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21:幹部の会議

 


 ──サーカス内のとある秘密の扉をくぐった先。


 0.5階分をひそやかに登って辿り着けるところには、宝物庫があった。


 サーカス団に捧げられたすばらしい衣装、とっておきの装飾品、手紙などが飾られている。ギラギラと光るそれらは、薄暗い室内で浮かびあがるように存在感を放った。


 複数人が部屋にいる。



 半数は、なめるようにガラス棚の中の装飾品を眺めていた。

 ここに来るたびにココロを奪われる。これらの装飾品をいただくような幹部になりたいのだ、と切望する瞳は宝物と同じようにギラギラとしていた。


 半数は、そんなものたちを冷ややかに横目で見て、無視をする。

 ここに来るたびに気持ちが引き締まる。このような平民丸出しの中級者、下級者になってたまるものかと……。

 幹部であっても足元はおぼつかない。昨今では賄賂を使い入り込む中級者などもおり、全員が暗い目をしていた。


「幹部の会合を始めましょう」


 ピシリ! と鞭が鳴る。


「始められるかあーー!?」


 ネコカブリが、縄で縛られながら、ビョンビョンと冗談のように高くはねた。


 着ぐるみの丸みのある足の部分に、バネでも仕込んであるのかと思うような高いジャンプ。事実、ネコカブリの体は仕込みだらけである。と、それはひとまず置いておいて──。


 ざわざわとした幹部の声が、ぶきみに広がった。


「エクストラショー・モンスターバトル。今回のものは特に気合いを入れたショーなので大いに期待されていた」


「チラシも多く擦って、たくさんの経費をかけていたし」


「観客席チケットも久しぶりの完売御礼」


「大きな舞台。頑丈な結界。目玉のスウィートテディも使うのだと周知されていてね」


「売り出し中の上級ショーマンを苦戦させて」


「足を引っ張った下級ピエロはフィナーレで殺してしまう!!」


 ざわざわ。ひそひそ。


「…………というシナリオだったはずだけれど?」


 シン、と静まる。

 ピシリ! と鞭がしなり、ネコカブリに向けられた。


「舞台が終わってみれば。予定とは程遠く、二人ともが手を取り合い、生還して、スウィートテディは炎上、客席は水浸しですってえーーー?」


 予定から外れたこと。

 上手く動きすぎるショーマンが現れたこと。

 安定を望むのに、それ以上に下剋上を望むのに、部外者が、足元を崩そうとしてきている不安が全員の胸を掻きむしりそうだ。


 一人、皮肉を口にした。


「ネコカブリ氏が手出しまでしてこの有様、ププ…………いたああああっ」


「ガルルっ」


 イライラしたネコカブリが、幹部の一人に食いついたのである。改造されたシルクハットが開くとガイコツの人形が飛び出していったのだ。

 ぎゃあああ、と転げ回っている負傷者のことは全員がスルーする。


 そこで這い上がってこれないようであれば、それまでの実力だ。

 一人減ったら、また一つ席が空く。

(自らがもっと上に行くためには、あいつが落ちぶれてくれた方がよい──)


 やっと立ちあがった負傷者は注目を浴びたが、向けられる眼差しは友好的なものではない。周りからの好感度は、彼が生き返ったことによりダウン・マイナス。そのまま死んでいたほうが幹部全員に好かれたのであろう。



 ピシン! とまた鞭が鳴る。


 斬りつけるような音は、多くの幹部の姿勢を正させる。

 幹部にのしあがる前に、その身に鞭を受けたことのある者がほとんどだ。音に逆らってはならない、と骨の髄まで刻まれている。

 たちどころに鞭を持つレディに注目が集まった。


「うるさいわ。──前提は全員わかっているようね。

 では、当事者に説明してもらいましょうか。幹部全員が納得できるようにしないと許さないわ。ネコカブリ!」


「はーーーぃーーー」


「ええい、気の抜けた声はおやめ。舞台に立っていたものでないと分からない感覚を思い出しなさい。なぜ、あのような結果に”なってしまった”と感じるの? 何かあるんでしょう?」


「クソマジメ」


「バカネコ」


 二人は睨み合う。

 似たような時期に幹部になったため比較的気安い間柄なのだ。

(そのせいでアイツがボクに甘い、なんて噂になっても癪だしなー。仕方ない、言葉を選ぶか)


 ネコカブリは配下のぬいぐるみに命じて、樽型の椅子を運ばせるとチョイと乗っかり、足をプラプラさせながら話し始めた。


「あのNo:──長いな、サカイというのが暴走したことがケチのつけ始めだった。

 舞台に出てすぐに目立つ行動をし始めたから、ああやる気があるタイミングかなって嫌な予感がした。奴のこれまでのショーは、登場時に地味ならば徐々に盛り上げていく。登場時に派手ならば序盤に終わらせようとしやがる。あーあ、憎々しくも後者だった」


 ネコカブリはぬいぐるみにメモをめくらせながら話す。


 研究することはネコカブリの習慣だ。とっておきのモンスターを映えさせるため、事前予定と復習までも、自らの創作のうちだと努めている。


 ネコカブリは狂っているが、マジメな点があるのは嫌いじゃないからと、ユメミガチがメモの仕方を教えた。

 今回のイレギュラーは、ユメミガチにとっても屈辱である。


「序盤にサカイは仕掛けてきたから、ボクが介入してまでも、あいつの特攻を終わらせようとした。けれど、問題発生さ、足を引っ張らせるピエロ役にと選ばれていたリュウちゃんが、可愛くてだなー!」


「ヲイ」


「可愛いリュウちゃんに翻弄されてしまった結果ぶっちゃけボクの介入は遅れた。まあこれはしかたないだろう」


「しかたなくないわ! でもまず続けなさい、バカネコ!」


「リュウちゃんが意外にも”賢かった”んだよ。サカイのやろーと協力プレイを始めやがった。ボクは気づいてたよ。あのピエロは、他のピエロとは違うようだ」


「おまえ……目が曇ってるわ。ピエロが賢い? そう言って、見目がキュートタイプのピエロを裁縫用に持っていきたいだけじゃないの。前科が多いのよ!」


「本当なのにぃー!? ちくしょうボクの日頃の行いのせいでっ! まあ聞きなよ、サカイとリュウちゃんの協力プレイはありえないことだったんだよ。

 ボクは以前、能力相性がいいアカネちゃんとサカイをステージに立たせたこともあったけど、サカイはワンマンプレーでアカネちゃんの見せ場を台無しにしただけなんだぜ。そのせいでアカネちゃんに嫌われてるのは笑っちゃうよね〜。

 まあ……クラウンとも共闘しないサカイが、ピエロと協力をしあっていたんだよ。これは怪しいとボクは思うね」


「あやしい、ねえ」


「恋仲?」


「ばかばかばか。ヤダヤダヤダ。リュウちゃんが死体になったらボクが貰うからね!? リュウちゃんは魔法の技は全然使わなかったけど、ピカピカ光るくらい魔法カードを使ってて、それが妙にうまかったんだよ。運がいいピエロだったのかな。けれどそんなことなさそうだろ。サカイが助けてやらなかったら一つ前のステージで死んでいた」


 ネコカブリはメモをめくる。

 言葉は乱れていても、行動は冷静だ。


「あの子らは同郷だからジェスターのサカイがそういう行動に出ることはありえるよね。アカネちゃんもそういう時があったしね。思うに、愛され属性なわけだよ。そしてそういうピエロは周りを巻き込む。とてもステージ映えするよね〜」


 幹部たちがペロリと舌なめずりをする。

 愛され属性とされるピエロは、洗脳されていても、まるでココロが豊かであるような言動をする。

 するとそれを"懐かしむ"ように、ジェスターやクラウンが世話を焼き始めるときがある。

 自分のペースを保てなくなり、ジェスターでさえ負傷続出、ステージは大荒れになる。


 そのようなステージはとても盛り上がって面白いし、観客からのウケもいい。


 さらに、幹部が愛されピエロを操ってやれば舞台丸ごと征服しているようでたまらなく満たされるのだ。


 ナギサは、ネコカブリがその所有を主張している。


 であれば、リュウは思いがけず狙い目だ。


 しかし、大富豪に次のステージを所望されたため、サカイとともに「休憩中」とされている。


「チッ」


 ユメミガチですら舌打ちをした。


 ネコカブリは声を魅力的に響かせてゆく。


「サカイは共闘を経験し、リュウちゃんは生き残りを経験した。要領を掴んだショーマンは化けていくぜ。きっとこれからのショーで思いがけない技を見せるのだろうし、固定客もつくかもしれない。チケットの売り上げノルマ的に美味しいよね。

 しかもリュウちゃんは……。


 ”ちっとも仮面を成長させていなかった! どんな力が生まれるのかボクにも想像ができない! 狙い目かも!? ドリームジョーカーかもしれないね!”


 そんなのを押さえることができたら最高だね。……しまった喋りすぎちゃった」


 ネコカブリはステージの広報のように喋った。

 するとネコカブリの声の抑揚に合わせて幹部たちは”ぞくり”とした。


 すでに仮面にココロを移していて動揺などありえないはずの、幹部たちが!


(あっ。ネコカブリのやつ、あんなふうに煽って、他の幹部がピエロを捕まえようとしたらルール違反で縛られる。ピエロを使い潰してしまったら死体はネコカブリの素材にされる。全部が自分に都合のいいように話したのね。

 情報を共有してくれる幹部として、あいつが慕われるようになったらまた厄介事が増えるだろうし……!)


 ユメミガチは思考を巡らせる。

 なにか、ネコカブリの株を落とすようなこと。


「…………。…………。……それで、ショーの失敗の原因を一言でまとめて頂戴?」


「リュウちゃんが黒髪清楚系美少女だったってコトッッッ!!」


 ムキーーーー!! とネコカブリが床を転がりながら暴れ始めた。

 ネコカブリのダメな特徴を晒すための「まとめて」であった。

 付き合いの長いユメミガチの一本である。


 あまりの錯乱ぶりに、幹部のほとんどは我にかえる。このネコカブリを盲信するのは危険だ、とココロの距離が離れていった。


 情緒不安定なものの下につけば、いずれ自分たちの足場も危うくなる。そそくさ、とユメミガチの後ろにつくものが増えた。


 ユメミガチは満足そうに鞭を丸めた。


(それにしても。協力ねえ……)


 ひとまとめにはなったのだから、あとは上司に話を通すという段階になる。



「団長は何か、知っていますか?」







サーカスポスターの挿絵に幹部の姿があります!

そちらをご覧いただけると幸いです。


ここでは暗くて各人の様子が見えませんからね。

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