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47:緑雷と空中ダンス

 


 パレードの上空を風船付きドレスで飛行していたら、黒づくめの警備員に見つかってしまいました──。


挿絵(By みてみん)



 自分でも、なんだそのシチュエーションって思います。


 異常は日常ってものは、ククロテア王国亡骸サーカス団ではよくみられる状況だとはいえ。


「リュウ……リュウ……リュウ……」


 なぜだかボクの名前を連呼してる警備員。

 ボクに目星をつけられていた?


 黒のライダースーツに包まれた体は鍛えられていてボクの腕くらい一瞬で折りそう。

 緑の炎を纏った空飛ぶバイクにまたがっている。逃げ切ることはできないだろう。

 黒のヘルメットがあるからどのような顔つきをしているのかは分からない。

 恐ろしい雰囲気だ……。


 彼は、頭を”コキリ”と横に傾けて、そしてバイクをひと撫でする。

 バイクの胴体の部分がまたたくまに緑の炎になって、グルグル動くのは生きたドラゴンみたいだ。バイクのホイールに巻きつくように動いていって……火の輪くぐりの輪っかの緑版! バイク製! なんだこれ!?


 ああもう、変な武器をかまえちゃってさ、攻撃されそうな感じがするよね……。


「リュウ……リュウ……リュウ……」


「人違いですっ! 信じてくれる!?」


「リュウ」


 指さされてる。

 変装してるのにな。

 ごまかすのムリそう〜。


 彼は時々グググと体を震わせながらも、ふしぎと何か動くでもなく静止していた。


 今のうちに──ボクはどうする?


 迎え撃つか、逃げるのかといえば、そんなの一択しかない。

 迎え撃つ。

 逃げたって逃げ切れるのかわからないし、こんな格好してるけどかなり覚悟を決めてパレードに臨んだんだよ。

 ボクの目元がスッと引き締まる。


 ──ドレスの横側をビリビリと裂く。ドレスの内側に仕込んでいた”ジェット花火”のカードを全て発動!

 彼に向かって、ジェット花火はまるで弾丸のように飛んでいった。次のカードを手に取ろうとする。


 けれど、警備員が、緑のホイール二つをぐるりと回すと、その輪っかの穴の中にジェット花火は吸い込まれていって、消されてしまった。

 どうなってんの!? 

 ブラックホールみたいだ。


 魔法は”派手に出す”という性質のものを持っているピエロが多い。

 だからこそ、ナギサの回復や、ボクのコピー、などは珍しいとされている。


 この黒い人の能力は、消去とか──?


 バイクは魔法道具?


 考えが追いつかないことに焦るけれど、ボクが狙われている以上、こっちが対応しなくちゃいけない。


(オーメン! 作戦C、ボクが引きつけるから、君は、サカイの檻の鍵を開けにいって!)


 これがもっとも可能性が高いから。

 けれど、オーメンは予想外の動きをする。


 警備員と、ボクの間に、空中浮遊した。


(……!?)


 ボクが攻撃することもできないし、あっちからの攻撃は全てオーメンに当たってしまうじゃん!?

 これまで初対面の相手の前に出ていくことなんてなかったくせに。


 最悪の事態をおちょくるように、ドカーンとどこかのフロート車の大砲の空砲が鳴る。

 空気がビリビリとしている。

 今なら叫んでも目立たないよね。


「引いてよオーメン!!」


「……オーメぇン?」


 明らかに攻撃モーションに入っていた警備員が、ピタリと止まった。


(……どうして?)

(ごめんなリュウ)

(何かあるんだね。あとで説明してよ! 君のココロは分かるよ……謝ったのは、ボクを裏切ったからじゃないんでしょ?)

(そう。説得してみせるから待っててくれ)


 いや無理では。


 警備員は体から緑の炎を噴出させて、まるで人外の燃える男のよう。

 これ、"オーメンに"キレてない?


「そう、俺様はオーメン!」


 明言しちゃったよ……。

 あーあ。

 キミにキレてるみたいなのに。


「オーメン、オーメン、オーメン……」

「お前はさあ、オウマ、オウマ、オウマ。”オウマ”! 思い出せ! 自分のことを忘れさせられてんだろ? トラウマの常套手段だもんな」


「……う”う”う”……!?」


 オウマ、というらしい。あの警備員は。

 彼は、前進してきてオーメンにぶつかりかける。

 オーメンはバリアでしのいだみたい。

 そんなことできたんだ!?


 そしてボクは、ドレスの裾に燃え移った緑の炎に翻弄されているんだけど。消すためにばたばたとフリルを叩いている。


「オウマ、オウマ、オウマ!」

「……オウマ」

「そうそれぇ~~!」


 ぱちん、と黒い人が自分の手でヘルメットを叩く。

 あちゃー、というように。

 ……クールダウンした? 本当に説得に成功したのかな?


(このオウマというやつについて、リュウの頭に直接、説明するぞ。俺様の記憶をそっちに飛ばすから理解してやってくれ。時間がねーから許してくれよ)


(ーーーー!)


 キッツ……!

 頭が割れそうに痛むよ。



 見えたのは過去の二人だ。


 とある物置のある部屋で、オーメンが箱の陰から現れる。

 まるでボクと出会った頃のように。

 驚くオウマさんに対して、オーメンは聞き覚えのある誘い文句を口にした。

 オウマさんはきりりとした精悍な顔つきの少年姿で、頼り甲斐のあるアニキって雰囲気だ。

 オーメンがアドバイスをして仮面の能力を引き出してあげると、仮面がヘルメットの形になった。そして二人は意気投合する。


『オレもちょうどサーカスを壊したいと思ってたんだ、いいぜ』とオウマさんが言った。


 ところが……この二人は、マスターキーを手に入れることができなかった。


 オウマさんが優秀だったからこそ、重要施設に近づいたらいろいろなことを忘却して警備員だと思い込んでしまうような”トラウマの魔法”がかけられていたからだ。


 おそらくオウマさん自身には、守るということにトラウマがある=守りきれなかったものがあったのだろう。


 オーメンは彼との協力を諦めた。

 姿を消してしまった。


 オウマさんはそれから、彼独自の考えをもってサーカスの裏の裏で活躍をしていたらしい。どちらかといえば汚れ仕事だ。オーメンが壁などの隙間から、働くオウマの背中を眺めていた映像が、ボクにも共有される──。



 …………。

 二人が顔見知りだったってことはわかったけどさ。オーメンのしまったなって反省は伝わったけどさ。あのさあ。


 これ、オウマさんに恨まれててもしょうがないよ!


 これでよく前に出ようと思ったよね? オウマさんは話を聞いてくれたわけだけどさ。


 空気はいっそうヒリヒリしている。


 緑の雷がたまに轟く。


「思い出したよ、オーメン、お前のことも。今はそいつが相棒なわけ?」

「そう。あいつはリュウ、能力はコピー」


 オーメンはどうにも一度縁ができた相手を甘く見るところがあるからさ……そんなことまでオウマさんに教えちゃっていいのかな……。

 でも、興味を引き続けるしかない、という点には賛成だ。


 ボクは真下を見る。

 パレードの進行は止まっていた。

 つまり、大掛かりな芸をするプログラムに入った、ということだ。


 ここでサカイが”使われる”のではないかと、ヒヤヒヤする。

 おそらくメインストリートに辿り着くまでは籠の中にいるだろうけど。


 ズンチャ♪ ズンチャ♪ とパレードのリズムが変わってゆく。これはダンスだね。それなら下っ端たちの見せ場だ。フロート車の周りにいる引き立て役のピエロたちがくるくると踊る。


 ボクはぐいっと手を引かれた。

 ビュンと伸びてくるようなオウマさんの長い腕を避けることもできなかったよね。

 オーメンが壁になるよりも攫われる方が早かったです。ちくしょーう。


 風船と腕力の浮力にひっぱられてぶわりと回る。ズタボロのドレスに、引きつった顔のボク。

 ボクを引っ張っている、ヘルメットの向こうの彼の顔は見えない。


 オーメンはきょどってる。仲間に入れて!?とボクの頭にひっついてきた。


 頭を横にブンと振って、いったんオーメンを引き離した。

 オウマさんが恨みを持っていた場合、ボクの頭がかち割られる危険性があるので……。


(……あのね? いったんオウマさんの攻撃が止まったから、それについては感謝してるよ?)

(リュウ~~! お前ってやつは~~♪)

(キミってやつはだよ。本当に)


 二人はともにいた時間が短かったうえに、マスターキーをとる前に解散してしまっているから、久しぶりに会ったにしても協力姿勢は望めないだろう。

 そうなると、交渉には工夫が必要だ。


 くるりと回るダンス。


「初めましてオウマさん。ボクからのお願いです。キミが正気を取り戻した対価として、ここを見逃してほしいんだ」


「……何をやり遂げようとしている?」


「それが判断材料に加えられるなら、簡潔にいう。オーメンと出会った時のあなたが願っていたことと同じこと。警備役のあなたがどうしてボクらを捕らえようとしているのか、その”答えになること”を遂行するためなんだ」


 ”パレードを壊すつもり。”


 ボクはまっすぐに見つめた。


 オウマさんの返事は早かった。


「やってくれるのか」


(お? 好感触かも……)


 ヘルメットの前の方、瞳を覆っていた部分がなくなり、オウマさんの表情が見えた。

 "深い瞳"だ。呑み込まれそうな、という表現が似合う。

 ココロの格が違うのだろう。思わず手を引っ張っていってほしくなるような、そんな目力。


 引き摺られる前にボクはまくしたてる。


「たくさんの人を巻き込んできたんだ。ここで止まったらココロが壊れちゃうに決まってるから、ボクは進み続けますよ」


「自分勝手なやつ」


「そうじゃないとククロテア王国では生き残れないらしいじゃん。だったら、ボクは恥ずかしくても情けなくてもズルくても、ココロを誤魔化さない」


 ──ふん、とオウマさんが笑うと、鋭い牙が覗く。犬歯というよりももっと凶暴そうな。

 ああこれ、嫌がられてはいないだろうけど、けして好意的には見られていない。

 手段として有効そうなら使ってみてやろうかな、って見定める上から目線。

 ピエロを見る観客のような残酷さだ。


 でも、目的に沿ってくれるならどうみられたって構わないよ。


 ──よくもオレと目を合わせても正気を保てるもんだ、って彼は呟いた。


「オーメぇン。こいつ、言霊に偽りがなくて、感覚を正確に自覚できてるし。やるじゃん」


「そーだろそーだろ。ま、俺様がリュウを育てたっていうよりも、もともと素質があったんだけど。俺様が育てられたやつなんていねーもんな……やっとその辺、分かったっていうかぁ……オウマも好き勝手やるしさぁ……俺様これでも苦労もしてんのよ……」


 そういえば、オーメンとオウマさんが組んでいた頃、動き方はバラバラだったっけ。

 どちらかといえばオウマさんにオーメンが振り回されていたのかな。


 他の子とペアになろうとした時にも同じだったのかも。

 ボクは引っ込み思案の落ちこぼれで、策を練ってコソコソ動くタイプだったから、たまたまオーメンと上手くいった例なのかもしれない。


 それならオーメンがたまたまボクに執着したことに説得力も……。……やめよう。そういうカテゴリに分ける以前のところで、オーメンはココロを開いてくれたような気がしているから。

 ボクはオーメンとの会話が心地よかったんだ。

 それでいい。


「サカイがリュウのことを言ってたんだよな。弱くて支えなくてはいけない気にさせる奴って」

「そう。じゃ、ボクがサカイのこと助けてやって仰天させたいね」

「そうは思えない奴だなって、今、思ったんだ! ははは!」


 オウマさんは満足したようだ。

 いや、ダンスで繋いでる手をギギギ~っと掴まれると痛いですけど。


「自尊的になってるピエロは強いもんだが、よほど意思がココロに同調してないと離れていくもんだよ。それが自尊的ってやつだから。まだわかんないか、ぽかんとした顔しちゃってさ。お前たちが、相棒になれたのは貴重だぜ」


 オウマさんは笑う。

「捨てゼリフだ」ってオーメンに言う。

 オーメンはなぜだか震え上がっているけど、さっきの軽率な行動は反省するべきだし、いろんな実力者に"助けてって言ったのに離れた"代償だと思うよ。



 ジャン♪♪ という音とともに、ダンスミュージックが切られる。


 そして、止まっていたパレードの行進が、再開した。



 とてもタイミングが良かったな。ボクたちはなんとか話し合いを終えられた。


 クスクスクスクス……楽しげな観覧の声が妙に近くに感じられる。


 オウマさんが下を指差した。


 幹部のフロート車群が、とっておきの芸を始めたみたいだ。巨大な薔薇が花束のように狂い咲いたり、道路にはみ出たツギハギだらけのヌイグルミが目立ちまくって踊る。


「じゃあ、やり遂げてもらうぜ」


「!?」



 黒焦げのドレスがひっぱられて、スポーーンとボクが下に飛び出た。(※白黒ピエロ服を着ているのでセクハラではないのですが)落下…………。


(うわああああああーーーー!?)



 真上を見ると、オウマさんはそのまま着用者もいないドレスと狂ったように踊り続けていて、緑の雷をまとい、空を賑わせている。

 鉄砲の弾がバンバン飛んできてもおかまいなしだ。あっちに攻撃が集中している。

 なんてやつ。

 庇われたのはわかるけど、あらゆる意味で、なんてやつ。


 ドレスを壊しちゃったな。ナギサにはまたボクからドレスを贈ってあげたい──。


 これは走馬灯じゃないんで、日和ってないんで──。



 ふと浮遊感が止まる。

 受け止められるような感覚には覚えがある。


 ボクを支えていたのは、サカイだった。

 暗い目でこっちを見下ろしていた。


 籠の鍵は開いていた。



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