に、クライマックスのページで盛り上がる君。

 その姿と、少し前の君から、君をまた見つけ出そう。



 ”ここに持ってきた爆弾花火カードは必要なさそうだな……”って、オーメンがほっと呟いた。





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