表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/70

31:アカネの魔法

 


 ボクたちは転移の鏡を動かし、そしてスリープモードにすることに成功した。

 ”失敗作”がこっちに攻撃をしかけてきたけど、泡で包むという水の魔法でアカネはボクたちを救ってくれた。



 こっちは泡の中。

 守られているけれど、動くこともできない……。


 アカネは泡の外。

 無防備な姿で、ビームを出したりする強力な”失敗作”に向き合っている──!


「アカネ、危ない!」

「知っている」


 失敗作の動き方はクラゲみたいだ。ゆらゆらとつかみどころがない。そして急に加速して、体当たりをしかけてくることもある。


 アカネは自分も加速してから、失敗作をブーツの裏でとらえる。思いっきり膝を曲げてから、伸ばして、その衝撃でなんと失敗作の方が後ろに下がってしまう。

 強力!


 喜んだのもつかの間、失敗作のビームが飛んでくる。

 アカネはそれをかわすけれど、前に比べて動きが鈍くなっている。


 そりゃあそうだよ。

 失敗作はいわゆる魔法道具に近しいもの、魔法科学を前提にして魂を素材につくられた、疲れ知らずの兵器なんだから……。


 ムムリノベルの仮面をつけてあの失敗作を見ていると、恐ろしさがこみ上げてくる。

 緻密に張り巡らされた魔法科学の導線が、血管のようで、すでに死んでいる魂が無理やり脈動させられている。なんて醜悪なつくりもの。


 対して、アカネは生身の女の子だ。

 身体能力を魔法で高めているとはいえ、その顔は蒼白で、唇をかみしめて血が滲む。


「お、おい、リュウ。あんまりムムリノベルの仮面の力を使い過ぎるなよぅ? お前の思考がネズミになっちまうからな?」


「オーメンわかってる。心配してくれてありがとう」


「あーあ。これ聞く気ないわ。リュウだもんな。……じゃ、お前は、失敗作の方を見てな! アカネのこと心配しててもこっちから手出しはできねえ。けど失敗作の弱点を探るくらいはできるだろ?

 ”廃棄仮面”だ! 魂を基にして作られた失敗作には、廃棄仮面っつー”仮面の成れの果て”があんの。それを探して壊してもらうしかねえ」


 オーメンそれナイス!


 ボクは目をこらして上を向く。

 足元がぐらつかないように、しゃがみこんでまで上を向く。

 サーチカメラにでもなったような気分だ。でもアカネの助けになりたい。


「……私は、失敗作から逃げるつもりだった。これまでのように……」


 アカネの剣の一閃。

 けれど入りが浅かった。


「……けれど、ずっと壊してやりたかったよ。失敗作。死体が揺蕩うようなお前はひどく悲しいものだったから……」


 アカネはもう一閃。

 これはかわされた上に、ガツンとぶつかられた。


 当然強度負けするアカネは、鼻から鼻血が出ている。

 それを拭う。


 再接近してきた失敗作を【ホルンの泡】で弾き返す。

 アカネが魔法カードを使ってホルンを表すと、そこから出た泡は失敗作を強烈に押し返した。


 二人の距離が開いた。


「……今日は”逃げないことにできた”んだ。お前を壊す……!!」


 アカネは自らの仮面に手を添える。

 アカネの周辺がかがやくような青色に染まり始めた。

 彼女の魔力が溢れているんだ。溢れた魔力にコーティングされたように髪の毛はさらに青く、仮面が海の水面のようにきらめく。


 これがアカネの本気──!!



挿絵(By みてみん)



 ー~ it’s show Time! ~ー



 サーカスショーであればこんなアナウンスが聞こえたことだろう。

 観客がワーっと声をあげて、アカネにはスポットライトが当たったことだろう。


 けれど彼女は沈むように静かに光り、水流にまきこまれたかのように自然な流れで動く。

 誰も見つけてくれないような暗闇の中だからこそというような光。


 パチン! 彼女は指を鳴らす。


 失敗作の周りに、万華鏡のような多重に映す水の壁が生まれていて、アカネはその隙間をマーメイドのように移動した。

 スラリとした細身の足が泳ぐ。

 それでいて何度も繰り出される剣は、残酷なまでに鋭い。


 ボクはココロを奪われてしまうかと思った。

 こうして観客たちもショーに魅せられてゆくのかも。


 オーメンがボクの仮面の上に重なってくるというイタズラをして来て「ぎゃー脳が混乱する!」とショック療法で正気を取り戻すまで、アカネに目が引き寄せられていた。

 正気に戻してくれてありがとう。このやろう。


 かなり弱ったのであろう失敗作は、悪あがきするように体を暴れさせて、水の壁を何度も壊した。


 そのたびに、妙にキラキラとしぶきが飛び散る。


「……!! アカネ、覚悟決まりすぎだぜ……」


「どういうこと? いや待って、分かるよ。うわ……アカネってばココロを削りすぎてる!」


「仮面の魔法が強力なのは、ココロを消費しているからさ。情熱とか執着とか強いココロ、あるだろ? それをありったけこめているから、惹きつけてやまない程の魔法になる」


「ボクだって」


「しかも他人に共感させる働きがあるんだよな〜! おい。ばかばか。廃人になるなよリュウ!?」


「冷静にね──。落ち着いて──。ええい、ちょっとだけネズミのつもりで──。……見たい見たい見たい、見えた!」


「ピエロって結局こういうところがある!」


 オーメンも騒がずにはいられなかったんだろうな。

 視界の隅でぐるぐるしていられると思考が散るから、ムムリノベルに持っていてもらった。


 …………っアカネの水の壁が崩れた!


 失敗作の最後の悪あがき?

 けれどシルクハットの先端がぶった切られていようが、衣装がズタズタで内側の導線がこぼれてきていようが、アレは命令通りに動き続けるだけだろう。


「アカネ。尻尾の裏だ!」


「なに?」


「失敗作の廃棄仮面がそこにある! 壊して! そうしたら修復されることなく、壊れてくれるはずだから……!」


 魂を壊す。


 なんて酷い響き。


 でもやらないよりも、やる方がまだいいって、今のボクの倫理観が叫んでいる。


 解放してあげよう。



 アカネは小さく笑い、とっておきの魔法カードを取り出した。


「終わりにしよう」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ