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45:サーカス・パレード

 


 パレードが始まる。


 パパラ・パララ・パラッパ・パーー!

 パパラ・パララ・パラッパ・パーー!


 けたたましいラッパの音が広く響いた。

 そしてフロート車(キャストが乗る華やかな装飾が施された車両)が連なって現れる。


 大輪の赤い薔薇が山盛りになり、玉座のような椅子が作られているフロート車──。

 青く燃える炎がひゅうひゅうと周りを舞いハロウィンのような雰囲気のフロート車──。


 そして踊りながら周りをゆくピエロたち。


 巨大なサーカステントから、とっておきのショーマンたちが惜しみなく吐き出されていった。


 ひとつ現れるごとに歓声は惜しみなく、ショーマンを華々しく包んで逃げられなくしてしまう。

 もっとここで歓声を浴びていたい!

 そのためには疲れた体を動かそう!

 なんて素晴らしい職場だろうか!


 ……というところかな。

 痛いくらいによくわかる。みんなの目はすでに正気を失っているように見えた。マンガに例えるならぐるぐると渦を巻く状態異常の目つき──。



 ボクはリュウ。

 ボクは、リュウというピエロ、ではない。

 ボクは、ピエロ業をやっているだけのリュウ、という人。


 きちんと尊重されるべき、一人。


 ──よしっ、見失ったりしない。


「行こう、オーメン」

「きゃーっ"似合ってる"うーっリュウくーん☆」

「怒るよ?」

「ごめんなさい」


 全速前進だぜ、とオーメンはきりりとした声を出した。


 ボクたちはといえば、上空にいる。


 ふわふわと浮かんでいる。


 サカイのような翼を持っているのかって? とっておきのカードは遺体安置室で使ってしまいました。


 だから、ボクに風船をいくつもくくりつけて浮かんでいるんだよね。


 オーメンがたまにカードを使って追い風を作ることで、思い通りの方向に進んでいける。


 服装は派手に!!

 落ちこぼれピエロなんかじゃなく、まるでパレードに招待されたショーマンかのように騙してしまおうという作戦です。


「ほーんとみんな気付かねーな。オッケーオッケー、コレなら紛れられるって予想通りだなー!アカネの見立てに間違いはなかったぜ」


 ドレスなんだけど。


「……ドレスなんだけどね……。可愛すぎて恥ずかしいよ? コレ、絶対アカネの趣味でしょー!?」


 彼女は可愛いものがお好き。

 ボクに対して比較的優しくてサカイにやたら厳しいのも、可愛い系なのかカッコイイ系なのか、という基準のせいだと推測してる。おそらく当たっているはずだ。


 ボクが来ているのはプリンセスドレスでーす……。

 裾や腰のリボンがひらひらとするのが可愛らしい。ふっくらしたパフスリーブ?の袖だとか、パニエだとか、そーいうものがあるので、もしも目撃されたとしても「空を飛ぶフリル」としか認知されないだろう。

 目隠しの意味があるからと大真面目にアカネはのたまった……。無表情であの強情な推しはちょっと怖かったよ……。


 倉庫の奥底から引っぱり出されたこの衣装は、元はといえば、ナギサのために作られたものらしい。

 けれどナギサは舞台事故にあったせいで、この衣装を着られない体になってしまったのだとか……。


 この衣装はボリューミーなフリルの中で手足を動かすためにコツがいる。

 それほどはナギサは関節を動かせないそうだ。

 だから、貴重な回復系能力を持っているにもかからわず、役立たずなんて言われて(あーもー代わりに怒ってやりたい!)、古めかしいアンティークのドール服をいつまでも着させられている。


 この服は、悲しいくらいにボクにぴったりサイズだけど、でも、ボク本来の力が出しづらい。


 幹部のトラウマが仕立てたものらしいから、対象のピエロにもっともよく合うように、魔法科学による回復魔法補助の衣装になっているそうだ。


 ボクがもつ能力はといえば、環境観察。それを反映コピー


 というわけで、下にはいつもの白黒服を着用している。


 オーメンは「リュウの場合は白の仮面が能力を補ってくれることだし、イイジャン?」と励ましてくれた。

 専用の衣装なんていいな、って気持ちの名残が現れていたのかな。


挿絵(By みてみん)


 まあボクが”与えられない存在”だってことはこれまでにも当然だったから。

 あるものを活用して、その時の最善の結果を出していくのが、ボクらしい生き方だ。ブラック企業体質に取り込まれやすそーだなー……。


 皮肉げに笑っていたらしい。

 オーメンが察し、ツンツンとボクを仮面の端っこでつつく。


「そうやって”あがく”ことはすごいんだぜ。ってリュウと組んでから知った。俺様はもともと優秀な奴とばかり組んでいたけど、いや~成長を見越すべきだったよな~。リュウ、頼りにしてるっ」


「死亡フラグのようにものごとを並べ立てるのやめて?」


 いつもの軽口で、いつものボクたちを保ったまま、行こうね。


 ボクらがやるのはまず、幹部連中の気を逸らすことだ。

 予定通りに周りのピエロを使い潰させたりなんて、させない。

 予定通りにサカイを道具にさせたりなんて、しない。


(人のココロはままならないな。そうして大事な事が増えるぶん、あれもこれもしてやりたくなって、やるべきことに足元を引っ張られるものだな。欲望に沈まされないくらいのチカラがいるし、できるのかなって怖くなるよな。

リュウがドリームジョーカーになってくれ)


 ? オーメン、なにか言った?


 でもここは下に集中する。


 一つずつ、確実に。


 頭の中のタスク表の一番上に、チェックマークが書かれてくイメージで。


「いくよ」

「……ン!」


 まずは、ユメミガチのフロート車の下の方に、小さな爆発を。


 ドカン!!


「きゃーっ! あ、あっはっはっはっ……ほほほ……」


 高笑いしてごまかしているけど、あれは相当焦っているはず。

 己のパフォーマンスを持ち直すのに必死みたいだ。

 周りのピエロたちへの注意がおろそかになっている。


 ここでオーメンの仕掛けを発動させる。


 天から金の紙吹雪を舞い散らせる──。


 それは、いつまでも漆黒のクロロテアの夜空から、このときだけ星が降り注いできたかのように。


「「「ココロのカケラだ!!!!」」」


 クロロテアの国民──観客は踊り狂いながら、それを浴びる。


 パレードの目玉といえばこれ、なのだそう。

 アカネが目撃例を語り、オーメンが支度風景を眺めていたことで、予想をつけられた。


 いつもは目に見えないくらい微細なココロの削りかすを浴びるのが、サーカスショーの客席だとすれば。


 目に見えるほどにきらめくココロが降り注いで、それを浴びるのがパレードのお楽しみ!ってわけ。


「……けれど残念、これにはボクらが用意した幻覚”も”混ざっています……」


 ボソッと呟く。


 少しだけど。

 少しでもこの状況への”反骨心”をのせて。


 これがニセモノだって観客が気づいて怒ってくれたら、もっとよかったんだけどな。幹部たちが観客の様子に驚いて、注意がおろそかになっただろうから。


 けれど観客はむなしく群れるばかり、ニセモノのココロのカケラでもありがたがっている。


 ああ、イヤな気分だな。


 ピエロを消費してまで欲しかったのはココロの方じゃないの?

 騙されてしまう程度のちっぽけなもののために、ボクらは消費されていたの?

 やるせない……。…………。


 クスクスクスクス。

 クスクスクスクス。


 笑い方が響いている。

 でも、パレードの終わりまでこのまま愉しく、なんてさせないから。


「あれ? なんだこれただの金の紙ジャン……」


「!」


 おっと、気づいたのは誰?


 魔法カードのウサミミアイテムにより、さらに聴力を上げる。ボクのいる上空にも声が届く。ウサミミドレスコスプレになりましたが、そんなこと気にしてる場合じゃない。


 ネコカブリ!

 仕掛けに気づいて紙切れを凝視してる。

 けれど予想通り、スルーした。ホッ。


 なんなら「金の紙切れを混ぜて、貯めといたココロの節約なんて考えたやつって天才! 団長に褒められるやつジャン! くっそーボクが思いついときゃよかった~!」なんて言ってる。


 サーカスは個々人がバラバラに動きがちな組織だ。

 誰がどんな仕掛けを用意しているのかなんて、把握しきれていない。

 唐突な紙きれ吹雪に気づいた幹部たちも、ただただラッキーだと、もしも怒られるなら企んだやつなのだからと、紙吹雪を己の演出に利用しようと躍起になっている。


 扇を広げて紙吹雪を浴びるユメミガチ。


 紙吹雪に戯れるようなかわいこぶった仕草を見せるネコカブリ。


 みんな、空は見上げない。


 ボクたちはふわふわと風船に捕まって動く。


 まさしくカオスそのものなパレードを空高く通り抜けていく。


 正面突破、まるでパレードの一員になったかのように溶け込んで、その実はパレードをめちゃくちゃにするために。すっごく悪い裏切り者みたいだね。いい奴なんて思われなくてもいいから、やろうと決めたことを達成したいんだ。


 ──今度こそ、サカイが閉じ込められている檻が見えてきた!



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